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第13話 魔女の集会。


11時ピッタリに、古い鐘の音が鳴った。

低くお腹の底に響く様な、錆びた音がする鐘の音。


この鐘は150年前から変わらないのかもしれない。

この鐘の音を聞くのは2回目なのだが、なんだか昔から聞いていた事ある気がする。

もしや母のお腹の中だろうか?

なんて妄想したら、この鐘の音も母との思い出となる気がして、思わず心地よくも感じてしまった。


「コホン。」


ムウが咳払いをすると、長テーブルに飲み物が運ばれてきた。


長い長いテーブル。

高そうなテーブルクロスでお化粧をされている豪華なテーブル。

その上にこれまた高そうな食器とカトラリーが1ミリのズレもなく並べられていた。


主宰のムウを先頭に、年齢の順に席があった。

ココがいないのでトウは一番端、青藍の魔女の隣に着席した。

隣と言っても、椅子2つ分は大きく離れている。


ムウ以外は全員未成年なので、ワインに見立てたブドウジュースが振舞われる。


「……本日、東の薄桜が国家行事にて欠席との連絡を頂きました。

他は全員揃ってますので、始めさせて頂きますわね。」


ムウは立ち上がり、グラスを掲げる。


「我ら同志、ここに再び集い、出会えた事を喜び合おう。」


『カンパイ!』


とムウが声を上げると、全員が立ち上がりカップを上げた。

トウはオドオド見様見真似で慌てて立ち上がる。


その様子を見てムウは目を細め、ナナは眉を寄せ、遠くに控えたラファエルは笑いを堪えた。

トウは途端に恥ずかしさが湧き上がり、下を向いてしまう。


全員が着席をし、カップに口をつける暇もなく、トウも着席した。


下を向いてモジモジとするトウに、ナナが『しっかりしろ』と言わんばかりに睨みつけた。

トウは眉を下げ、泣きそうになった。


「鈍色の……大丈夫ですよ、そんな緊張しなくても。」


長テーブルの主宰席からムウがトウに微笑んだ。


「……はい、すみません……」


消える様な小さな声しか出ない。

それをまたナナの機嫌を悪くさせた。


顔を上げなくてもわかる。

ナナが睨んでいる事が……。


ムウは目を細め、微笑みを崩す事なく前を向く。


「それでは、今年の報告から。」


ムウが静かに着席をする。

全員が目の前にある資料に手をかけ、ページをめくった。


パラパラと紙がめくられる音が響く中、ムウが書類を淡々を読み進める。

質問はないかとみんなを見たが、手を挙げるものはいなかった。


次に東の国のナナが自分のページを読み進めた。

形式的に書いてあるものを早口で読み進め、質問はないかと睨みつけながら聞く。


緩やかに去年と同じ集会が続いていった。


『毎年同じ、去年と書いていることも一緒。』


トウはそう思った。


実はこの報告資料は魔女が作ったものではない。

国が考え上げて報告している物なのだ。


魔女集会という場を使い、お互いの国の状況を報告し合う……そういう場なのだ。

なので質問があるわけがないのだ。

トウだってこの紙を今日初めて見た訳だし。


「それでは読ませて頂きます。」


トウの横にいた少女が立ち上がった。

ハッキリとした可愛らしい声がトウの耳に通り抜ける。

だがふと彼女の言葉に違和感を感じ、トウは顔を上げた。


「……報告する、じゃないんだ……?」


ボソリと呟くと、どうやら少女に聞こえてしまった様だ。


「あああ、そうでした!すいません!!」


少女は紺色のボレロの付いたワンピースのスカートをギュッと握りしめる。

後ろの騎士の反応を気にする様に振り返ると、またムウを見つめた。


「ごめんなさい、緊張して間違えてしまいました!

……えっと、報告します!」


まっすぐ資料を見つめると、よく通る声で『報告』を始めた。


トウはしまったと思い、ますます下を向いてしまう。

口に出すべき言葉ではなかった。

もしかすると彼女は気分を害してしまったかもしれない。

申し訳なさそうに報告し終わった少女をチラリと見ると、目があった。


少女はトウを見て恥ずかしそうに笑った。

笑いかえすこともできず、パクパクと声にならない声を吐くと、ムウに名前を呼ばれる。


慌てて立ち上がり、トウも報告をし始めた。


報告し終わった時にまたチラリと少女を見ると、また自分に微笑んでくれた。

今度こそ、下手くそな微笑みを返す事ができてホッとする。


自分の仕事が終わり喉を潤す様に、飲みそびれていたぶどうジュースを一気に飲み干した。

再び隣の少女と目があった。


少女はコッソリとトウの方に体を寄せ、自分の口元に掌を置く。


「さっきは、教えてくれて、ありがとう。」


多分そう言っていると思う。

そしてまた人懐っこい笑顔で微笑んだ。


「……ごめんなさい、余計なことを言いました……」


素直に謝罪するトウに少女は首を振る。


「違うの、言ってくれてよかった。

じゃないと後で叱られるとこだったから!」


そういうと人差し指を口元に当て『秘密』とウインクする。


トウはそんな様子にクスッと笑ってしまった。


可愛らしい笑顔を見せる彼女は南にある国にいる青藍の魔女、ヤエだ。

南の国は気がふれてしまった王の治めていた国。


ヤエもまた国から迫害を受けているのか、後ろの騎士を気にしていた。


深い紺色の長い髪を二つに分けて、三つ編みをしている。

年はどうやら席の順番を見る限り、ナナより下で、自分よりは上らしい。


「全員報告は終わりましたね。

次回は中央の国、鈍色の国で開催予定です。

それでは食事と談笑を愉しみましょう。」


ムウの声と手を叩く音に反応して、どんどんと豪華な食事が運ばれてきた。

トウにはとても食べられる量ではなかったし、日頃食べているものが質素すぎて、豪華な食事は喉を通りにくかった。


気がつくと後ろで、騎士たちも美味しそうに料理を食べていた。

ラファエルが美味しそうに肉を頬張りながら、他の国の騎士と話している様子を見つめ、トウは小さく息を吐いた。


やっぱりこの集会の意味がわからないでいた。


この豪華な食事も魔女はおまけでしかなく、他国の騎士達にうちはこれだけ豊かなものが出せるという自慢も含まれている。

魔女集会自体も、魔女もお飾りなのだ。


『なんて無意味な……』


食事の進まないトウは、今度は声が漏れない様に心の中で呟いた。

フォークで食べたことのない様な大きな肉をコロコロと転がすのみだった。


他にすることもないので、観察する様にキョロキョロと周りを見ていると、またヤエと目があった。

彼女が微笑むので、トウも拙い笑顔を返した。


何度も微笑みあっていると、ムウの閉会の言葉とともに集会も終わった。

各自、騎士とともに部屋へと戻る。


ヤエは別れ際、トウの手をギュッと握ると『今度私の国にも遊びに来て欲しい』といった。

トウはゆっくりと頷いて、ヤエに微笑んだ。


ヤエは南の騎士に手を引かれ、引き裂かれる様に、あっという間に部屋へと連れていかれた。

それを去年の自分と重ねる様に悲しそうな顔で見送った。





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