飛び降りる物
警鐘が鳴ってかなりの時間が経過した。
兵士たちは防衛態勢を整え、魔物を迎え撃つ準備は出来ていた。冒険者たちも集まり、この街は今までにないほどの防御力を有しているだろう。
しかし、魔物の群れは数え切れないほどいる。数えるのがバカらしく、面倒にになるほどに。
「来ませんな…」
ガイルが独り言のように言った。
魔物たちは丘の上でとどまったままこちらには来ない。何かを待っているようにただじっとその場に立っている。
「何かおかしいわね」
「そうね。でも、相手は魔物。何を考えているかなんて私達にはわからないわ」
「そうね。でも、ここまで予想外の行動をされたら…」
「…こっちにも不安が募るってこと?」
「ええ」
この街、城塞都市「マール」は長年争いとは無縁の街だった。だから、ほとんどの兵士が今回が初陣だった利する。冒険者の人たちもこれほどの数の魔物を一度に目にすることはないはず。
このまま膠着状態が続いたら魔物よりも先にこちらの集中力が切れてしまう。そうなればこの街を守り切ることはできない。
その時、頭にあの2人の姿がよぎった。あの2人は初めての対人戦闘で格上の実力を持つはずのキバを倒した。
異世界人は対人戦闘をしたことが無いと聞いたことがある。人を殺すのに抵抗がある異世界人は多いはず。なのに彼らは…特に彼、ツルノはごく自然にキバを殺した。あんな風に何のためらいもなくただ作業のごとく命を奪う。それはまさしく悪魔の行いだ。
でも、あの2人がいたら…。駄目だ。いない者の事を考えても仕方がない。今できる最善を尽くさなければ。
私は自分の心に活を入れて気を引き締め治す。
その時、魔物の奥の方からドンッドンッという音が近づいてきていた。
「な…なんだ…?」
「一体…」
兵士や冒険者たちの不安がさらに募る。
しばらくして、その音の主が丘の向こうから現れた。
「おい…嘘だろ…」
「なんで…」
「冗談…だよな…?」
「……アーマード…サウルス……」
アーマードサウルス。全身に硬い鱗をまとっている巨大なトカゲのような魔物。全身の鱗は対物理、魔法、熱、寒さに優れている。さらに数々の魔法も使えるというAランク指定の魔物。アーマードサウルス、またの名を動く要塞。
「お嬢…どうしますか?」
「どうする?決まっているでしょう。なんとしてもこの街を守るのよ!」
「ですな!」
私は剣を抜き天に翳した。
「何が相手であろうと、この街を守ることに変わりはない!私たちは守る。いや、守らなければならない!」
そう言うと、兵士や冒険者たちから歓声が上がった。
もう、不安はない。
全員が剣を抜き、杖を構える。
そして、魔物と私達は一斉に動き出した。
すでに戦闘は乱戦状態になっている。こちらの負傷者もかなりの数が出ていた。後ろで神官たちが負傷者に魔法で手当てを行っているが間に合っていない。
このままではこちらがじり貧。しかも、この乱戦状態。体勢を立て直すのはもはや無理だ。
その時、私はシルバーウルフに背後をとれてしまった。
「しまった…!」
「させません!!」
レナが大剣でシルバーウルフを薙ぎ払う。
しかし、横から頭突きをしてきたシルバーウルフの一撃をもろにくらってしまい、遠くに吹き飛ばされる。
「レナ!!」
倒れたレナに向かって頭突きをしたシルバーウルフが飛びかかる。
私は守れないのか…。友人を…。目の前で見殺しにするのか…。
手を伸ばすが、全く届かない。心の奥の絶望が急激に大きくなる。
その時、ドオーンという轟音と共にレナの周囲に土煙が待った。
「な……に……?」
土煙の中に大きな影が見える。
影は人のようだが、何かが違う。鎧にしては大きすぎる影はゆっくりと動く。
そして、頭部らしき部分で目のように何かが緑色に光った。




