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第39話 王族の家族とは。

ミラルドが白い大きな扉の前に立つと、静かに扉が開かれる。

扉を入ってまた広く短い廊下を進むとまた、扉がタイミング良く開いた。


「……失礼します」


うんざり感を隠す様に、深く頭を下げて中へと入る。


扉の先には白い大きなテーブルと赤く立派な椅子があり、そこには王と王妃、第一王子のアーサーが座っていた。


「……ミラルド。」


王が周りにしか聞こえない声で、ミラルドを見て手招きをする。


ミラルドはその招く手を見て、嫌そうな表情を浮かながら歩み寄って行った。

室内はランプは使わず、燭台の明かりのみとなり少し薄暗い。


王と王妃は隣同士に腰かけ、自分はその真向かいのアーサーの横に立ち止まる。

手招きした手はゆっくりとクルリと返され、椅子に座れという合図へと変わった。


静かに引かれた椅子に腰掛ける。


ミラルドが腰掛けると同時にテーブルに飲み物が運ばれてきた。


「……久々の親子で食事よの。

さあ、グラスを手に取ると良い。」


王が静かに掌を上に向ける。


『全て決められた合図だ。』


ミラルドはひどく鬱陶しい気分になり、グラスを持つのも怠くなった。


乾杯の合図とガラスの擦れる音に目を細め、クラスに口を付けずにテーブルに置いた。


そんなマナー違反も気にせず食事は進む。


「……食事をしにきたのではなく、話をしにきたのですが?」


ボソリと呟くミラルドの声に、表情を変えずに王がいう。


「……まぁ、そんな慌てる話ではないだろう。」


王はそういうと、運ばれてきた前菜に手を叩いて喜んでいた。


「父上、ミラルドは公衆の面前で魔女に魅了され、口付けをかわしていました。」


突然の発言に、ミラルドは強くアーサーを睨みつける。


「……あんな緊迫した状態でよくそう言えますね、『兄上』

魔女はうちの騎士の勝手な暴走で死にかけていたのですよ?

魔女が死んだら国は終わる。これぐらいは知っているでしょう?」


ミラルドの言葉に

アーサーが立ち上がろうとする。


それを見て王妃は眉を寄せ、アーサーに扇子をむけた。


アーサーは渋々席に座る。


ミラルドがアーサーを『兄』と呼ぶのは王の前だけだった。

それは『ゼロ』だからではなく、『ミラルド』だった時からそう言っていた。


ゼロはミラルドの記憶を引き継いだ時、ミラルドの気持ちも引き継いだようだ。

『ミラルド』はこの親子や兄弟を、とにかく嫌っていたようだった。


同じ空間にいるだけで、嫌悪感しか湧き出てこず食事が進まない。

だが王が喋るのを許可しなければ、ミラルドは発言すら許されないのだった。


王はよく言えば『マイペース』で悪く言えば『自分勝手』だった。

世界は自分中心に回し、妻も子供も発言すら自分のペースに持ってゆく。


自分が王だった頃に比べると、平和ボケと言われても仕方のないものだった。


王妃も控え目な妻だが、自分というものが無かった。

何でも王の言った通りに寄り添い、行動する人形の様な人だった。


それを見て育った第一王子もまた、こんな王を崇拝し母を敬う中身が空っぽな人間に見えた。


だからこそ、ミラルドは我が儘に育った。

何もできない王や王子に代わり、家臣や貴族たちをうまく動かし、厄介ごとを引き受け動いていたのだった。


この国で一番未来に絶望していたのは……『ミラルド』だったのかもしれない。


ミラルドは自分と融合した時、妙にあっさりと事態を把握し、体を自分に受け渡したのだった。

自分では出来ない『面白い世界』を『ゼロ』が創ってくれると信じて。


ひと通り食事が済むのを待っていると、王が片手を上げた。

うちで一番古い執事が王の横に寄り添う。


ボソボソ耳打ちをすると、執事がお辞儀をして部屋から出て行った。


「……食事は済んだか?」


明らかに汚れていないお皿が目の前にあるのに、息子が食事を取ったかとってないかさえも興味がない様子に、ミラルドも感情が抑えられなくなってくる。


「とても美味しくいただきました。」


右手の拳を左手で抑えながら、微笑み返事をする。


「……そうか、それはよかった。

……して、どういうことだ。」


やっと巡ってきたタイミングに、大きく息を吸う。

自分の中の『ミラルド』がこう言った。


『空っぽの王族たちを操ってしまえばいい。

ゼロの思う通りにやっていい。

きっと、とても簡単だよ。

……さぁ、世界を変えるために。』


息を止め、口にたまる唾液を飲み込むと。


『望むところだ、ミラルド。

一緒に世界を変えよう。』


そう心に呟いた。


「……どうした?」


何も喋らないミラルドに王は、少し苛立つように足を揺らす。


それを見つめ、ミラルドは微笑んだ。


「父上、面白い本を見つけました。

これを読んでいただけませんか?」


本を王に差し出そうとすると、怪訝そうに眉を寄せ手を振った。


「……よい、説明だけしろ。」


めんどくさそうに答える王に、再び笑いかける。


「そうでしたか、わかりました。

でしたら……兄上もよく聞いてください。」


ミラルドの言葉にアーサーも怪訝な顔で反応した。


「城の地下室で見つけたこの本を研究者に見せたところ、月が二重になる謎が解明されるかもしれないということでした。」


「……ほう、それで。」


話の内容に全く興味を示さない王は、揺らす体を更に揺らしていく。

カタカタと揺する足を、テーブルの上の燭台までも揺れていた。


『話の切り口を間違えたか……?

ならば、こちらから攻めるか。』


心で独り言の様に呟く。


本をテーブルに置くと、もう一冊の古ぼけた本を取り出した。


「……父上、最近よくお話しさせている話の補足になりますが……。

今北の国は魔女を死なせてしまったという話は説明しましたよね?」


ゼロがミラルドとなってから、何度かこうやって王に話してきた内容だったが、フワフワと話を逸らされてばかりの日々だった。


今日はアーサーが王にトウとの出来事を報告した為、王の心が少し自分に向いているのがわかる。

言い風にか、悪い風にかは分からないが、これはチャンスだと睨んでいた。


「魔女が消えた国は途端に『恩恵』を失い、大寒波に見舞われることでしょう。

寒波が訪れると国は痩せ細ります。

そうなると、北は他所から糧を奪おうとするのではないかという予想が立ちます。

……北がもし戦争を仕掛けてくるとしたら、一番攻めやすいは我が国という事だと、知ってますか?」


ミラルドの言葉に王と王妃の顔色が変わる。

アーサーは流石にここまで把握済みだったのか、何事もなくグラスに口をつけていた。


「……どういう事だ?

魔女が恩恵?……北はなぜうちを狙っているとわかる?」


「簡単ですよ、父上。うちが一番豊かな国だからです。」


アーサーが口を出す。

ナプキンで口を拭きながら、ニコリとミラルドに微笑んだ。


「流石だな、よく調べてあるぞ、ミラルド。」


まるで手柄の横取りかと思うような、手の平を返す様にミラルドを褒めた。

湧き上がる胸の嫌悪感。

ギュッと眉を寄せるが、耐えて微笑み返す。


『豊かだからではなく、一番中心で攻め込みやすく、平和ボケしてるからだろう。』


ミラルドは心の中で呟いて、息を吐く。

そして笑顔を保ちつつ口を開いた。


「……ありがとうございます兄上。

続けてもよろしいでしょうか?」


会話のペースは既に自分の方へと向いている。

興味を引いた今がチャンスなんだ。


落ち着いて事をうまく運べる様に、また大きく息を吸った。


「魔女の恩恵についての詳しい事は、この『150年前の王の日記』から見つけました。

元々現代において『魔女の恩恵』という言葉は嫌味としてでも使うことが多かったのでしょうが、実は本当に恩恵かもしれません。

各国に必ず魔女が生まれる理由について、彼女たちは各自国を守る為の『礎となる何か』なのではないかという事がこれにてわかります。」


ミラルドの話に納得がいかないのか、王は眉を寄せ頬杖をついた。


「……だが昔から魔女は忌み嫌われる存在ではないか。

それは他の国でも一緒だろう?」


「ええそうです。認識はそうですが……その認識が間違えていたとしたら?」


間髪入れずに答えるミラルドに、王と王妃が顔を見合わした。


「……間違えるとはどういう事なの?ミラルド……」


不安に駆られた王妃が口を挟む。


「証拠もあります。

こちらの資料は150年……は流石に無理だったので70年前後の天候を記録したものなのですが、北の国、東の国に関してはそれぞれ一度づつ大寒波や大干ばつが起こっているのです。

それと比例してそれぞれの国が魔女の死亡を届けた年と重なるのがわかりますか?」


わかりやすく作った資料を王と王妃の前に広げる。

そしてそれを指で追って説明した。

眉を寄せたアーサーも王の後ろからその書類を覗き込んでいる。


「北は今回魔女が亡くなるのは二度目です。

もし魔女が大寒波に比例している事に気がついているとしたら、行動は早いかもしれません。」


『証拠』を目の前に突きつけられ、激しく動揺する3人。


「……して、我は何をすればいいのか?」


自分の国が戦争になると、その分兵を集め、資源も物資も消費する。

今ある生活が脅かせられることが、一番不安だったのだろう、王は完全にミラルドを信頼していた。


「……父上、お力をお貸しください。」


弱々しくミラルドは答えた。


「……ほぉ、なんだ?」


王は前のめりに答える。


「その前に一つ提案があります。」


「……申してみよ」


『完璧だ』


心でもう一人の自分が称賛する。

だが、まだだ。

まだスタート地点にも立っていない。


ミラルドはグッと拳を握ると、満面の笑みを浮かべる。


「もし私の狙い通り北が戦争を仕掛けそれを止めることができるのなら、魔女の認識を認めて欲しいのです。

魔女は忌み嫌うものではなく、国を守るものとして大事にするべき存在という事を民に教えるべきなのです。」


ミラルドの言葉に、王は大きく頷いた。


「……よい、もし戦争を食い止めることができたら、お前の好きにするがよい。」


王の即答に異議を唱えたのはアーサーだった。


「……父上!?何を……」


「……ワシがよいと言った。それを口を挟む気か?

働きに応じ願いを叶えるのも王の仕事。

父として、期待しておるぞ。」


だが間髪入れずに王がアーサーを制止した。

それを横目に満足げに微笑むミラルド。


「ありがとうございます。

……あと一ついいですか?」


「……なんだ?」


「その時は私と魔女との婚姻を認めていただけますか?」


「……おいミラルド!!」


再び立ち上がるアーサー。

だがその意義は王には届かなかった。


「……全て終えたら、認めてやってもよい。」


ミラルドは微笑んだ。

そして何もいわずお辞儀をする。


王妃は魔女の偏見が強いのか、怯えた顔で王を見ていた。

だが何も言う事はできず、曇った顔で下を向いた。


アーサーは怒り狂う様にミラルドに掴みかかった。


「お前は気高き王の血に穢れを作るつもりか!?」


「……やめんか!!」


王が声を上げる。

そして顎髭を撫でながらこう言った。


「……アーサーよ、お前は何を勘違いしておるのだ?

ミラルドはお前の代わりに働いているのだぞ。

感謝し労うがよい。

お前は王太子として時期に王になる身。

お前が危険なことができない分、ミラルドが代わりに動いてくれてるのではないか。

この国の豊かさが守られるのであれば、魔女などどうにでもするがよい。」


その言葉に思わず笑ってしまうミラルド。


『第二王子なんて所詮第一王子の代わり。

第一王子が無事なら、第二は戦争に行こうか構わない。』


寂しげに心に響く声に、ミラルドはギュッと胸を押さえた。


「……必ず、成し遂げて見せます。」


「期待、しておるぞ。」


そういうと王は満足気に王妃を連れてサッサと部屋から出ていった。

残されたアーサーはミラルドを睨んだまま、何もいわず去っていった。


『これでいい。』


これでいいんだ。

約束を取り付けられれば。


執事は下がったが、第一騎士団のメンツがいたので、言質を取ったも同然だった。


ミラルドを見てざわついていたが、何人か信頼できるのを抜粋し、生きた証人として自分のそばへ置けばいい。


目の前にあるグラスを手に取ると、ミラルドは微笑んだまま小さく『乾杯』と言った。

そして一気に飲み干すと、そのまま部屋から出ていった。





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