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第27話 魔女、監禁される。

『いい加減、家に帰りたい……!』


トウは何度も何度も、部屋をぐるぐると落ち着きなく歩き回っている。


あれからもう3日は過ぎたが、ゼロはいまだ全く姿を見せなかった。


姿は見せないものの毎日決まった時間に、豪華なご飯が3食おやつ付きで部屋に運ばれるだけの、監禁状態だった。

部屋も豪華すぎるし、金色の装飾たちが『これでもか』と自己主張していて、気持ちの休まらない部屋にノイローゼになりそうだった。


することがないので、こうやって毎日飽きもせず部屋をグルグルと歩き回りながら、今後の事を含めて整理していた。


ムウが導いたゼロの封印について。

……幻覚ではないと、そう確信していた。


あれは確実に、ムウだった。

藤色の光、ムウの使っていた香水の香りも触れられた感触も、覚えがある。


ムウの葬儀は参列しないでいいと手紙だけが届いただけだったし、何故か北の国を出てからの事だけスッポリと抜け落ちていたため、その辺りははっきりとしない。

未だ思い出せない部分も多い。


もしやムウは生きていて、何らかの軟禁状態で意識がなく、魂だけがうろうろしているのではないか?


思い出そうとするとどうしてもまだモヤがかかった様にはっきりとしないので、とりあえず追い追い思い出していくつもり。


ムウは本当に亡くなっているのかを確認するために、期待を込めて恋人だったジェイスやナナくんに手紙を書こうと心に決めたはずなのだが……。


如何せん自由になれない。

今此処で手紙を書くことを認められたとしても、ゼロが内容をチェックしたりされるのも嫌だし。


とりあえず、早急にムウの生死だけは確認したい。


後は、気になっている事といえば……。


『ゼロが言っていた体は本当に王子の体だったのか?』という事。


ゼロは150年前に封印されていた。

それなのに体がない。


魂だけが封印され、ゼロの体はどこにあるのかって事になると、もちろん王族のお墓の中って事になる。

……と、いう事は。


ゼロの体はもしかしなくても、ミイラ状態か、骨になっている可能性が高い。

なのでゼロは体を持たない、霊体というものになるはず。


という事は無理やり『俺の体だー』とか言って王子の体を奪っている状態なのでは……?


それはちょっと、いやだいぶまずい様な……。

ましてはゼロが無理やり体に入ったという事は、今までいた……えーっとなんて言ったかな、名前。

み、み、み……なんとか王子の魂は、一体どこへ……?


思わず足を止め、キョロキョロと辺りを見渡す。


『……まさか、恨んで私にくっ付いてたりしてないかな……!?』


パッパと両肩を撫で下ろしたり、自分の背中を見ようとグルグルしてみたり。

今までグルグル歩き回っていた魔女のおかしな行動に、そこにいた護衛騎士や侍女も顔を見合わせた。


小さく怯え、挙動不審の行動。


騎士も侍女も交代以外はずっと、3日同じ部屋で同じ空間でトウと過ごしてきたので、魔女が危険だという認識はなくなった様子。

だが毎日難しい顔をして、グルグルと部屋を歩き回り、時には頭を掻き毟り、今日なんて突然怯えて自分の背後を気にしている。


毎日侍女が髪をとかそうとするが、まるでなれてない野良猫の様に飛び上がって逃げていくのだった。

ただ世間話をするには、まだそれほどお互いに距離感は掴めていないので、侍女も騎士もただジッと見守ることしかできなかった。


ミラルド王子はどちらかというと、『良い』王子ではなかった。

外面もよく社交的で、公務も難なくこなす、『王子』としては完璧だったのかもしれない。


だが騎士や侍女たちからは、すこぶる評判が悪かった。

騎士や侍女は『いくらでも変わりがある使い捨てだ』と思っている傾向があり、暇になれば騎士たちを集め『演習だ』という名目で無駄に戦わせてみたりと、関わりたくない王族No.1に選ばれたことがあるぐらいだ。


侍女たちに関しても、地味で陰湿な悪戯を執拗にしたりと、担当になった侍女たちが幾度となく変わり辞めていったことか……。


今回の件も思いつきだった。


『暇だから魔女を地下牢にでも連れてって遊ぼう!

……理由は、そうだな。なんでも良いんじゃない?』


という理由で騎士を集め、そのまま弾丸の様に出かけていったのだ。


よく言えば『無邪気』悪く言えば『残酷』な王子。

第2王子として責任もなく甘やかされて育ったせいか、王太子より単純で感情に素直だった。


適当な罪状で魔女を捕まえ、絶望感を味合わせる為に捕まえた姿を人々の目に晒す為に、わざと街中を歩かせた。

しかも捕まえに行く者の選別も怠らなかった。

自分に従順で、自分の家柄だけが取り柄の騎士たちばかりを選んで行ったのだ。


そのおかげで地下牢に入れられる魔女は、既にボロボロだった。

片足は靴を履いておらず素足だった為、靴を選ばせる時に見えた足の裏は、少し血も滲んでいた。


その時ニールは魔女がとても不便に思ったのだった。


『副隊長に言われてこの任務を志願したが、確かにただの小さい少女だな……』


ニールと視線が合った侍女のスカイも同じ思いだった。


魔女であれ何であれ、王子に言われたら世話をしなければいけない。

侍女としてそれが仕事なのだ。


スカイは他の侍女より肝が座っていた。


魔女の世話係になったのだって、同僚たちが魔女の呪いを怖がり、誰も部屋に入ろうとしない事を見て、小さな少女のお世話をする方がホールを一人でワックスかけるよりは楽だと思ったからである。


だかこの3日、一切スカイの手を煩わせない魔女に、少し興味が湧いてきたのだった。


業務的に声をかけるだけで飛び上がり、世話をしようと近寄るとあっという間に逃げられる。


『仕事は暇で良いが、ここまで何もさせてもらえないと暇すぎて時間が経たない』


かといって堂々とサボる訳にもいかず、何もしない方が大変なんだと痛感していたのだった。


せめてこの小さな魔女と少し距離を詰めて、話し相手ぐらいには昇格できたら、少しは暇ではなくなるのだが。

スカイはそう思い、きっかけを探していたのだった。


そんな時、トウがスカイに声をかけた。


「あ、あの……ゼ……じゃなくて。

み、み……王子にそろそろ帰ってもいいか聞いてもらえませんか?

家が気になるので、あの、猫もいるんです……」


目線は合わないが、必死に手を振り、しどろもどろに説明しようとする魔女。


それをスカイはジッと見つめるだけだった。


「あのー、それで、えっと……」


身振り手振りで話すトウを見つめ、スカイは自分の飼っているリスを思い出していた。


『やっと分かったわ、うちのリスに似ているのよ。食べる時にほっぺ一杯に詰めて幸せそうな顔をするとことか。』


そんなことを考えているスカイの無言の無表情にトウは少し涙目になった。


「……あのぉ、ですね?」


そのやり取りに今度はニールが吹き出した。


「ブフッ……魔女様、すみませんが、もうしばらく工事がかかるそうですので、どうかご了承ください。」


笑いを堪えながら、業務的なニールを赤い顔でワナワナと見つめる魔女に、ニールはまた吹き出した。


「あの!いつになったら終わるのか!聞いて欲しいです!!」


頬を膨らまし、顔を赤くして怒るトウに、ニールは素直に笑った。


「……ブーっクック!すいません、魔女様。ヒィー横っ腹痛い。

明日にはミラルド様もいらっしゃるとのことなので、その時にでも聞いてみたらいかがでしょうか?」


「……あなた、失礼です!人を見て笑うなんて!!」


怒るトウにソッとスカイが近寄って来た。

そしてスカイは突然、トウの頭を撫で出した。


「魔女様、よーしよし。

そんなに怒っては消化に悪いですよ。」


頭を突然撫でられキョトンとするトウに構わず、ニールが口を開いた。


「よーしよしって、お前!」


まだ笑いが止まらないニールにスカイはため息をつく。


「ニールもいい加減、笑上戸を直しなさい。

それを知らない人からしたら失礼よ、本当に。

魔女様ー、大丈夫ですよ、怖くない怖くない。」


「だからお前も失礼だって!」


「あら、私はお世話をしているだけですけど?」


突然目の前で起こっている事態を、飲み込めないでいるトウ。


それに構わず二人が親しそうに会話をする。


「あ、この騎士は私の兄なのです。なのでちょっと失礼な態度をしても、こういう奴なので。

どうかお気になさらないでくださいね。」


そういうと、無表情でトウを見つめた。


「失礼ってお前!……魔女様、俺を覚えてませんか?前に街中警備の時に副隊長とであったんですけど……」


「(ドンっ)やっとお話しして貰えたんで、仕事が捗りそうでよかったです。」


ニールを突き飛ばすと、スカイはまた茫然と固まっているトウの頭を無言で撫で続けるのであった。



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