取引
「初めまして…と言えばいいのか?」
ドラゴンは俺達に丁寧なあいさつをした。
「これはどうも…」
「こんにちわ」
俺達はそれぞれ挨拶をする。普通にしているが頭の中は混乱状態。思考停止ゆえに反射的な行動しかとれなくなっているのだ。今、普通に挨拶をしたのは元の世界で通っていた工業高校の成果だろうか。
「名前を聞いていいか?」
「ツルノ リクトと言います」
「サワダ カツトです」
「我はファフニール。邪龍だ」
邪龍と言われても何のことだかさっぱりわからない。ましてや、今は思考停止状態。考えることすら不可能だ。お陰で偽名を言うとか言う発想も出なかった。
「……ふーむ。混乱しておるようだな」
ファフニールは俺達を覗き込むように顔を近づけてきた。
「…えーっと」
「…えっ…」
俺達は互いの存在も忘れてその場に立ち尽くしていた。
「ふむ。これでどうだ?」
ドラゴンはそう言うと右手を前に出した。その手の先に魔法陣が展開され、橙色に光り始めた。その光と同じような色をした粒子が俺たちにゆっくりと降りかかった。その途端、俺たちは混乱した状態から脱することができた。
「…大丈夫か…」
「あ、ああ。さすがに驚いたわ。眠気とか一気に冷めたし…」
「それは良かった。さて、色々と話を聞かせてくれるか?」
「…断ったら?」
別に話したくないわけではない。ただ、一応、俺たちに敵意がないかを知りたかった。
「別に何もせんよ。というか、できないし」
「?どういうことだ?」
「我は200年ほど前にここに封印された邪龍」
「いや、邪龍と言われてもわからんし」
邪龍と言えば字の通り「邪悪な龍」なのだろうが、この世界ではどういう扱いなのかはさっぱりわからない。
「邪龍ってあれだろ?邪悪な龍ってことだろ?」
澤田も俺と同じ認識らしい。
「それはあっちだけかもしれんだろ」
「いや、その認識であっているぞ」
「あってるんだ…」
「なんで封印されたん?」
まあ、無難な質問だがそれは愚問と言う奴では?
「街や村で暴れていたら勇者に倒されてしまってな。そのまま、ここで封印されたというわけだ」
「お決まりだな」
「だな」
封印されたせいで俺たちに危害を加えることはできない。というわけか。話はできるのな。
「それでは次はこちらからだ。お主等、一体どこから来た?」
「そりゃ、森から」
「そうではない。ここに、いやこの世界に来る前はどんなところにいた?」
「「!」」
俺達はその言葉一つで冷や汗が流れる。
どうしてわかった?俺たちの正体を見破るようなスキルでもあるのか?…あっても不思議じゃないな。何せこの世界は元の世界の常識なんて通用しない。
「…答えられぬか…。仕方ない」
ファフニールはそう言うと人差し指を立てて
「取引をしよう」
「…はい?」
「は?」
俺達はそろって間抜けな声を出した。
仕方ないじゃん。この展開で取引って…いや、あり得るかもしれないけどこういうのって「よろしい。ならば戦争だ」とかじゃないの?
「澤田…どうする?」
「任せる!」
「丸投げかよ!!」




