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第38話 ミラルドの怒り。

実はニールの連絡は行き違いになっていた。


居場所を突き詰めて、トウが自ら帰って来るという連絡が来たので、第二の騎士に迎えに行けと命令したばかりだった。

慌てて第二を呼び戻そうとしたが、彼らはすでに出かけてしまった後だった。


ミラルドはトウの到着を心配して待っていた。

本当に戻って来るかも不安だったから。


シーザが行動を起こした事は本人からの連絡で聞いていた。


それについてラファエルとの中がこじれた事も。

トウが深く傷ついた事も知っていたが、結果ミラルドにとって『計画』に邪魔なものが減ったことは、喜ばしい事なのかもしれないと思っていた。


騎士の通用門の近くで待機していたミラルドだったが、表が急に騒がしくなった事で外に飛び出した。


護衛を頼んだ騎士たちが、ミラルドを見て嬉しそうにお辞儀をする。

そしてまるで人形のように動かないトウを得意げにミラルドの前に放り投げた。


「魔女を運んできました。

すいません、ちょっと抵抗したんで大人しくさせましたが。」


悪びれもなく、動かないトウを地面に放り投げた。


投げ出されたとうの小さくうめく声に、ミラルドは自分の血の気が引く音が聞こえた。


「……おい誰か医者を呼べ!!

すぐにだ!!!」


叫ぶミラルドに執事や城にいた騎士が慌てふためいた。


そしてトウを運んできた騎士を突き飛ばすと、トウの胸に耳を押し付ける。

僅かに鼓動はするが、呼吸がない。


「……呼吸はいつからないんだ!?」


「え?あの……」


ミラルドに突き飛ばされ、気迫に動揺を隠しきれずに狼狽え出す男たち。


「殺されたくなかったら早く言え。

トウはいつから呼吸がない?」


「あの、えっと……」


「……かれこれ5分……いや7分以上は……。」


ゴニョゴニョと口籠るように答えた。


「……7分……!!」


騎士の言葉を復唱する様にミラルドが呟く。

そして大きく息を吸うと、トウの鼻をつまみ、徐ろに息を移した。


「頼む、トウ……死ぬな……!」


何度も息を吸い、口から口へと息を吹き込む。


ミラルドの行動をメイドや執事、騎士までが驚き固唾を飲んだ。


小さな体に息を吹き込まれると、胸元が大きく反り上がる。

ミラルドは何度も何度もそれを繰り返した。


150年前も同じことをしたことがある。

その時はイチの魔女がサンの魔女にしていたのを見ていた。


イチも怪我をして、息が絶え絶えだったので途中で自分が変わったのだった。


その時は助からなかった。

サンはそのまま目が覚めることはなかった。


あの時の悔しい思いを、もう繰り返したくない。


結局最後は仲間を一人も救えなかった。

のうのうと自分だけが復活したのだ。


自分に未来を託し、彼女たちは味方と思っていた者たちから命を奪われた。


今度は絶対助けたい。

息が止まって10分も経てば絶望だとイチは言っていた。


トウが助かるギリギリの時間。


「頼む、間に合ってくれ……!!」


叫ぶミラルドに、その場にいたものたちは全員息を飲んだ。


騒ぎを聞きつけ、第一王子もやってきた。


「……おい!お前気でも狂ったか!?」


自分の口を魔女につけ、息を吹きかける弟の姿に、アーサーは止めようとミラルドの肩を掴む。


その時。


大きく息を吸い、苦しそうに咳き込むトウ。

喉を押さえ、肩が激しく上下していた。


「……トウ、よかった……。

助かったんだ……。」


ミラルドはアーサーに掴まれた反動で尻餅をついたが、そのまま力が抜ける様に座り込んだ。


遅れて医師がやってきて、まずミラルドへ駆け寄った。

ミラルドは医師を押し退け、トウを指差す。

医師はアーサーとミラルドの顔を交互に見ながら、トウに恐る恐る駆け寄った。


「……お前自分が何をやっているのかわかってるのか?」


アーサーが低い声でそう言った。

それを聞いてミラルドは笑顔で答える。


「この間も言った通り、時代は変化しなければいけない。

あなたは王になればいい。

僕はそこに興味はないんだ。

でも国を助ける剣となりたい。

それには国が一つとなり、全部の魔女の力が必要だ。」


「……お前は、何と戦うというのだ。

この世界は平和そのものだ。

呪いの月ができて150年も経つが、何も無いではないか。

お前、……本当にミラルドか?」


微笑むミラルドをアーサーは睨みつけた。


「間違いなく、僕だよ、兄さん。」


ミラルドの微笑みは揺るがなかった。

アーサーは視線をミラルドから外し、踵を返した。


「この事は王にそのまま伝える。

後で弁解をしに行くといい。」


「……弁解なんてないよ。

そうだな、責任でもとって魔女と婚約するかな。」


「ミラルド!!!」


肩を竦めるミラルドに、アーサーは怒鳴った。


ミラルドはゆっくりと立ち上がり、トウのそばへ行く。

呼吸も落ち着いてきたトウの手を取ると、ミラルドはまたアーサーに微笑んだ。


「……本気だよ。」


微笑むミラルドにアーサーは嫌悪を向ける。


「……ともかくこの足で王の元へ行け。

そこで世迷い言をほざけばいい。」


振り向かず静かな口調でいうと、そのままアーサーは居なくなった。


意識が戻り、ボーッとしたままのトウを抱き抱える。


「誰か彼女を部屋へと運んでくれ。

私も用事が終わったらすぐに行く。」


そういうと別の騎士にトウを託すと、こう言った。


「……くれぐれも丁重にな。

私の命令を履き違え、対象を死なせかけるとはな。

言葉が通じない動物は処分するしかないから、覚悟するといいよ。」


魔女を託された騎士の顔色が変わる。

そして先程トウを無造作に地面に置いた男たちに視線がいった。


男たちはその言葉に自分のしでかした事の大きさを知る。


「……待ってください、王子!!

お、俺たちは……!」


「言い訳をいう前に質問に答えろ。

トウを護衛していた騎士はどうした?」


その言葉に顔を見合わせて唾を飲み込む。

誰もとっさの言い訳が思いつかず口をパクパクと開けるが、声が出てこない。

全員が命の危機を感じ、ミラルドを見て後ずさった。


「……すぐに第三騎士団にサーマンを探しにいかせろ。

ここから7分圏内にいるはずだ。」


ミラルドの言葉に後ろに控えてた『騎士』たちが即座に動く。

言葉が通じるところを見せなければならないからだ。


「……それで?

お前たちは俺の『婚約者』に暴行を働き、その護衛している騎士までも危害を加えたのか?」


ミラルドが腰にさしていた剣に手をかける。

ゆっくりと男たちの前で抜き、目の前に向けた。


「お、お、王子、どうか助けてください!

前は、魔女なんか何してもいいとおっしゃっていたでは無いですか!!

何故、そんな……急に……。」


オドオドと命乞いをする男たちに、ミラルドは声を上げて笑った。


「……俺はそんな事を言っていたのか。」


「そう、そうです!

どうか、命だけは……!」


必死の命乞いに、騒ぎに呼ばれた第二の隊長が駆けつける。

そして耳打ちをした。


「……王子、彼らは伯爵より上の貴族の子息です……。

一人息子もおります。

どうか、命だけは、どうか……。

我ら騎士としての責任は取らせますので……。」


困った様に汗を拭く第二隊長の顔を見ながら、ミラルドが静かに言った。


「……お前は自分が何を言っているのかわかってるのか?」


「……え?」


その言葉に第二隊長の顔色が変わる。


「『王子の婚約者』に暴力をふるった騎士の処分を騎士内で処理すると?」


「……婚約者、ですか……。」


第二隊長は止まらない汗を拭きつつ、目を泳がせ考え込んだ。


「そうだ。不敬になると思わないか?」


「……そ、それは……。」


口籠る第二隊長にミラルドは静かに続けた。


「知らないなら教えてやろう、第二騎士団隊長殿。

不敬とは重罪を意味する。

重罪とは最も重い罪のことで、息子の失態は家までも取り潰しになるほどでは無かったか?

しかもこいつらは俺の命令もちゃんと聞いてなかった。

『魔女を護衛し、無事城まで送り届けよ』と俺は言った。

命令を無視し、他の騎士団員までに暴行を働き、そんな言葉も通じず暴力しか脳がない貴族の息子たちに、生きる価値があると……お前はいうのか?」


ミラルドの冷たい声が、隊長や男たちに刺さっていく。


第二隊長も、それ以上何もいうことができず、なにかを言おうと賢明に手を震わせていた。

ミラルドは静かに剣を抜く。


そしてそれを男たちに向ける。


「さあ、どうする?

死にたくなけりゃ、選べ……すぐに。

ここで俺に殺されなくても、俺の命令を聞かなかった時点で既に重罪だ。

……さぁ、どうする?

ここで死ぬか、家ごと死ぬか。」


ミラルドの声に、誰しもが凍り付く。

静かにうなだれた男たちは、駆けつけた第三騎士団の団員たちに捕獲され、連れて行かれた。

遅れてラファエルがやってくる。


「……王子。」


ラファエルの声に、ミラルドは剣を腰に戻しながら口を開く。


「……サーマンは生きていたか?」


「はい、辛うじて。」


ラファエルの言葉に、安堵する声。


「……そうか……すまない事をした。」


その言葉にラファエルは頭を下げた。


「もったいないお言葉……。」


そして言葉をつまらせながら今度はラファエルが聞き返す。


「……トウは無事ですか?」


チラリと横目で見ると、お辞儀したまま肩を震わせていた。

状況を聞き、いても立ってもいられなかったのかもしれないと。


「ああ、危なかったが意識は戻り、先程医師と一緒に部屋へと運んだ。」


「……そうでしたか。」


ラファエルに安堵の表情が浮かぶ。

ミラルドはそれに少しムッとした。


「トウは俺が大事に守る。

ヴァンス副隊長はもう、心配しなくていい。」


「……」


ラファエルはなにも言わず、ミラルドを見つめた。

ミラルドはそのまま続ける。


「いずれ分かると思うが、トウと俺は婚約する事となるだろう。

……祝福してくれるだろう?」


ラファエルの表情が大きく目を開いたまま固まる。


それをみたミラルドは満足そうに笑う。


「じゃあ、あいつらのことは頼んだよ。

サーマンはしばらくゆっくり養生をしてくれと伝えてくれ。」


ミラルドはそういうと、ラファエルの肩に手を乗せた。

ラファエルは何も言わず、その場所からしばらく動けないでいた。

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