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第2話 振付師の本領発揮!

 朝食を終えたアタシは、小屋の外にいた。

 森の中にある一軒家は木々に隠れるようにしてひっそりと建っていた。

 そこから少し離れた空き地。大きな木の傍にロッドユールと並んで立つ。


 彼の指導で魔法の練習を始める。


「まずは火水風土の初歩だな。とりあえず木の葉を動かしてみようか。風の初級魔法だ。風は暖かいほうから冷たいほうへと吹く。それを身振りで表現するには、肘に魔力をためつつ、手のひらを斜め上から下へと動かす」


 身振り手振りを交えての説明。足首まである長いローブが波打つ。

 彼が腕を振り下ろすと、10メートルほど先にある木の枝が揺れてさわさわと鳴った。



「つまり、こういうこと?」


 アタシは右ひじ辺りに集中した。回復ヒールを使うとき、手のひらへ集中するような感覚で。

 それから右手をゆっくりとくねらせるように動かしながら頭の上まで上げた。

 手首を柔らかく回して風を表現してから、さっと素早く斜めに振り下ろす。


 ――ゴウッ!


 突風が起きて木が左右に揺れた。ミシミシと折れそうな音が鳴る。

 たくさんの葉っぱが舞い散った。


 隣にいたロッドユールは目を見開いて驚いていた。開いた口がわなわなと震えている。


「……な、なんだ、この威力は……魔力が多いのか? いや、それだけではないな……」


「んーと……アタシの住んでたとこにあったダンスで、途中までの動きは風を表すんだけど」


 確かハワイのフラダンス。ダンス教室の授業で習った。


 アタシはポッピンダンスとストリートダンスがメインだけど、真似事程度ならブレイクダンスも踊れる。

 ほかにもいろんな動きを知っておかないといけないと言うので、さっきのフラダンスのほかにバレエや日舞もやっていた。もちろんロックやヒップホップも踊れる。



 ロッドユールは額を抑えつつ頭を振った。


「そうか……お前さんはそういうのが得意なのか……」


「うんうん。物心ついた時から踊ってきたし。――んで、さっきやってた火はどうするの?」


「木と木をこすれば熱くなり、やがては火が付く。摩擦による熱だ。それをイメージしつつ指先に魔力を限界まで込めて、弾けるように指を鳴らせばいい」


「ん~。木をこするイメージ……むしろ火打石やマッチのほうがよくない? こんな感じで……」

 アタシは右腕をまっすぐ伸ばすと、左手で肩から指先へとなぞった。そして指を鳴らした。


 ――どごぉぉぉん!



 とたんに、10メートル先にあった木が爆発した。バサバサと音を立てて枝が落ちる。

 アタシは驚いて思わず叫んだ。


「右手から何か出た!?」


「ば、ばかな! 火弾ファイアーボルトだと!?」


 ロッドユールも顎が外れそうなほどに口を開けて驚いていた。


 ……なんか間違えた。

 なんでだろ? マッチをこすって火を着けるイメージを腕と指でしただけなのに。



 ――あれ?

 動作の言語が違うから、変な発動の仕方を?


 例えば日本で人を呼ぶ場合「こっちに来い」は手のひらを下に向けて指を掻くように動かす。

 でもこの動きは欧米では「あっちへ行け」になる。


 今のアタシの動作がこっちの世界では別の意味があったのかもしれない。

 いやいや、それだとさっきのフラダンスで風を使えたのがおかしい。

 それとも、風の動作は地球とこっちで共通だっただけ?



 よくわからないので、まだ固まっているロッドユールに話しかける。


「……先生、魔法の言語って、一種類なの? それとも各種族の言語によって違うの? ゴブリンでも魔法使ってる奴いたけど」


「――ん、ああ。一応、古代語でないと唱えられないとされている。しかし、共通語でも可能だな」


「へー、そうなんだ……つまり今のはアタシが根本的に間違ってたんだ」



 顎に手を当てて考える。

 ――火は出たからイメージは合ってた。

 でも塊が飛んでいった。そこがおかしい。


 やっぱり左腕でなぞったのがいけなかったのかもしれない。

 そのせいで銃やボウガンみたいな意味に変わってしまったのかも。


 そもそも両腕でマッチをイメージしたのが間違っていたのか。

 マッチなんて小さなものだし。

 もっと小さな動作で火を現したほうがいい?



 う~ん。

 考えててもよくわからないので試してみることにした。


 右手の指に魔力を込めて、小指から人差し指の腹を親指で素早くなぞった。


 ボォッ!


 数メートル先の落ち葉にたき火ぐらいの炎が上がった。


「まあまあ成功?」


「いやいや……一瞬であれほど大きな火を作るとは……成功なんてものじゃないだろう……」


「そうかな? これぐらい簡単だけど……これって、同時にやったらどうなるんだろ?」


「え?」



 ロッドユールが慌てたような気がしたが、考えるより先に体が動くタイプのアタシは、すでに右腕をしなやかに掲げていた。

 手のひらと右腕に魔力を込める。


「ちょ、ちょっと待て!」


「えいっ!」


 指の腹をこすりつつ、腕をしなやかに振り下ろす。


 ズゴァァァァアアア――ッ!!


 目の前が真っ赤に染まった。

 火の宿る激しい風が吹き荒れる。

 的にしていた大きな木が一瞬にして燃え上がった。

 枝葉が焼けるとともに、端のほうから黒焦げになって崩れていく。



 1分ほどで炎の嵐は消えた。

 後には灰が山のように積もり、黒こげの根っこだけが残っていた。


 あまりのことに呆然として言葉が出ない。


「……」


「…………なんてやつだ」


「ごめん、やりすぎちゃった」


 ぺろっと舌を出してあざと可愛く謝ってみたが、彼は別のことに気を捕らわれているようだった。


「火の中級魔法である炎嵐ファイアーストームを詠唱なしで発動させるとは……なんということだ」


「火と風を同時に出しただけなんだけど……」


「おそらくそなたが発動の際に込めている魔力量が半端なく多いのであろうな。だから効果も大きくなる」


「でも、この威力で中級なんだね~。けっこう派手なのに」


「魔法は扱う難しさによって三段階にわけられる。火水風土のうち一つの属性を扱えば初級、二つなら中級、三つなら上級だ。属性を三つ扱うことは至難の業。長い詠唱の間、それぞれの属性に対する魔力を均等に配分しつつ集中せねばならない」


「ふーん。両手と両足を別々に動かすようなものかな。今の感じだと、簡単にできそうだけど」


 ていうか、手足ばらばらに動かしつつ指先にまで神経を集中せるぐらいできないと、ダンサーなんてやってられない。当然、振付師もそう。



「そんなことは……いや、サイオンならできるやもしれぬな」


 なぜかロッドユールは呆れた顔をして、疲れたような溜息を吐いた。

 それよりアタシは他の属性の出し方も知りたかった。


「ねえ、先生! 水と土の出し方もあるんでしょ? それ教えて!」


「水と土は火と風より難しいぞ。魔力を物質化させるわけだからな。特に、水魔法の方法を思いつくのに3年かかった。あれは霧の濃い朝のことでな……」


「思い出話はいいから、動き教えて!」


 アタシが急かすとロッドユールは飽きれつつ笑った。


「やれやれ、扱いが軽いのう。――まあよい、つまり空気に含まれる水分を絞り出すような感じだな」


 開いた右手を前に出して、見えない袋を掴むように指を閉じていく。

 最後に手を上に返すと、手のひらに水が一口分ほど溜まってキラキラ輝いていた。



「少ない……」


「これでも水弾ウォーターバレット一発分ぐらいだ」


「ふぅん。――やってみる」


 でも、ただ真似するだけでは物足りない。

 掴むイメージを大きくすればいいんじゃないかと考えた。

 そのためには、まず両手を伸ばして上半身をひねり、周囲の水をもっとたくさん集めるようにして……。


 ……いや、この動き。アレに似てる。

 リキッドと言う水のように体を動かすダンスがある。ポッピンダンスの一種とも言われてるけど。

 水というより、蛸の腕に似た動き。

 手足の関節が消滅したかのような動きでウェーブを作りつつ、水そのものを表現したほうがいいんじゃないかな?



 というわけで、両手に魔力を込めたまま、腕の動きを変えていく。

 滑らかな動きで水の流れを表して、そのまま腕で壺を抱くように、その中へ水を集めるように――。


 ズバ――ァッ!


 アタシの前に水の柱が生まれた。

 それは回転が加わっており、青い竜巻のようだった。



 ロッドユールが隣で叫ぶ。


「な、なんだ、これは!」


「わかんない!」


 水竜巻はゆるゆると進んで、大木の灰を巻き込みながら森の中へと進んでいった。

 最後は木にぶつかって、その枝を叩き落してから消えた。



 ロッドユールが、ぼそっと呟く。


「お前というやつは……」


「ひょっとして、風の動きを加えてしまったのかも?」


「ありえん」


 彼は白髪頭を抱えて呻いた。


「まあでもわかったからいいや。次は土!」


「これもすぐ覚えるのであろうな……ワシが生涯かけてやってきたことを一日で習得しおってからに……」


「アタシ、意味のある動きは得意だから! ――早く教えて!」


「まったく……土はだな」


 その後もロッドユールに教えてもらい、無詠唱魔法の練習は進んだ。


       ◇  ◇  ◇


 夕暮れになるころには、火水風土の初歩はマスターして、中級や上級の魔法を出す研究に移っていた。

 呪文を組み立てる言葉の意味を聞いて、それを一連の動きで表現する。


 さすがに中級になると、呪文詠唱時の抑揚も意味を持つようになってくる。

 それを手足の流れ、体のひねり、頭の振りなどで再現するよう努めた。


 ある意味、曲にダンスを振りつけるのと似ているかもしれなかった。

 呪文の詠唱が楽曲で、歌詞の意味にあった振付を組み立てていく。


 アタシの得意なダンスがポッピンだったのがよかったのかも。

 ポッピンは例えると、激しく細かいロボットダンスな感じ。

 全身の各パーツをそれぞれ弾けるように動かして踊る。上半身と下半身、腕と足を別々に動かすのも慣れたものだった。

 


 呪文の一連の動きが完成したところで、アタシは開けた空き地に立った。

 開けたというより、いくつもの魔法を使ったせいで空き地が広がったんだけど。


「はあっ!」


 左手は横に、右手は上にしなやかに伸ばしつつ、素早く重心移動させた片足でスピンする。しなやかに動く指先それそれに魔力を集中させて、複雑な意味を表現。

 両腕は別個の生き物のようにくねらせた。


 軽やかでありつつ激しいダンス。

 魔力が極限まで高まったところでトリガーとなる呪文名を唱える。


溶岩竜巻マグマトルネード


 すると真っ赤に焼けただれた溶岩を含む竜巻が生まれた。

 広場の端に立つ大木へ襲い掛かる。



 溶岩竜巻マグマトルネードは火、土、風を使う上級魔法。

 大木を燃やしながらも溶岩で固めていく。いつまでもダメージを与え続ける竜巻。

 狙った木は消し炭となったが、周囲の木は傷一つない。

 正確に一体だけを狙う魔法。


 竜巻が消えると、あとには赤黒い溶岩がこんもりと積もっていた。

 溶岩は墨をさらに燃え上がらせて灰にしていく。



 アタシは額に汗を光らせつつ笑顔で振り返った。


「先生! できた!」


「……ああ。そうだな」


 ロッドユールはアタシの後方で所在なさげに座っていた。

 夕暮れ時だから暗くて表情が見えにくいが、とても疲れているように見えた。


「先生、大丈夫?」


「ワシの、ワシの生涯はなんだったのだ……」


「大丈夫、大丈夫! アタシが有効活用してあげる!」


 アタシの言葉に彼は呆れたように笑った。

 なんとなく、この人は信用してもいいのかなと思い始めていた。


次話は寝てなければ一時間後ぐらいに更新です。

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