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第37話 魔女とニール。

※多少暴力表現あり。

オブラートには包んでおりますが、苦手な方はお引き取りを。

次の日朝早く、トウは城へと戻って行くために、ニールを待っていた。


勿論ニールがその旨をミラルドにちゃんと報告して、『自分が守り、安全に連れてゆく』とも通達済みである。


泣き腫らしたトウに、何もいわずに寄り添うセイルが居た。

言いたいことがうまく表現できないのか、眉を寄せニールを見ると、不安そうな表情を浮かべた。


ニールを見たセイルの手が、ソッとトウの背中を押す。

トウは軸のない人形のように蹌踉めきながら、ニールの方へ歩いてきた。


「……大丈夫じゃなさそうですね……?

でも敢えて聞きますが、大丈夫ですか?」


ニールの言葉にトウは拙い笑顔で答える。


「大丈夫だよ……」


と、小さな声で呟いた。


ニールは思わずトウの頭を撫でようとして手が止まる。

そして静かに掌を空で握ると、静かに降ろした。


『あぶね、スカイにやるつもりな感覚だった』


どうもトウは頼りなさ過ぎて、目が離せない。

まるで小さな子どものように見えた。


ヨロヨロ歩く姿も、小さな背中も、応援したくなってしまう。

だがここで頭なんて撫でたことがバレると……多分、自分は……消される。

ニールはそう思って震えるのだった。


早朝だったので、人通りがない大通りを歩くニールとトウ。

市場の準備に働く人たちはこちらを全く気にしていない。


トウはセイルに用意してもらった上着を着ていた。

フードは大きめで、目深にかぶると顔もフードの影で見えなくなる。


まるでトウのために作られた上着のようだった。

トウはそれを脱げないように気をつけながら、ギュッと両手でフードの端を掴んでいた。


城までの道を元気付けようと、街の様子を話しながら進む。

おすすめの屋台だったり、広場をぬける穴場の公園だったり。

トウは時折りニールを見上げて、興味津々な様子だった。


大きな通りを抜けると、見慣れた制服の集団がこちらへ歩いてくるのが見えた。

色はニールの制服と違って、赤いようだが。


トウを背に隠すように、ニールは道を譲ろうとする。

別件で出歩いていると思ったのだが、通り抜けず立ち止まったのだった。


「魔女はどこだ?」


ニールはその問いには答えず、自己紹介をする。


「私、第三騎士団員のニール・サーマンと申します。

ただ今ミラルド王子に仰せつかり、魔女様の護衛中であります。」


ニールは赤い制服の集団に礼をする。

だが赤い制服の集団は、それをただニヤニヤと眺めていた。


「だから、それ変わるわ。

魔女は、どこだ?」


なんだかおかしな空気に、ニールは素直にトウを差し出すのを躊躇っていた。

第二は第三より階級は上になるので、ニールが逆らうことはできなかったのだが……。


自分の背中で怯えるトウ。

様子がおかしいのを彼女も感じ取っていた。


「……申し訳ありませんが、魔女様の護衛の交代は聞いておりませんが……。

私は王子から仰せつかった事ですので、交代するにも書類がないと……。

第二騎士団の方々は一体どういう命で動かれていらっしゃいますか?」


ニールの丁寧な言葉にも、赤い集団はニヤニヤ含み笑いをしながら、ヒソヒソと後ろで話し合っている。


「……ごちゃごちゃウルセェな。

こっちも王子からさっさと連れて来いと頼まれたんだ。

いいからさっさと変われよ。」


一番体格のいい騎士が、ニールの肩を掴んだ。

とても強い力で掴まれニールの顔が苦痛で歪む。


少し後ろに目をやると、トウの目から恐怖の色が溢れ出し、青い顔で固まっていた。


手を振り払う事もできない。

もし第二の機嫌を損ねると、自分だけではなく第三全体が処分の対象になる。

そしてそれに悪質な嫌がらせが上乗せされるであろう事も。


だがここは譲るわけにはいかない。

ラファエルにも、セイルにも、そしてスカイにも頼まれたんだ。

絶対トウを守ると。


ニールは固唾を呑む。


そして覚悟を決めたように痛みを堪えながら、肩を掴んだ騎士を真っ直ぐに見つめた。


「……これはどういう事でしょうか?

私は命令を忠実に遂行しようとしているだけです。

ミラルド王子から『魔女様を無事に連れて来るように』と言われておりますので、申し訳ありませんが魔女様に何かされるのであれば、同じ騎士だとしても剣を抜かせていただきます。」


肩を掴んだ手にジワジワと力が込められていく。


ニールはそれを笑顔で堪える。

どんな事があってもトウの盾でいなければ。


トウはニールの背中と壁の間にいた。

ニールのマントを掴んだまま、ピッタリと寄り添い心配そうに震えていた。


宣言した事により、彼らの注意はニールへと向いていた。


血の気の多い連中だったため、そこに居た5人はニールを取り囲む。


「誰に向かって口を聞いているんだ?

覚悟はいいんだろうな!」


「第三が粋がりやがって……!」


騎士とは思えない暴言を吐き、同時にニールの腹に拳が埋まる。

鈍い音とニールの小さく呻く声が重なった。


それでもニールはトウの前に立ち続けていた。


殴られ揺れる身体をひたすら耐えながら。

後ろにいたトウにも衝撃が来るほど、ニールは何度も顔や体のあちこちを打ち続けられた。


時間的には数十分だったのかもしれない。

だか二人にとってはとても長く苦しい時間だった。


立ってるのもやっとなニールの体重が、トウによりかかってきた。


「おい、こいつ立ったまま寝ちゃったんじゃねーか?」


男たちの笑い声が聞こえる。


小さく荒い呼吸音が背中越しに響いていた。

それに僅かに喘鳴が聞こえ出す。


もしかすると殴られた拍子に肺や器官に飲み込んだ血液が入っているのかもしれない。

このままでは自分の血液で呼吸困難になってしまうかもしれない。


トウはニールの生命の危機を感じ、叫んだ。


「もうやめて!!

これ以上は死んでしまう!」


トウが庇うように前に出ようとすると、意識のないニールが自分の方へ倒れ込んでくる。


トウより体の大きなニールを支えきれず、一緒に地面へと倒れ込んだ。

慌てて起き上がり、ニールを血液を吐かせるために横向きに寝かせる。


必死にニールの状態を確認していたトウに、容赦なく男の手が伸びてきた。


フード越しに髪の毛を掴まれ、持ち上げられる。


「うぐっ……!」


そのせいでフードが首元に引っかかり、息ができなくなる。


グッと首元を必死に下げようともがくと、その様子をカエルのようだと男たちは笑った。

小さなトウは簡単に持ち上げられてしまう。


苦しくてバタバタと足を動かすが、それを見てまた楽しそうに笑うのだった。


息ができず、意識がボーッとして来る。

僅かな意識の中で、振り絞るように声を出した。


「誰か……たすけ……」


掴んでいる男にも聞こえない声しか出ず、馬鹿にするように男はトウに耳を寄せる。


「あ?カエルがなんか鳴いたか?」


そのまま首元を掴む手が、ダラリと下がる。

男は少し慌てた様子でフードから手を離し、トウの両腕に持ち替えた。


「あーしまったな、死んだらやばいんだっけ?」


そういうとトウの胸元に耳を寄せる。


「さぁ、逃げ出したのを連れて来いとしか聞いてねぇな。」


後ろで笑っていた男がニヤニヤとしながら首を竦めた。


「とりあえず、魔女は鼓動は僅かにあるし、このまま引きずっていくか。」


そういうと、荷物のように無造作にトウを小脇に抱え、チラリとニールを見た。


「こっちのゴミはどうする?」


ニヤニヤと笑っていた男が横向きで倒れているニールを蹴飛ばした。

それでもニールからの反応はない。


「……どうせ誰も見てねーよ。そのまま捨てて置いても俺たちのせいじゃない。」


「ならもう行こうぜ。誰かに見られるとめんどくせえ。」


「まぁな、第三ぐらい一人減っても問題ねぇな。」


男たちは当たりを気にする様子を見せ、そのまま足早に歩き出した。




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