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第12話 魔女、騎士と集会へ向かう。


とうとうその日が来た。

来てしまった……。


昨日の夜はなかなか眠れずに、今朝は庭のヤギより早く目が冷めた。


いつもより早いご飯をヤギとノラの餌入れに放り込み、ノロノロと支度を始める。


保存食これで足りるかな?

これだけあればほっぽり出されても、帰るまでなんとか食いつなげるだろうか。

……まぁラファエルがそんなことしないとは思うが。


あれから何度かラファエルと朝食を食べた。

そしていろんな話を聞かせてくれた。


自分の村が盗賊に襲われた事や、ラファエルの養父の武勇伝や、前の任務で失敗した話など、トウには知らない世界の冒険話の様に真剣に聞いた。


ラファエルがお土産に持ってきてくれるマフィンがまた絶品で、レシピ知りたさに厨房で働きたくなるほどだった。


セイルとラファエルのおかげで、ガリガリの鳥ガラみたいだった体も、まだ十分ではないが血色よく見えるぐらいにはなった。

心なしか髪の艶も出てきた気がする。

毛先は相変わらず自分で切るため、バラバラのままだったが。


鏡に向かい百面相をしていると、馬のヒズメが聞こえてくる。


カーテンの隙間から確認して、キュッと胸を押さえる。

そして窓を開けて、足音の主に向かって手を振った。


「ラファエル!」


トウが笑顔で手を振る姿に、ラファエルも手を振り返した。


「起きれたんだな?まだ寝てるだろうと思って起こしにきたのに。」


「当たり前でしょ!もう支度も終わってるもの!」


トウはラファエルに向かって『べー』と舌を出した。


「朝飯はもう済んだか?」


「まだよ、待ってたの。」


「よかった、今日はチョコマフィンを焼いてもらったんだ。

トウ、好きだろ?」


「嬉しい!ありがとう。

私もにんじんのスープ作ったの。」


チョコと聞いて、トウの笑顔もより一層光った。

それをまぶしそうに見つめるラファエルの、橋にかける足も躊躇しなくなっていた。


二人で楽しい朝食をすませると、早々にカバンを肩にかけ、支度を始めた。

ラファエルの馬はヤギと一緒に裏庭に繋いで、餌入れにはたくさんの野菜を詰めた。


ポータルがあるので滞在は短くて済むだろう。

これに関してはナナくんに感謝しなくては。


「……ポータルは、初めてなんだが……」


ラファエルが息を飲んだ。


「大丈夫だよ、体が溶けて消えたりしないから。」


ポータルに手をかざし、微力の魔力を流し込みながら冗談めかして言ったつもりだったのだが、ラファエルの顔が少し青ざめたのを見て、慌てて弁解した。


ポータルに手をかざしながら、『魔法が使えなくても魔力はあるのだなあ』と、何となく複雑な思いを馳せる。


そして緊張するラファエルの手を取って、ポータルに足をかける。


「ノラ、留守をお願いね。」


飛び込む前にノラの頭を撫でると、ノラは『ニャア』と鳴いた。

ノラの尻尾がパタリと床に着く頃には、トウたちの姿は消えていた。

ノラは『クアー』と欠伸をすると、キッチリ両足を交互に伸ばし、リビングのソファーで丸くなった。


目の前が明るくなったと思ったら、冷たい風がトウの頬を撫でつける。

慌ててローブのフードを深くかぶった。

ローブがあるので帽子は置いてきたのだが、持ってきたほうがよかったかなと少し心配になる。


「……北の国は寒いな。」


カバンからコートを引っ張り出すラファエル。


「私も初めて来た。」


セイルが選んだローブはとても丈夫で、とても暖かかった。

首元に風が入らない様にしっかりボタンを占めて、赤い鼻をスンと鳴らしながら心の中でセイルに感謝した。


ポータルはどうやら藤色の魔女、ムウの屋敷がある森の入り口にあった。

軽くそこら辺に落ちていていた枯れ葉をかけて、ポータルを隠す。

シンシンと粉雪がポータルの中に消えていく。


『この雪ってノラのとこにも行っているのかな……』


なんて疑問を持ちながら、ラファエルと共に歩き出した。


少しだけ歩くとすぐ、薄紫の大きな屋根が見えてきた。

ムウの屋敷の前は、北の国の騎士達が慌ただしく、忙しそうに走り回っていた。


「やっぱこっちの騎士は寒そうだな。」


ラファエルが小さく呟いた。


「……もしかして寒いの苦手?」


トウがラファエルを見上げると、トウに向かって肩をすくめた。


「……苦手なんだ。」


「まだハイともイイエとも言ってないだろう?」


「今の顔見たら『ハイ』って言ってた」


「……トウは魔法で答えを知ったんだな……」


魔法が使えないこと知ってるのに、ラファエルはすぐこうやって言うのだ。

だがそれは嫌味ではなく、トウを一人前の魔女として扱ってくれている気がするので、トウはニヤリと笑い返すのだった。


このやり取りは嫌いではない。

むしろ少し楽しい気持ちになる。


にやける顔を抑えつつ深呼吸をして、ムウの屋敷の扉を叩いた。


ムウの屋敷はとても広く、立派な家だった。

使用人もいて、トウとラファエルの部屋に案内するのに、荷物を持ってくれたのだ。


トウが感動していると、ラファエルが少し笑った。


「……はしゃぎすぎるなよ?」


「……はしゃいでない。」


「……キョロキョロしてるとコケるぞ?」


「……してない!!……あっ!」


言ってる側からフカフカの絨毯に足を取られる。

こけそうになったのをラファエルが間一髪で支えてくれた。


「……してたな?」


「……うん」


恥ずかしさを誤魔化す様に、ローブのフードを引っ張り、顔を隠す。

前が見えないので、ラファエルがトウの手を笑いながら引いて歩いた。


隣続きの部屋に通された。

中側に行き来出来る扉がある。


「お時間までこちらでお待ちください」と、使用人はさっさと下がっていった。

自分の家より広い部屋をキョロキョロと動き回る。


あんまり夢中になっていたので、口がぽっかり空いたままになっていた。


「……今自分の家より広いって思ってるだろ?」


トウの部屋のソファーに腰かけているラファエルがニヤリと笑った。


「……すごい!なぜわかったの?」


「……実は俺、魔女なんだ。」


「……私魔女なんて初めて見た!」


くだらない事を言い合ってまた二人で笑う。

トウはラファエルと話すことがとても好きだった。


部屋中をくまなく歩き回って、ラファエルの隣に座る。


「ムウさんはすごいとこに住んでるんだなぁ……」


部屋の調度品もいいものが沢山あり、ムウの生活が裕福なのが一目でわかる。

この国はもしや、魔女を重宝しているのだろうか。

だったらなんとも羨ましい。


ボケーと天井を見上げる。

天蓋のついたベッドがまるでお姫様の様な気分にさせてくれる。

そして天井に巡らされた円形の素敵なステンドグラス。


ホウ……と吐息が溢れる。

自分にはない全ての憧れがここに詰まっている様で、トウは頬を染め、ため息をついた。


トウが悦に浸っていると大きな扉がノックされた。


「……はい!」


思わず声が裏返ったが、咳払いでごまかす。


トウの返事に静かに扉が開き、使用人が入ってきた。


「……トウ様、ムウ様がご挨拶に参りました。」


使用人はそう言うと、会釈をして扉元に立つ。

トウは思わず立ち上がり、誰もいないのにお辞儀をした。


「……緊張しすぎだな。」


ラファエルの軽口も耳に入らない程、緊張するトウ。


使用人が静かに扉を開ける。


静かに開いた扉から、薄紫色のウエーブがかかった長い髪を邪魔そうに後ろに流しながら、女性らしい体つきをしたムウがゆっくり歩いてきた。


「よくきてくれました、鈍色の魔女トウ。」


そう言うとムウはトウを抱きしめた。

ちょうどムウの膨よかな胸がトウの鼻と口を塞ぎ、思わず息継ぎをする鯉のようにパクパクとしてしまう。


その様子に『あらぁ』と抱きしめた腕を緩め、トウの頭を撫でた。


「ごめんなさい、大丈夫?」


「は、はい」


トウの返事にムウは微笑んだ。


「……遠いので、きてくれないかと思って心配していました。

ナナも同じ心配をしていて、何度も苦労してポータルを作ってくれたのですよ!」


『あはは』と笑うしかなかった。

まさに言い訳をしてこないつもりだったなんて言えない。


さすが魔女。

なんでもお見通しなのか……。


トウは情けなく頬を緩ませた。


トウを抱きしめたまま、ムウはチラリとラファエルを見た。

ラファエルも視線に気がつき、軽く会釈をする。


ムウは会釈する代わりに、ラファエルに微笑んで見せた。

長い睫毛が目元のホクロにかかる。


ラファエルはムウにほほえみ返した。

ムウの視線はトウに戻されると、トウはやっとムウの腕の中から離された。


「さあ、みんな揃った様です。11時になったら案内しますので、広間にお集まりになってね。」


ムウはそう言うと、足早に使用人に連れられ早々に部屋を出ていった。

ムウの姿が見えなくなると、トウはハァと息をこぼす。


さすが年長者!立ち回りも、言葉の使い方もすごく素敵だ。

しかも大人の魅力もたっぷりだ。


ムウに微笑まれたら、誰しも夢中になるのではないかと思うほどの美貌に、素晴らしいスタイルをしている。

体のラインを強調する様なピッタリとしたタイトな服に、胸元も大きくあいていた。


少しはマシになったとは言え、鶏ガラの様な自分とは比べ物にならないほどの体型に、トウは憧れる様にため息をついた。


それをラファエルは険しい顔で見つめていた。

そしてトウとは違う意味で、小さくため息をついた。




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