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第20話 ???と???の会話

「……で、うちの国にへの影響は?」


「特にございません。」


「……どこかしら魔女が亡くなったとなれば、我が国の魔女に何か影響が出たりするもんじゃないのか?」


「さぁ……特にその様なことは聞いたことございませんな。」


白髪を耳の上辺りで刈り込んでいるガタイの良い老人が、赤く豪華な椅子に座ったマントの男性に向かいそう言った。

老人も礼装の胸あたりに、幾つも煌びやかな勲章が飾られていた。


片膝をついて話していたが、ゆっくりと足を崩しその場であぐらをかく。


「……まったく、俺の前で悪態つくのは貴方ぐらいなものだよ。」


マントの男性もゆっくりと足を組み替える。


それを見つめ、老人は静かにニヤリと笑った。


「年寄りをいつまでも傅かせたかった訳ではないのでしょう?」


老人の笑みにマントの男性は息を小さく吐き出した。


「楽にするとよい。

……それで?」


「それでとは?」


「わざわざ隠居していた貴方がまた王都に復帰したのだ。

狙いは息子を出世させるためだけではないのだろ?」


「いやはや、ワシに裏はありませんよ。

ただ……望んでも手に入らずにいたものが、諦めて遠い地へ隠居したら予期せぬ事情で出来て、浮かれているんですなぁ。」


「……奥方が亡くなってどれくらい経つ?」


「そうですなぁ、もう忘れてしまいましたが。」


そういうと老人は目を伏せ、頭をかいた。

きっと忘れたくても忘れられないくせに。と、マントの男性はまた溜息をつく。


「やっと妻がワシのそばに居ない事を受け入れたら、都に未練などまったくなくなりましたな。しかしそう思ったのに……もう戻ることはないと思ったのですが……。」


「ラファエルのお陰だな。貴方を王都に戻しただけでも、ラファエルは爵位を授けたいぐらいだが。」


「殿下、アレにはまだ身の丈に合っていない。」


そういうと二人は声をあげ笑った。


少し離れた位置の自分達にまで聞こえてくる彼らの笑い声に体が強張る。

控えていた騎士達はピリピリと緊張の糸を張り巡らせていた。


老人は現役で城勤をしている時、『化け物』と呼ばれるほどのタフさと粘り強さがあった。

それは老人と会ったことのない若い騎士たちの間でもいまだ噂が残るほど。


いまだ衰えない筋肉と、大きな体格。

そして顔に残る大きな古傷。

過去に敵が攻めてくる中、自身の剣が折れ武器もない絶体絶命でも、側にあった大きな木を腕力だけで引き抜き、敵の剣や飛んでくる矢までもその木だけで防いだという。


そんな伝説の老人が目の前にいるというだけで、若い騎士たちは震え上がっていた。


「……して、殿下。

先ほどの願いを受けるにあたって、ワシからも願いがあるのだが。」


「珍しいな、貴方がお願いとは。」


「ラファエルの婚約を認めるにあたって、所属する第三を魔女の任から外して欲しい。

ラファエルはこの国の情勢にまだ疎い。

魔女に関しても教養の届かぬ田舎へ行けば行くほど、絵本の中の物語ぐらい現実と離れている存在なのだ。

魔女と関わる事が、どれほど自分にとって厄になるかを分かっていない。」


老人の表情が固くなった。

そして眉を寄せ、マントの男性を見上げる。


「……ラファエルが魔女にいれあげてるとでも?」


マントの男性が肘掛に手をつき、人差し指をトントンと動かした。


「使用人の話ではまさにそうだ。

だがまだ知り合って浅い。

なんとでもなるうちに、ラファエルを魔女から引き離さなければ婚約にもケチが付く。」


「そうか、一応王にも相談してやれるだけはしよう。だが第三は昔から魔女の対策が任務のひとつに含まれているからなぁ……ラファエルは就任してまだ日も浅いし、別の部に移動させるのも難しいかも、というのが本音だ。

魔女の世話係は別の隊員にさせるように忠告する事ぐらいしか介入は難しいかもだが……。」


「……ワシからも婚約を盾に引き離す様にしてみよう。」


「……そうだね、今回の婚約は政治的理由がとても強いが、そっちにとっては大事な婚姻となる。

ヴァンスはまだ爵位が上がり浅い貴族であるし、貴方が隠居してた間の『繋がりのブランク』もある。

ラファエルの将来を考えたら、この結婚は成功させねばならないからなぁ。

先方もとても返事を急いでいる様だし。」


「……そうですな。

ワシはもう老い先は短いが、ワシの目が黒いうちにラファエルが貴族として立派に生きられる基盤を残さねばならぬだろうし、よく言って聞かせましょう。」


老人の強い眼差しにマントの男性は肩を竦めた。


「ああ、うちの国の魔女もうっかり死んでくれるなら楽なんだけど。」


マントの男性がボソリとそう呟くと、老人の顔色が変わった。


「殿下!!」


老人の声にマントの男性はビリリと体が背もたれに引いた。


驚いて目を丸くするマントの男性に、老人は眉を寄せ睨みつける。


「……魔女が死ぬとこの国は衰退する。

150年前かけられた呪いの存在を忘れたか?」


「……知ってるよ。ちょっと思った事を言っただけじゃないか。

それに今の問題のガンも魔女だ。

魔女がいなければこの婚約もすんなり進むというのに……」


「……殿下。」


今度は諭す様な声で老人は続けた。


「魔女のせいでワシの妻は死んだ。

……ワシが受けた魔女の呪いのせいだとワシは思っている。

ワシは死にゆく魔女を助けなかった。

側に幼子がいたにも関わらず、だ。

国に守られ、そのクセ国のお荷物である魔女は死んでも構わんと思っていたせいだ。」


「……」


マントの男性は無言で老人を見つめていた。

その視線を気にせず、老人は静かに話を続けた。


「……呪いは確実ある。

嘘と思うなら、北の国の動向を伺えばすぐにでも答えは出る。

魔女が死ねば国は死ぬ。

次の変わりの魔女が早く生まれなければ、北は滅びる。」


マントの男性は半信半疑な表情を浮かべる。

老人はマントの男性を強い目で見つめ続けた。


「北が飢えれば糧を求め戦争に発展するかもしれないので、どのみち動向は細かく知っていたほうが良い。

いいですか?魔女を死なせてはならない。

魔女を殺してはならない。

そして、魔女のそばに居てはならない。」


「……分かったよ。

ともかくラファエルの婚約はよろしく頼んだよ。

魔女の件はこっちで出来るだけなんとかしよう。」


マントの男性は老人に静かに手を下げる。


「御意。」


老人はその合図に立ち上がると、小さく頭を下げ大股で部屋から出ていった。


「……殿下、話はもう良いのですか?」


離れていった騎士がおずおずとマントの男性に問いかけた。


頬杖をつき、不満げなマントの男性は大きく息を吐いた。


「……呪いねぇ。

死んでも生きてても困るなら、誰の目にも触れない様に城の地下牢にでもずっと幽閉しとけばいいのに、なぜそんな厄介の存在を野放しにしとくんだ。

ヴァンス卿もなぜそこまで魔女を恐れる?」


肘掛の端をトントンと叩いていた指で、自分の顎を静かに撫でる。

その動きを見ていた騎士が、視線を逸らしながら答えた。


「……私には、わかりかねますが……」


若い騎士は困った様にしどろもどろになった。

それを見てまたマントの男性は深く息を吐く。


頬杖をつき、自分の短い髪の毛をクルクルと指で弄びながら考え込んだ。


「……とりあえず、僕の邪魔になるなら、地下牢に幽閉しちゃえばいっか。」


マントの男性は名案だと思った。

そして楽しそうに微笑んだ。


「……とりあえず、宰相と、父上に報告を。」


若い騎士は敬礼をし、その旨を伝えに部屋から足早に去った。

マントの男性はその後ろ姿を見ながら再び笑みを浮かべた。

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