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第4話 騎士、魔女の事を考える。

黒髪の騎士が魔女の家を訪れて、すでに1ヶ月もたってしまっていた。

自分に言い訳するがそれはもう、とても忙しかったのだ。


『魔女』の存在が気になりながらも、あの言い分の違う書類の事が気になって、自分なりに調べていたからだ。

薄っすらと聞いたことのある、150年前の『おとぎ話』についても。


自分は魔女とは無縁の小さな村で育ち、騎士の勉強がてら小耳に挟んだ程度の認識でしかなかった。

魔女が本当に存在するとは。


童話の世界から抜け出たような人物。

本当に黒っぽい服と、ツバのある三角形の帽子をかぶっていた。

帽子は家の中でも、だ。


まるで始めて国の王に謁見した時と同じ、有名人に会えたぐらいの感動が湧き上がっていたのがわかる。


しかもまだあんなに小さな少女だ。

赤い顔して顔を隠していた。

一体あんな小さな頼りなく何もない小さな少女を、この街の住人はなぜ忌み嫌うのだろうか。


ラファエルは難しい顔をもっと複雑にして考え込んだ。


「なんすか副隊長?魔女について知りたいって。」


ひょこひょことラファエルの後をついて歩くのは、自分の部下となったニール・サーマン。

薄い銀髪にグリーンの瞳。少し幼い可愛らしい顔をしているが、自分より3つ下の18歳。

新人だがどこかの貴族の息子らしく、コネで入隊したようだ。

コネの割にはよく働き、腕もなかなか立つ。

同じ時期に第三騎士に配属されたのもあって、随分と慕ってくれている様子。


「……お前は良いよなぁ、何もしないでも出世できそうじゃないか。」


嫌味も親しみも込めて、ニールにそう呟いた。

ニールは無邪気な笑顔を照れ臭そうにして頭をかく。


「何言ってんですか!ヴァンス副隊長も4年で平民から実績を上げて爵位までもらって!

俺よりずっとすごいじゃないですか。

本気でね、憧れてるんですよ、これでも!」


全身全霊で自分に無邪気な尊敬を向けるニールをまぶしそうに見つめた。


「……俺はラッキーだったんだよ。」


まさにこの言葉しかない。

がむしゃらに小さい時から剣の練習に明け暮れていた。

たまたま村にいた爺さんが、昔城で騎士団長をしていたので、師匠には申し分なかったのだ。


いつか爺さんみたいな騎士になるのが夢で、爺さんの自慢話をまるで自分の将来を重ねるように毎日聞き入っていた。

親のない自分を本当の孫のように育ててくれた。

爺さんがいなかったら今の自分はないだろう。

爺さんがいまの自分を見て貰えるのなら、さぞかし喜んでくれるに違いなかったのだが……。


だが4年前のあの時、悲劇が起こる。


何もない村に突如盗賊が押し寄せてきたのだった。

しかも大きな組織だったのか、大勢の盗賊が山奥の小さな村に逃げ込んできた。


懸命に男たちは家族を守る為に戦い、自分も爺さんと一緒に剣を振るい加勢した。

だが人数には勝てず、たくさんの村人は力なくいなく、次々に倒れて行く中。


最後に自分と爺さんが残った。

爺さんも深手を負い、もう動けない状態だった。


そんな時爺さんは、自分に逃げろと言った。

もう他に生きているものもいない。

お前だけでも逃げろと俺に古い剣を持たせ背中を押した。


俺は嫌だと爺さんを背負い、一緒に最後まで戦う気で外に出ると……。


「……また懐かしい話をしてるのか、ラファエル。」


声のする方へを振り向くと、額から頬にかけ大きな傷を付けた大きな男が立っていた。


「……なんだよ今からいいとこだったのに、爺さんもう体の具合はいいのか?」


「え、爺さん死んでないんですか!?」


ニールが驚いて声を上げると、爺さんと呼ばれた男はニールの背中を力一杯叩いた。


「勝手に殺すんじゃねえ!俺は生きてるぞ!あと100年は死なねーよ!」


そう言いながら豪快に笑った。

ラファエルはその様子を微笑ましそうに笑いながら見ている。


あと100年生きるのは不可能だ。

妖怪にでもなる気か。

そんなことを考えながら、それを悟られないようにスルスルと爺さんから離れていった。

ニールに関しては背中の痛さに涙目で蹲っている。


「爺さんが元々ここの第1騎士団長だったんだよ。それで引退して村にこもってたんだが、盗賊事件でほぼ全部一人で締め上げちゃったからさ。

元々爺さんこっそり爵位持ってたらしくて、その功績を認められて爵位が上がっちゃったわけ。

んでついでに俺も養子にしてもらったしで、ラッキーな事に俺にも爵位がつきましたとさ。」


机に広げられた書類をかき集めながら、オチを話して行く。

ニールはまだ涙目で、よろよろと近くのソファーにうなだれた。


「それでも盗賊事件は騎士団の間でも有名な話じゃないですか。

爺さんと一緒にあんな人数の敵と戦うなんて……!」


「……この爺さんが化け物なんだよ……」


そっか妖怪ではなく、元々化け物だった。

あと100年は軽く生きそうだ。

良かった良かった。


妙に納得するように頷いていると、後ろから爺さんの掌が飛んでくる。

とてもスカッとする音と、ヒリヒリと痛む背中に、二発目が自分に来たことを悟った。


「いってえな!!」


叩かれた音と同じぐらいの叫び声に、項垂れていたニールが猫のように飛び跳ねた。


痛がるラファエルを嬉しそうに見ながら、爺さんは豪快に笑った。


「気合い入れてけよ、息子よ。

運もお前のチャンスだ。副団長で終わる訳じゃねーだろうな?」


豪快に笑いながらも、目が本気だ。

しかしこのジジイ何しに来たんだよ……。


軽く恨みがましく睨みつけながら、爺さんも目が本気なのを気になった。


扉を出て行くときにふともう一度目が会う。


「……お前、魔女には深入りすんじゃねぇぞ。

アレは厄災だ。お前の運を簡単に持っていってしまうからな。」


ぼそりと呟くように、念を押すように強い言葉を残して部屋から去っていった。


ラファエルは眉を寄せ背中をさすりながら唇を噛んだ。


「……一体なんなんだ、みんなして魔女が厄災だとか関わるなだとか。

深入りも何も、全く意味がわからねぇよ。」


調査を頼んでいた結果を目で追いながら、ニールがどさくさに紛れてソファーで微睡んでいるのを眺める。

小さく微笑みながらため息をつくと、もう一度書類に目を通した。


『鈍色の魔女トウの商売を許可する事は国に反する行為。元々はトウの祖母ウロのお店だったが、近隣の反対もあり立ち退き執行。魔女を街で商売させることを禁止する。』


書類の一部が目にとまる。


「なぁ、ニール。『鈍色の魔女』ってなんだ?」


ソファーでゴロンとなったままのニールが肘置きに頭を乗せ、ラファエルを見上げた。


「副隊長は本当に何も知らないんですね!

魔女は色で区別して呼ぶんですよ。魔女は特有の月と同じ色の目は一緒なので、髪の毛の色で呼ばれる事が多かったらしいですけどね。……そういえばなんであの子は鈍色なんでしょう。確か緑色してましたよね、深い。」


「……ああ、決して『灰色』ではなかったな。着ているものはニビイロに近かったが……」


ラファエルはそう言うとふと遠い目をした。

あの時挟んだ花はもう枯れてしまったのだろうな。

花瓶を持って行くと言ったままになっている事を気にかけながら、ラファエルは再び書類に目を通し始めた。

彼女は俺を待っていてくれるのだろうか。


ふと記憶に薄れ行く、小さな少女の姿を思い浮かべる。

そして同時に爺さんがいった言葉も思い出し、ギュッと眉を寄せた。


「あんな小さな少女を何故……」


そんな時、出動の伝令がラファエルに届けられた。

疑問は晴れないまま、ラファエルはニールを叩き起こし、仕事へと戻っていった。


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