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第34話 ヴァンス邸にて。

トウがお風呂へ行った後、男3人で今後の話をしようと言うことになった。

スカイに追い回されていたセイルは疲労感満載で、『決まったら後で聞かせて』とソファーで横になり、すぐ寝息が聞こえてくる。


「王子はなんて言っていた?」


「副隊長を見張れと言われましたよ!もちろん断りましたけど。」


「それで第二か……。」


ラファエルはギュッと眉を寄せる。


昨日自分を尾行して来たのは、第二で間違いなかった。

自分が自宅に入ってからもしばらく外で待機していた執拗さも、第二ならではだとラファエルはそう思っていた。


ラファエルの部隊は第三となる。

第一は王族人物の警備、第二は主に城内。第三は城外と大まかに関わる分野が異なる。


他にまだ第四第五と分かれてゆくのだが、数字が少ない部隊ほど高貴だと威張り散らし、数が大きいほど雑用を任されることが多くなる。


魔女に関しては主に第三が任務に携わっているのだが、ミラルドは何かにつけて第二を動かす事が多かった。

第二はお高く止まっている第一を妬む、気性の激しい奴が多い。


ミラルドはトウが大事だと言いながら、そんな信用ならない部隊に任すのが気に入らなかった。


「でも仕方ないっすよね。第三が実質魔女に関して言うこと聞いてないですもん。」


そう言いながらニールが肩を竦める。


「……確かにそうだが、城内を警備しなきゃならない部隊を、私用で動かせすぎではないか?」


「でも第二が一番人数多いのも事実ですよ。

うちの3、4倍はいますし、第一王子も私用に第二を使いまくってますよね。

第二は向上心の塊です。王子に取り入ってお気に入りになれば、第一に移動も夢じゃない!」


「……ニールお前聞くが、第一に入りたいのか?」


ラファエルは心配そうにニールを見つめたが、ニールは明らかに不快感満載でラファエルに首を振った。


「まさか!絶対イヤですよ。

あんな出世欲満載の脳筋ばっかの部隊なんて。

俺はお気楽な第三ぐらいがちょうど良いっす。」


「……お気楽とか言われると、さすがに俺も心が痛い。」


確かに第三はお気楽部隊だと言われる事が多い。

城外の揉め事や警備など、他に比べて一番楽そうに見えるからだ。


それでもラファエルはしっかり仕事はやっていると自負しているため、心外な気分で一杯だった。


苦悩するラファエルの横で、ニールがふと腕組みをして考え出した。


「しかし隊長いつ復帰なんですかね?

復帰したら流石に副隊長が好き勝手出来なくなりますよね?」


「……俺は好き勝手してるのか……。」


『てへへ』と笑うニールに、ラファエルはため息をつく。


確かに隊長はとても真面目な男だった。

それが復帰してしまうと、自由に勤務中にトウに会いにもいけなくなる。


今は自分の領地を巡り親戚同士の揉め事に、両親が体を崩したとかで『領地経営代理』をするため帰省している。


いずれ復帰する日も近いのかもしれない。


ラファエルは頭を抱えてため息をついた。


「……それで、今後どうします?

流石にここに長らくトウ様を置いておくわけには行きませんよね?

理由はどうであれ、ここに匿っている事実を誰かに見つかるわけにはいかないですし。」


「そうだなぁ、知らないって言っちゃったしな。」


「流石に嘘がバレるのはまずいかと。

というかどの道帰る家がない分、保護するのはやはり城でないと安全ではないという事を踏まえ、トウ様が自分で戻っていく方が誰の角も立ず、丸く収まると思うんですよね。」


「まぁ、なぁ。」


「その時に護衛を付けてでも自由に外出できる許可を取れば問題ないかと。

もちろん護衛は我々第三がベストですし。」


「……やっぱお前、賢いな。」


ラファエルに褒められて、嬉しそうなニールを見つめる。


ラファエルがわかっていて悩んでいたことを、ニールが全て口に出していく。

わかっているが城に返したくない自分が、その答えを拒否していたのだが。


結局この道しかないのはわかっている。

だが、ミラルドにトウを預けることは、何故か心の底から拒否反応が出るのだ。


「俺、一旦城に戻って様子伺いしつつ、そういう風に王子に説得して来ますよ。」


「……いいのか?」


「副隊長が動くよりは、俺の方がうまくいくと思うっす!」


ニールはそういうと悪戯した子供の様にニヤリと微笑んだ。



+++



「トウ様、ラファエル様が服を用意してくださっている様ですよ」


「え……?」


お風呂上がりにホカホカの状態で、泥だらけになっていたワンピースを手に持ち、悩んでいたトウにスカイが声をかけた。


下着の着替えから靴下まで、幅広くたくさんの種類のワンピースやドレスが侍女によって並べられていく。


恥ずかしそうにモジモジしているトウを見て、スカイがさっさと選び出した。


止めてもスカイはトウのお世話を焼くため、トウはスカイの好きにさせている。

フカフカと頭を拭かれることも、もう慣れっこになってしまった。


スカイはたくさんの服の中から、モスグリーンのワンピースを手に取った。

襟がクリーム色のレースで飾られていて、ハイウエストのベルトがリボンになっている、シンプルだけど可愛いタイプのワンピース。


スカイは短い間でトウの好みを熟知していた。


スカイが手に取ったワンピースに目が輝くのがわかる。


「トウ様の髪色にも合いますね。

さすがラファエル様のチョイスです。」


さりげなく送り主の良い印象も与え、トウの染まる頬の赤みで、自分が完璧だったことにスカイは満足に思っていた。


服を着せ、髪を整え風呂場を出る。


スカイとトウは侍女に案内され、ラファエル達がいる応接間まで長い廊下を歩き始めた。


しばらく進むと先頭を歩く侍女が、金色のドアノブの前で立ち止まる。

そしてしばらくそこで待てとお辞儀をして中へと入っていった。


別の場所に案内されたと気がついてスカイと顔を見合わせて待っていると、金色のドアノブが下へ傾き、扉がゆっくりと開いた。


何も分からないまま中へ通されると、中には大きな机と大きな傷が顔に残る、老人が座っていた。


「……魔女殿、ようこそ我が屋敷に。

挨拶が遅れてすまないね、私はラファエルの父にあたるシーザ・ヴァンスという。」


シーザの言葉に、スカイがまず頭を下げた。

戸惑うトウもハッとして、スカイの真似事の様なお辞儀をする。


「突然の訪問申し訳ありませんでした。

トウ様の侍女、スカイ・サーマンと申します。

トウ様の代わりに私がご挨拶申し上げることをお許しください。

ヴァンス副隊長にはトウ様がお世話になってしまい、誠に感謝しております。」


一度頭を上げようとするも、スカイの丁寧な言葉に慌ててまた頭を下げるトウ。


その様子を目を細め微笑みながらシーザは見ていた。


「気にしなくて良い。魔女殿に聞きたい事があって寄ってもらったのだ。

なに、そう怯えずとも取って喰いはせんよ。」


そういうとシーザは豪快に声をあげて笑った。


スカイは表情を変えず、頭を上げる。


「そうでしたか。

こちらもお世話になりながらご挨拶が遅れた事を主に代わりお詫び致します。」


そういうとスカイはもう一度小さく頭を下げる。


「……して、魔女殿。

母の名はなんて言ったかな?」


「……母、ですか?」


突然シーザから出た思いもよらない言葉に、トウは驚いて口籠ってしまう。

それを見通してか微笑みを崩さないシーザが続けた。


「貴方の母上に、ワシは会ったことあるんだよ。

だが歳を取りすぎてな、出会った方の名を忘れてしまった。」


シーザの言葉に、トウはおずおずと続ける。


「……母はレカと言います。」


「……そうだった、レカ殿だ……。」


口元は笑っているが、一瞬シーザの目が鋭くなった。


「確かお祖母様もいらっしゃったよな、呂色の……」


「祖母は呂色の魔女、ウロです。

母は確か銀鼠色と呼ばれていました。

あの、祖母と母をご存じですか?」


「……ああ、知っている。

私にとっては、昨日のことの様に思い出すよ。」


そう語るシーザの瞳の奥の色が揺れる。


スカイはゆっくりとトウの前に庇う様に立った。


「そんなに警戒することはない。

少し魔女殿と、昔話をしたいだけだよ。」


シーザはトウとスカイに笑顔を向けた。


「スカイ、と言ったかな?

サーマン伯爵の娘か。

兄上とはよく城で会うのだが、君も小さい頃に会ったきりで、立派になられた。

母上に似てきたね。」


「……ありがとうございます。」


「して、スカイ嬢。

貴方の主という魔女殿の色をご存じか?」


「もちろんでございます。

トウ様は鈍色の魔女と呼ばれていらっしゃいます。」


「そうだ、鈍色だ。

鈍色はどんな色か知っているかい?」


「詳しくはわかりませんが、少し鈍いグレイだと認識しております。」


「ああ、そうだ。

遠い諸国では昔から鈍色は凶色と言われ、忌み嫌われる色だったとも言われている。」


『凶色』という言葉に反応し、トウが体を強張らせた。

その言葉だけで、自分が招かれざる客だと一瞬でわかった。


スカイの服の裾を不安そうにギュッと握る。

それを感じてスカイも息を大きく吸い込んだ。


シーザはそんなトウにお構いなく笑顔で続けた。


「スカイ嬢は魔女殿の祖母、そして母の色を聞いて何か思わないかね?」


シーザの問いに、スカイは表情を変えず首を傾げる。


「どうでしょうか、私には分かりかねます。」


そんな飄々としたスカイの態度に、シーザは面白そうに口元を歪ませた。


「ならば、君たちに教えてやろう。

この国の魔女の歴史を。」


開けっぱなしだった扉が、侍女によってゆっくりと閉められていく。


まるでもう逃げられないと錯覚する獲物の様な気分に、トウは息を飲んだ。

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