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第25話 金色の王子と金色の鎧。

ゼロはゆっくりと金色の髪をした王子に指をさした。


『……俺の体だ!』


確かに言われてみたら、顔も体型もそっくりである。

だがトウが考えられるのは『彼はあなたの子孫』になるのでは?という疑問。


一概に彼がゼロの体だとは信じがたい。


怪訝そうなトウを他所に、ゼロは嬉しそうに王子に飛びついた。


だが半透明なので、王子の体をすり抜ける。

そして顎に手を当てて考え込んだ。


『トウ、おかしい。

この体は僕の体なのに、拒否されるのだが……』


やっぱりなぁと思いつつも、トウはそれどころではなかった。


「そんな事より、今の状況を見てほしい……」


トウがゼロだけに聞こえるように小さな声で呟いた。


「……なんだ、魔女よ。異議でもあるのか?」


そばにいた騎士がトウの髪の毛を掴み、自分の胸の方へ引いた。


髪を引かれ騎士の方に倒れ込み、痛みで顔をしかめるトウを見て、誇らしげに騎士は微笑んだ。


「……手を、離してやれ。」


王子が騎士を嗜めるように言った。

その言葉に渋々とトウから手は引かれ、痛みから解放される。


頭を押さえ、蹲った。


「……あの、聞いてもいいですか?

……私はいったい、なんの罪でここに……?」


意を決してトウが口を開く。


どうせ死ぬなら、自分の罪がどんなものかぐらい聞いてもバチは当たらないだろうと、そう思ったからだ。


王子は前髪を気にして立っているだけで何も言わない。

周りにいる騎士も『いったいなんの罪だったっけ?』と言わんばかりにヒソヒソ話し合う始末だ。


「……罪状の紙を見せていただきたいです。」


「……それは後で届く。」


髪を掴んだ騎士がボソリと呟く。


ゆっくりと立ち上がるトウ。

うっすらと湿気で濡れたワンピースが、体の体温を奪っていく。

自分の手で温めようと、両肩を抱えた。


「では、罪状を詳しく教えてください……。

一体私は何の罪で、ここに連れてこられたのでしょうか……」


徐々に寒さでカタカタを震える体を、必死で抑える。


そんなトウを見て、騎士たちはまた意地悪そうに笑うのだった。


「鈍色の魔女、お前は国からの命令に背き、逃走した罪だ。

昨日担当が変わった事を告げに行った騎士が、お前が在宅してないことに気付き、報告してきた。

いったい丸一日、何処へ行っていた?」


王子が冷たく低い声で呟いた。


「……丸一日?」


そんなバカなと、トウは心の中で呟いた。

自分が家を開けてたのはせいぜい4−5時間だ。


日が高くなる時に家を出て森へ行き、夜更には帰ってきたはずだ。


「……私は数日に一度、必要な分の薬草をとりに所有している森へ参ります。

私の習慣的な行動報告にちゃんと記載して提出しておりますが……?

……しかも昨日出かけたのは午後からで、その報告した騎士は私が丸一日いなかったというならば、何故朝イチで私を捕まえにこられたのでしょうか?」


午後から来ていないことがわかり、丸一日滞在し、帰ってこない事を報告してすぐ、私を捕まえに来たのなら……時系列を考えても、距離を考えても、朝イチはまずありえない。


「その騎士が訪れた時間は、彼の勤務時間を逆算すれば、私の推察が事実なのはすぐにでもわかることではありませんか?」


震える声で抵抗するように、一つ一つをゆっくりと話した。

どうせこんなこと言っても無駄なのもわかっている。


だけどどうせ殺されるぐらいなら、言いたいこと言ってやろうと……そう思ったのだ。


トウの言葉に先ほど等の髪の毛を掴んだ騎士が、カッと顔を赤くした。


「……貴様、俺が嘘をついていると、そう言うんだな?」


騎士はそう言うとトウの体を壁に向かって突き飛ばす。

そして静かに腰から剣を抜いた。


「……ここで、始末してやる。

お前がいなくなれば、騎士の余計な仕事も減るだろう?

どうせお前はここで死ぬ運命なんだ。

侯爵の長男である俺を侮辱して、生きていられると思うなよ!」


騎士は怒りで周りが見えなくなっていた。

自分が守る国の王子が側に立っていることすらもう、忘れてしまったようだ。


トウはギュッと目を閉じた。


剣を抜いた騎士を周りの騎士が止めに入るが、怒りで誰の言葉も受け入れてない様子。


ゆっくりと騎士が剣を引きずり、トウに知らしめるように近付いてきた。

騎士の足音、そして石の床に引きずられる剣の音に、恐怖心が募る。


恐怖で震えるトウの耳に響いてたその音は、段々と弱まり全てがゆっくりと動き出した。


金色の光が目の前で強く光ったので、おもわず目を開けた。

目の前にゼロがトウを見つめ、寂しそうに微笑んだ。


『……トウ、力を貸してくれ。

世界をもう一度、救いたい。』


ゆっくりと半透明の体がトウを通過し、背中にゼロが触れたのを感じた。


「力って、私魔法は使えない……!」


祈るように自分の胸の前で手を組んでいる。

その手を覆うように触れ、ゼロは微笑んだ。


『大丈夫、そのまま……僕に助けてって祈り続けて。

自分を助けて……ここから助けてって、強く祈って。』


言われるまま、トウは再び目を閉じて、強く願う。


重ねられた手から、光が溢れ出す。

その光があまりに眩しく、閉じた瞼からも光を感じるほど、強く大きな光が広がっていく。


『……その調子。

トウ、もっと祈って。

……生きたいって、生きていたいんだって、強く思って。』


ゼロの言葉に、止めどなく涙が溢れた。


生きていていいの?

意志を持って、生きていたいんだって思っていいの?

溢れる涙を流しながら、トウは目を開けた。


眩しさに目が眩んで何も見えないが、しっかりと目を開き、トウは言った。


「……生きたい。

私は、生きていたい。

……助けて、ゼロ……!!」


トウの涙が重ねられていたゼロの手の甲に落ちた。


『……』


ゼロが何か呟いた。

でも、よく聞き取れなかった。


光は強さを増し、あっという間に目が眩んだ騎士たちが足元に倒れてゆく。

でもその光は地下牢から弾け飛ぶと外へ漏れ出し、空高く光の柱を作っていった。


「何事だ!?」


城の地下から光の柱ができた事で、城内がザワザワとし出す。

王が異変に気が付き、周りも慌てていた。


「……いったい何が起きている!?」


それは鎮魂祭で賑わう城下町でも確認出来るほどの大きな光となった。


「……ゼロ?」


トウが金色の鎧の名前を呼んだ。


ゼロの返事はないものの、トウの言葉に返事をする様に、パッと光の柱が一瞬で消えた。

光の柱は消えてしまって、自分の手に触れていた光もなくなり、ゼロの姿は何処にもな口なっていた。


『まさか、私が助けてって言っちゃったから、成仏したとか……?』


そんな予感を他所に、目が慣れるまでトウはその場を動けずにいた。

バタバタと上の方から足音が聞こえる。


たくさんの足音が、光の正体を探しに動き回っている。


……ここにいたらマズいのでは?

トウの頭に不安がよぎる。


足元にはこの国の王子を含む、騎士たちが数人倒れている状態。

そっとすり足で檻の外を目を凝らして覗いてみたが、2つ隣にいたガタイのいい若者も、牢番も倒れてしまって動かない。


私の魔法が暴走したとか思われそうな……?


目も慣れてきたので、そっと騎士を避け、もう一度檻の外を覗いた。


今なら誰もいないのでは?

この混乱に乗じて、逃げ出せるのでは……?


ゼロはこの隙を与えてくれたのか……?


成仏してまで、自分を助けてくれた元勇者に感謝しつつ、トウはオリからこっそり抜け出そうとした。


こっそり扉の前で倒れていた王子を跨ぐと、不意に足を掴まれた。


「……ヒィ!!」


恐怖に声にならない叫びをあげる。


金色の髪の王子は、トウの足首を掴んだまま、ヨロヨロと体を起こした。

トウの小さな体はそれに引きずられ、尻餅をつく。


ジリジリと這うようにトウに近づいてくる王子に、トウは恐怖のあまり叫ぶ。


「ヒッ……だ、誰か助け……殺される!!」


涙目で両手で顔を覆う。


「……トウ!?」


その時、勢い良く開いた地下牢の扉の前に、見慣れた黒髪の騎士が息を切らし立っていた。


「……ラファエル……!」


溢れる涙とほどけた緊張感に、思わず両手を広げる。

ラファエルもそれに答えるかのように、トウを胸に引き寄せた。


トウの足首を掴んだままの王子が今度はトウに引きずられてしまう。


王子は小さく『ウッ』と呻いたが、そのままゆっくりと立ち上がった。


ラファエルの胸に顔を埋め、しがみつくトウにラファエルも強く抱きしめた。


「……トウ、怪我は?

……いったい、何故ここに……何があった?」


「……私、えっと……」


「さっきの光は……?」


呟くように疑問をぶつけるラファエルに、トウの気持ちが追いついておらず、うまく言葉が出てこない。


「あの、私……」


「トウ、落ち着いて。

もう大丈夫だから……」


ラファエルの言葉に、何度も頷いた。

涙が止まらず、必死でラファエルにしがみつく。


「……おい、お前は誰だ?」


王子がボソリと口を開いた。


「……私、第3騎士団副隊長、ラファエル・ヴァンスと……」


私をソッと背中に隠し、ラファエルが王子の前に立った。

だが、王子はラファエルの言葉を最後まで聞かず、頭を押さえ、苛立ちを隠さない様にラファエルを睨み付けた。


「トウを離せ。

その魔女はこっちで預かる。」


王子の言葉に、ラファエルが怯んだ。


「……早く離れろ。

トウをこっちに。」


そう言って王子が私に手を出した。


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