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第26話 豹変した金色の王子。

「トウに、何のようですか?ミラルド王子……。

しかもこの状況は……一体?」


後ろ手に支えるラファエルの手に力が籠る。


「お前には関係ない話だ。……下がれ。」


王子が長い前髪の奥から、ラファエルを睨みつけた。


「……そういうわけにもいきません。

国王の命で此処におります。」


「……トウをこっちに寄越せ。」


そういうと、王子は私に手を差し伸べた。


緊迫した状態が続く。


どちらも譲らないのが、空気だけでも感じ取れた。

だが、トウは王子に名前を呼ばれる違和感にハッとする。


差し伸べられた手の威圧と、ラファエルの私を守ろうとする気迫に、トウは意を決してラファエルの前に滑り出た。


そして迷いなく、王子の手を取ろうとするトウに、ラファエルが驚いた。


「……トウ!?」


驚くラファエルが自分の方に引き寄せようと、トウの腕を掴む。


「ラファエル、多分、大丈夫……。」


ラファエルを見上げ、拙い笑顔で微笑んだ。

そして王子にも微笑むトウ。


「……ゼロ?」


「……そうだ、トウ。僕の体を取り戻した。」


「……えええ?」


……奪ったのでは?という言葉が頭を過ぎる。


だがその問題を考えるより先に、ゼロがトウを引き寄せ、まるで小さな子供をあやすように両手で抱き上げた。


「……うぎゃっ!?」


「トウ、待たせたな。

僕が帰ってきたからには、魔女が虐げられた時代は終わりを告げるぞ!!」


「ゼロ、待って……!何を言ってるのか……やめて、これ、怖いから!!」


トウを高い高いした状態で、狭い空間をグルグルと回るゼロ。

そして恐怖に青い顔で固まるトウ。


それをポカンとみていたラファエルが背後に迫る足音にハッとする。

そして二人の様子を見ながら、ギュッと眉を寄せるのだった。


「王子!!ご無事ですか!?」


ラファエルの後ろから騒ぎを聞きつけ、たくさんの騎士や侍女が押し寄せてきた。

ラファエルはそのまま何も言わず、ギュッと拳を握り締めながら入れ違いに去っていったのを、トウはまだ気が付いていなかった。


もっと驚いたのは、ゼロの適応能力の凄まじい事……。

テキパキと何やら指示をしながらスタスタと歩いていく。


150年前にも住んでいたからか、勝手知ったる自分の城だからかは知らないが、トウが戸惑う暇も与えないぐらいのスピードでズンズンと進んでいった。


他の城の人も状況を理解出来ず、『王子』を遠巻きで引き気味に眺めている中、魔女の肩を抱きしめ我が物顔で客室に向かった。


……初めは自室に私と向かおうとして『それだけはやばい』と思われたのか、騎士たちが必死で止めた為、客室になった事をトウはいたたまれない気持ちで見ていた。


ゼロの強引さに、言葉を発する余裕もない。


今まで忌み嫌い、虐げられていた『魔女』に突然、この国の王子が友好的な態度を見せ出したのだ。

しかも肩を抱き、親そうに自室へ連れて行こうなどとは、気が触れたか魔女に洗脳されたしか思えない状況だ。


あっという間に見たこともないぐらいの豪華な客室に通される。

ポンっとこれまた豪華な赤いソファーに座らされると、あれよあれよと侍女が色んな箱を運んでくる。


瞬きも忘れ、口が半開きになったまま固まるトウを他所に、怯える侍女がトウの足を綺麗にしてくれていた。


「トウ、靴をいろいろ用意させたのだが、選んでくれ。」


「……へぇあ!?」


突然話しかけられ、何とも情けない声が出たが。

辺りをキョロキョロとやっと状況判断に努めようとしているが、全く頭が追いつかない。


自分の足元を確認する。

そういえば、どこかで片っぽ靴がいなくなってしまったのだった。


片足だけの靴に、トウは恥ずかしそうに足を動かした。


でも出来ればあの靴が帰ってきて欲しい。

あれはセイルが北の国に行く前にブーツと一緒に用意してくれた普段使い出来る靴で、とても柔らかく、履きやすかったから。


トウの気持ちを他所に、侍女が事務的にもう片っぽの靴も剥ぎ取った。


「……あっ。」


小さく声が漏れると、靴を持ったまま侍女が悲鳴を上げ、ひっくり返った。


「ももも、申し訳ございません!!どうか、どうか命だけは……!!」


トウの靴を力一杯握りしめ、トウに向かって平伏した。


「あ、あの、靴を……」


自慢じゃないが、トウは人に謝られたほとんど経験がない。

ラファエルが来るようになって、家族以外でトウに謝罪したのが、ラファエルがもしかすると人生初かもしれないのだ。


なので目の前で必死に自分に謝罪し、命乞いをする侍女になんて声をかけていいかわからない。

オロオロと手を上下に動かしながら視線を泳がすトウを見て、ゼロは声を上げて笑った。


「ほら、トウに靴を返してやれ。

魔女は人を守ることがあっても、危害を加えることも殺めることもしない。

間違った知識を持ち続けることは、お前たちの視野を狭めることになるぞ!」


ゼロの言葉に侍女が泣きながら何度も頷いた。


そしてソッと震える両手でトウに靴を差し出した。


「……ありがとう、ございます。」


靴を受け取りながら、侍女にお礼を言った。


侍女はジッと驚いた様にトウを見つめたが、逃げる様に扉から出ていった。


「……それで、靴はどれにする?」


ニッコリと微笑みながら、ゼロはトウに微笑んだ。


「……」


トウは絶句した。

この笑顔を信用してもいいものかと……。


大体ゼロを起こしてから怒涛すぎる時間があっという間に過ぎた。


一切じっくりと今の状況を考えることもできずに此処にいる。


黙りこくるトウを見つめ、ゼロは寂しそうに微笑む。


「……靴、気に入らなかったか?

それともあの靴に思い入れが……?

なくした場所が特定できず、今必死に探させているのだが……今日は祭りのせいで人も多く、見つかる確率のが極めて低いのだ……すまない……。」


「……いえ、靴は諦めがつきますので大丈夫です……。」


周りに控えたたくさんの騎士や侍女、従者たちを気にして口籠った。

とりあえず、自分のために人員を割くのはこれ以上やめて欲しい旨を伝える。


そして眉をポリポリと掻き、どれも豪華な装飾のついた靴を選ぶフリをした。


どれもトウには手に届かなそうな豪華な靴ばかりで、触るのも怖いのだけど……。

ゼロが寄越した好意を無下にも出来ず、ただ困惑するばかりだった。


結構な時間をかけ、シンプルな黒のカカトが低い靴を選んだ。

しかもサイズもピッタリで、別の意味で驚いたが……。


靴を履き替えると、ゼロが満足そうに微笑んだ。


「良かった。

よく似合っている。」


「……お手数をおかけしました……。

ご好意、ありがとうございます。」


拙い笑顔で頭を深く下げた。


「……トウ、どうしたんだ?

何故ずっと敬語なんだ。

今まで通りに普通に話してくれ。

僕たちは一心同体の様なもんなんだから。」


ゼロがニコニコと問題発言をするたび、後ろに控える人たちがザワザワとするのにも耐えられないだけなのだが……。

だが、此処で『ゼロ』と話すわけにはいかない気がする。


『王子』と話さなきゃいけないのだ。


「お、王子さま。

私、あの……帰ってもよろしいでしょうか?

連行は誤解だったということで、よろしいでしょうか……?」


オドオドするトウに、ゼロは何かを察した様に微笑む。


「ダメだ。

トウには此処で暮らしてもらう。

しばらく、『私』の側から離れない様に。」


「……へ?

……いや、無理です……!し、仕事もありますし、家の修繕も……あと、家族同然のヤギや猫も心配ですし……」


ゼロの行動が全く予想つかず、突然変わった一人称にも恐怖を覚えた。

必死で早口で弁解をする様に説明したが、ゼロの微笑みは崩れないままトウを見つめている。


「……扉の修繕はこちらが負担するべきだろう?

しかもあのボロ屋に一人で返すわけにもいかない。

修繕や安全が確保されるまでは、是非此処にいてもらう。

こちらの手違いのせいなのだからな?」


「ですが……ヤギがお腹を空かせているかもしれませんし……!」


必死に食い下がってみたが、ゼロが首を縦に振ることはなかった。

ヤギの餌やりも、城の誰かが毎日派遣されることとなるのだろうか……。


申し訳ない気持ちでいっぱいになり、肩の力が抜けてしまう。

目深にソファーに沈む体に、力が入らない。


ゼロが立ち上がり、トウの側に来た。

そしてトウの前髪を指でソッと撫でたのだった。


「……トウ、今日は此処でゆっくり休んでくれ。

明日、また話をしよう。」


ゼロはそういうと、トウを抱え上げベッドに寝かせる。

トウにはもう抵抗する力も残っていなかった。


そのまま気を失う様に目を閉じると、あっという間に意識が遠のいた。


眠るトウをしばらく見つめ、ゼロは大きく息を吐く。


「……聞いたか?すぐに魔女の家に修理の物を行かせろ。

修繕はとりあえず外観のみで構わん。

内装については立ち合いなく勝手にすることは出来ないからな。

だが生き物の餌やりと、室内の警備を毎日交代でさせろ。

……少しでも魔女に関し不穏な行動をするものを、徹底的に厳しく処分しろ。」


『王子』の命令に、その場にいた全員が凍りついた。


一人の従者が『王子』に声をかけた。


「……ミラルド様、陛下がお呼びです。」


「……今行く。」


ゼロは振り向きトウを見つめたが、もう一度深く息を吐くと扉から出ていった。


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