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第15話 魔女が生まれる法則。

心配したラファエルに見つかるまで、呆然と雪の中に埋まっていたトウは、その夜高熱を出した。


続々と他の魔女が帰路につく中、迷惑にもトウとラファエルは留まる事となった。

ヤエも心配してくれて、何度も帰る間際に様子を見に来てくれ、看病に残ると駄々こねるナナが、騎士に引きずられて戻っていくのを後でラファエルに聞いた。


ムウはとにかく心配してくれて、『気にせずゆっくりしていってね』とは言ってくれたが、自分だけが残る事に申し訳なさが一杯で、今すぐでもポータルに身を任せて帰りたくなる。


「トウ、ダメよ。ポータルを通るにも体力がいるのよ。

今のあなたでは帰れないわ。」


ムウの笑顔は優しく穏やかだったが、興味本位で聞いてしまった立ち話が重なり、ムウの表情がどこか悲しげに見えてしまう。


『気まずい……。』


ムウの顔を見ることができない。

思わず愛想笑いを浮かべながら布団の中に頭まですっぽり潜り込んだ。


そんなトウを見てムウは何か言いたげに微笑んだ。

ラファエルはそんな空気を察してか、突然ムウに提案をする。


『できたら医者に見せたいのだが……』


ムウと執事は一瞬顔を合わせたが、すぐに用意させると部屋から出ていった。


「……何があった?トウ。」


モソモソ布団から顔をだし、真っ赤な顔でラファエルを見つめる。


「……医者なんて来ないわよ。」


「何をいう、体調が悪いときは医者に見せたらすぐ治る。」


「魔女を見てくれる医師なんていないわ。」


「……この国にはいるかもしれない」


「あの反応見なかったの?」


具合が悪いせいもあり、いつもより卑屈な態度を見せるトウ。

ラファエルは眉を寄せ、ため息をついた。


そしてトウの寝ているベッドの側まで椅子を引きずってきて、真横に座る。

トウは再び気まずそうに布団に潜った。


「……あの雪の中で、何があった?」


背もたれに肘をかけ、首を傾けた。


最初はただ何も言わず潜っているトウにラファエルは根気よく……見つめた。

布団の中からでも気配はわかる。

ジッとこっちを見て微動だしないラファエルに、トウはいてもたってもいられなくなる。


「……私もしかして、母や祖母の子供ではなかったのかもしれない。」


ボソリと呟くと、潜った布団の端に重みが伝わる。

トウの背中あたりにポンポンと振動が伝わってきた。


ゆっくり布団から顔を出すと、ラファエルはトウの方を見ないで俯いていた。

手だけ優しく子供を慰める様に、トウの背中をポンポンと叩いていた。


トウの目に涙が溢れた。

ラファエルは何も言わなかったが、トウは堰を切ったように話し始める。


「私、お母さんの子供じゃなかった……!

魔女って代々魔女の家系に生まれるのではないらしい。

何かの周期で、何処かに特別変異で生まれてしまう呪いの様なものだった。

……私は実の母親に捨てられた……要らないなら、私は何故生まれたのだろう?」


しゃくり上げながら泣くトウに、ラファエルは頭を撫でる。


「……トウ、今は体調を治すことだけ考えよう。

何があったか聞いたのは俺だが、それは間違いだった……」


枕に伝う涙を指で拭う。

だがそれが間に合わないほど涙は後から溢れてきた。


額に当ててた温まったタオルを取り、指で間に合わなかった涙を拭うと、冷たい桶に浸す。

そしてそれを絞り、また額に置いた。


「トウは要らない存在ではない。

魔女でなくても子は親を選べない。

そして魔女でなくても、子は親から捨てられる……。

慰めにならないかもだが、俺もずっとじいさんに拾って貰うまで、1人だった。

だから、気持ちはわかる。」


見開いた目からまた涙があるれる。


ラファエルはまた涙を指で拭うと、トウに少しだけ笑いかけた。


「今は、寝よう。……俺が側についている。」


そういうとラファエルはトウの頭を撫でた。

トウが寝付くまでずっと……。


やっと寝ついたトウの寝顔を見つめ、ラファエルはふと立ち上がった。

迷わず扉の方へ向かい、徐に扉を開く。


突然開いた扉からムウの執事が倒れ込んできた。


「……盗み聞きとは趣味が悪い。」


床に転がったままバツが悪そうな顔で笑う執事に、ラファエルが睨みつけた。


「声をお掛けしたのですが……その、反応がなかったもので。

様子を伺っていたのでございます。」


「そんな嘘くさい言い訳が通用するとでも?」


「本当でございますよ!医者を頼まれたので、そのご報告に……!」


執事は必死に両手を振った。


「……それで、医師は用意できたか?」


執事に威圧的な態度でラファエルが凄む。

うすら笑みを浮かべた執事の顔色が、少し曇った。


「……それが、その。

この国には魔女を見てくれる医師がおりませんでして……」


「魔女とはいえ同じ人間だろう!」


「ですが、その……呪いを怖がる者が殆どですし……」


『この国もか……』


ラファエルは心の底で呟いた。


「ならば薬を……!」


「は、はい。それならばムウ様が調合してくださいました!!」


執事は懐から折った薬紙を数個ラファエルに見せる。


「ムウ様の薬はご自分がまずお試しになられているため、医師の薬よりもよく効くと言われていますので……!」


しどろもどろの執事を目で『出て行け』と合図し、しっかり姿が見えなくなるまで見送った。

ラファエルは扉を閉めながら肩から息を吐き出した。


「……自分で試すなんて、モルモットみたいだな……。」


少しムウがかわいそうに思う。

だが今自分はトウのことで精一杯だ。

まずはトウを救わねば……!


ラファエルはトウの側へと歩いていった。


ムウの薬は本当によく効いた。

水で練って飲ませてから半日で熱は引いた様だった。


これは常備に少し多めに貰いたいという、図々しい申し出をしてしまうぐらいに。


「……あなたは魔女を怖がらないのですね。」


ムウは面白そうに笑った。


「私の他にも『魔女』を怖がらない騎士はいるのではないですか?」


ラファエルは笑顔が固まったムウに微笑みかけた。


「……そんなものはおりませんわ。」


ムウは取り繕う様に再び笑顔を浮かべ、ラファエルから視線を外す。


「……彼は何もかも、あなたのために捨てると言っていた。」


ラファエルはまっすぐムウを見つめる。

ムウは俯いたまま悲しそうな表情を浮かべたが、それを隠す様にラファエルに背を向ける。


「……あなたはそれで彼が幸せになれると思いますか?」


とても小さな声でムウが呟いた。


「……私には、わかりません。

彼は私がトウを気にする素振りで、私が魔女を嫌っていないのだと気がついた様です。

そして食事中にあなたと幼馴染みだと教えてくれました。

私は彼のことをそれしか知りません。

……だから、何が彼の幸せかはわからない。」


ムウがゆっくりとラファエルを見つめる。

そしていつもの笑顔で微笑んだ。


「……そうですか。

くだらない話をしてしまいました、お手間を取らせてしまい申し訳ありません。」


ムウはそういうと立ち去ろうと踵を返す。

ゆっくり歩くと、扉の前でふと立ち止まった


「彼は来週婚約されるのですよ。

トウと同じぐらい歳の、とても笑顔が可愛らしいお嬢さんでしたわ。」


そういうと扉に手をかけた。

それと同時にラファエルが口を開く。


「……今から無責任なことを言いますが、私の独り言として聞いてください。

……私は彼じゃないのでわかりませんが、私なら……信じ合える相手となら、どんなことも乗り越えられると信じてます。」


「理想論ですわね。」


ムウはそういうと、笑った。

そして振り向かず、そのまま扉から出ていった。


ラファエルはそのまま身を任せる様に、側にあったソファーに深く座り込んだ。

そして自分の額を手で抑え、頭を抱える様にソファーに身を任せた。


そして重い腰を上げるように立ち上がり、苦しそうな寝息を立てるトウのそばへと歩いて行った。



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