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第16話 魔女と魔女。

ムウの薬はとてもよく効いた。

丸一日半寝ていたが、ほぼ全快した。


突然ムクリと起き上がるトウに、ラファエルがとてもびっくりしていたが。


どうやら死んだ様に寝ていたので、記憶がない。

最後に雪に埋まっていたのは微かに思い出せるのだが……。


ベッドの上でラファエルに頭を撫でてもらった気もするが、思い出すと恥ずかしすぎて発狂してしまいそうなので、何度も思い出さない様に頬をパタパタと塞いだ。


お世話になったのでムウに挨拶を申し出たが、仕切りに執事にはぐらかされる。

まさか私の風邪が移ってしまったのだろうか。


そんな心配を他所に、執事は忙しそうに去って行った。


ゆっくりと帰り支度をしていると、執事がやってきて『少し立て込んでいるので元気になったならすぐにでも出発してほしい』と申し出があった。


その申し出にかなりの迷惑をかけていたことを痛感し、トウは病み上がりの体に鞭を打つ様に大急ぎでカバンに荷物を詰め込んだ。


帰り際もムウの姿は見えず、ただ執事が引きつる笑顔で玄関先からトウを見送っていた。


ポータルに足をかけた時ふと振り返る。


「ムウさん、風邪ひどくなったのだろうか?」


ラファエルも、ただトウに微笑んだだけで何も言わなかった。


「トウ、次風邪引いても大丈夫だぞ。

薬の予備をしこたま貰ったからな!」


ラファエルが両手に折った薬紙をジャラジャラさせて、満面の笑みでそう言った。


なんだかラファエルの無邪気さに救われる気がした。

トウは考えることをやめて、ラファエルに微笑み返す。


そして2人でポータルに乗って自分の国へと帰っていった。


「ななな……!」


帰宅して速攻でトウは叫ぶこととなった。


「あら、お帰りなさい。」


まるで自分の家の様にくつろぎ食事をする女性と、ひたすらトウに謝る異国の騎士に、トウは再び叫んだ。


「何故うちにいるのですか!!」


「知っての通り、駆け落ちしたからよ。」


「いや、知らなかったですし!」


「ガッツリ立ち聞きしといて何言ってんの。」


『いやそれはその……』


トウは言葉に詰まってしまう。


取っておいた美味しいチーズをムウが美味しそうに口に頬張った。

……とっておきの時に食べようと思ってたのに……。


悔しそうに頬を膨らますトウにムウが笑いかけた。


「しばらく厄介になるわね。

この国は魔女が3人もいたのでしょ?

だったら1人ぐらい増えたってバレやしないわよね。」


「いえもう私一人です……」


「あら、そうなの?」


ムウはジッとトウを見つめる。

そして優雅にカップに口をつけた。


「まぁ、追い追い考えるとして……さっさとポータルを片付けてもらえる?

勘付かれたくないの。」


北にいる時と大違いの態度に世話になったことも忘れ、トウはぶつぶつ文句を言いながらポータルを畳み出した。


「ポータルってどういう仕組みなんでしょうね?」


異国の騎士はニコニコと微笑みながら、ムウを見つめていた。


ラファエルは冷静にムウと北の騎士の横に座る。

頷くムウと、即座に慣れた手つきで騎士がお茶を入れた。


「……魔女が魔力を込める事で使える様になるの。

私とジェイスが使った後で、あなたたち二人が使ったから、あっちのポータルは微妙かもね。」


そういうと、ムウは静かにカップに口をつけた。


「あー!茶葉まで!!」


トウが叫ぶ声でムウの声がかき消される。


「ゴチャゴチャうるさいわね。

茶葉は私が持ってきたやつよ。

こんな安いお茶、私の口に合うわけないでしょ!」


ムウは機嫌悪そうに、トウの秘蔵の茶筒を振りながら睨んだ。


トウも負けじとムウを睨み返す。


「私が藤色の屋敷で寝込んでた間ずっとここにいたんですか?」


「ええ、さっきも言った通りしばらく厄介になろうと思って。

ここならすぐには見つからないわ。

まさか中央にいるとは思わないだろうから、追っ手が来そうなぐらいには丹色の国へ行って船を渡り、もっと遠くの国へ行くつもり。」


ムウは長い髪を邪魔そうに手ではらった。


「……魔女のいない国に行くわ。

そして彼と幸せになるの。」


「ナナくんの場所から船で……」


トウが持っていた鞄を強く握りしめた。

それを見つめ、ムウはトウに近づきながら言った。


「トウ、あなたもついてくる?

こんな国、いてもいい事ないわよ。」


俯くトウの顎を持ち、目線を自分の方に向けさせた。


ジッとムウがトウを見つめ、トウも何も言わずにムウを見つめていた。


その手を払ったのはラファエルだった。


「……トウは行かない。」


払われた手を軽く撫でながら、長い睫毛をシパシパさせる。

そしてゆっくりラファエルを見つめると、ムウはただ微笑んだ。


「……トウはこの国に必要だ。

アンタが勝手に自分の国を出た事に、トウを巻き込まないでいただきたい。

早々にこの家からも。」


ラファエルは微笑んでいたが、なんだか怖い。

ムウも負けず微笑んでいるが、こっちも怖く見える。


北の騎士と二人で目を丸くしてラファエルとムウを見つめていた。

それは暫く続き、先に飽きたのはトウと異国の騎士だった。


騎士とトウは目線を合わせると、なんとも言えない顔で微笑み合い、諦めた様に4人分の夕食の支度を始めた。

それを異国の騎士は手慣れた様子で手伝ってくれた。


とりあえず夜もふけてきたので、二人には祖母の部屋を提供し、トウは自室で休む事にする。

ラファエルはきっちり夕食を食べた後、城に帰り報告をしなきゃらしく後ろ髪ひかれる思いで帰宅していった。


家に人の気配がするのは久しぶりで、なんだかいつもより安心して眠れそうな気がする。


時折二人の声が聞こえる。

何を話しているかまではわからなかったが、二人の声の間に聞こえる小さな笑い声に、トウの心もふんわり暖かくなった。


どうか、二人が幸せに慣れます様に。

なんとなく、そう思った。


二人がうまく逃げて柵のない世界で生きていけたとしたら、自分の未来も明るくなる気がする。

魔女が誰かと恋をして、その恋が実る事があるとしたら。

まるで御伽噺を読んでいる様に、胸の奥が熱くなる。


その時は自分も。

その時がくるとしたら、自分にも……。


ふと浮かんだラファエルの顔に一瞬で顔が赤くなる。


何故ここであの騎士の顔が浮かぶのか。


あの騎士は関係ない。

たまたま思い出しただけだ。


試しにナナくんの顔を思い出したり、セイルのドヤ顔を思い浮かべて誤魔化す。


『ほら偶然思い出しただけだし。』


得意げに自分に言い訳していてふと、何をやってるのかとハッとする。


なんとも言えない気持ちになりつつ布団でモヤモヤしている間に、いつもの時間にヤギが騒ぎ出す音で目が覚めた。


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