貴殿の春画を頂きに参ります by怪盗ヌパン
なろうラジオ大賞の応募作品です。
全くもって意味不明だ。
なぜ、世界的に有名な怪盗ヌパンが俺のトレジャー(エロ本)を盗みに来ると予告したのか? 我が家の玄関に予告状を貼り付け、しかもご丁寧にマスコミ各社と警察にも予告状を送りつけ、怪盗ヌパンはいつも通り劇場型犯罪に仕立て上げた。いい迷惑である。
リビングのカーテンから外を覗くと、自宅アパートの前に警察関係者が厳戒態勢で警備を固めている。さらに立ち入り禁止テープの外側では、マスコミとやじ馬でイモ洗い状態。
「橘さん! 橘さん!」と玄関の戸を叩く音がした。おそらく警察だろう。
僕はカーテンを閉めて急ぎ足で玄関に向かい戸を開けた。
「騒がしくてすいません。警察ですけど……」と五十代くらいの男がスーツ姿で立っていた。そして胸ポケットから警察手帳を取り出した。テレビで見た物とほぼ同じだった。
「ちょっとお話を伺ってよろしいですか?」と男が言うので、「分かりました」と男を含め複数の男女を家に上げた。お陰でリビングの人口密度は過去最高を記録した。
「早速本題ですが、橘さんはヌパンと関係はありますか?」と男に聞かれ、心の中で『それはヌパンに聞いてくれ』と思いながらも「ありません」と答えた。
「それからヌパンが狙っているアダルト雑誌に心当たりは?」とバカみたいなことを真顔で聞くので、噴飯しそうになった。しかし彼らの仕事を笑うのは失礼だと思い堪えながら、「知りませんよ!」と強く否定した。
「ですが、ヌパンが狙うからには、かなり貴重な物ではないかと推測され……」と横から女が口を挟んだ。
『こいつ、自分で言っていることを理解しているのか?』と女を睨みつけながら、「言っておきますけど、普通の売店で買える健全なアダル……」と言いかけた時、俺はハッとした。
一冊だけ! そう一冊だけ! 店で買っていないトレジャーがある。
上京して日が浅い頃、ムラムラした俺は何を思ったのか、裏山に入り一冊の湿ったエロ本を見つけた。そして服の下に隠して自宅に持ち帰った。カピカピになって張り付いたページを袋とじ感覚でゆっくりと剥ぎ取り、現代の感性で見るとかなり厳しい女性達で爆発しそうな若さを凌いだ記憶がある。
あの日以来、裏山で発見したエロ本は押し入れの奥に封印したままだ。
言葉が詰まったことで、警察は俺の意図を察し「ターゲットに心当たりがあるんですか!」と詰め寄ったが――言わないし、絶対に言えない!
俺もヌパンも熟女好きであることは!
読了いただき、ありがとうございました。