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第22話 勇者隼人と賢者賢助

大幅に改稿しました。

 昼の木漏れ日が降る森の中。

 猛流を倒したアタシは、勇者隼人と賢者賢助と遭遇した。

 大きな音を立てすぎたようだった。


 アタシは隼人を睨みながら言う。


「わざわざあんたの方から来てくれるなんてね。絶対許さないんだから!」


「何を言っているんだい? 聖女としての役目を果たしてくれないとね」


「賢助! あんたも何こいつに従ってんのよ! 人としてやっていいことと悪いことの区別ぐらいつかなかったの!?」


「ち、違う。僕は……」


「賢助」


 隼人が冷たい微笑で賢助を見た。

 それだけで彼は、ひぃっ、と悲鳴を上げて縮こまった。

 ――これはダメだ。完全に怯えて従わされてる。



 現状は最悪と言えた。

 勇者と賢者を二人同時に相手しなきゃいけないなんて。 


 ただしウィルがなぜかいなくなったのが好都合。

 アタシからは遠く離れられないから、近くで隠れているようだ。



 隼人が剣を抜きつつ微笑む。


「さあ、彩音。大好きな僕の手で死なせてあげるよ」


「はあ? あんたのことなんか、もうどうでもいいのよ! 過去の自分を殴りたいわ、ほんとに」


「照れなくていいんだよ。僕を嫌いになる人なんていないからね」


「その自意識過剰さは死んでも治らなさそうね」


「そりゃそうさ。事実だから直す必要なんてないからね」


 隼人が一歩踏み出した。森の下草がざらざらと鳴る。



 その時、ちょんちょんとエルくんがアタシの背中を突っついた。

 ――準備できたらしい。


 よし!


 アタシは気合を入れた。もうやるしかない!


 

 アタシは隼人と賢助を素早く見つつ、懐から短剣を出す。

 隼人は剣を構えてゆっくり歩いてくる。

 賢助は魔法を唱える準備をしているが、どちらかと言うと、アタシが逃げたときの対処をしようとしている。


 二人ともエルくんには注意を払っていない。



 そうこうするうちに、隼人の間合いに入った。

 彼は余裕の笑みを浮かべて言う。


「許さないって言ってたけど、そのナイフで戦う気かい?」


「アタシだってね、同じパーティーでレベルは上がってんのよ! 刺せさえすればあんただって倒せるんだから!」


 隼人はおかしそうに口を押えて笑う。


「あっはっは、だったらやってごらんよ?」


「言われなくても! ――死んで、隼人ぉぉぉ!」


 アタシは逆手に持ったナイフを胸の前で支えて突進する。

 隼人の笑みは変わらない。


 あと三歩まで来た時、アタシは右足を思いっきり踏み込んだ。そして捻る!

 左手は燃え盛るように泳がせて。


 ドッドドドッ!


 分厚くて高い土壁アースシールドが発生した。

 隼人が驚きの声を上げる。



「――なに!?」 


 彼が肩越しに振り返った。

 ――そう。

 アタシは隼人の攻撃を防ぐためではなく、賢助を狙った。

 しかも賢助を囲むように土の壁を作ったのだった。


 これで分断できた!


「わぁ、なにこれ!?」


「大丈夫か、賢助!」


 そしてアタシは左手を振るう。


「――炎腕爆熱バグナード


 ゴウッ!


 発生した火炎が腕のように何本も伸びて隼人に絡まった。


「くっ――! 彩音が魔法を!」


 隼人が剣を振るって伸びてくる炎を斬った。しかし絡みついた炎までは消せない。

 体をはたいても炎の腕はまとわりついて離れなかった。



 その隙にエルくんが移動した。


 ――おっけー。ここまでは上出来!


 あとはアタシが隼人を惹きつけていればオッケー!


 土壁の向こうから情けない声がする。


「ど、どうなってるの!?」


「水の魔法で僕の火を消すんだ!」


「わ、わかった!」


 出てくるかと思ったが、そのまま魔法を唱えるようだ。

 ――それはまずい!


 アタシは腰をひねりつつその場でターンしながら、両手をしなやかに巻いては広げた。


「させないっての――火炎大嵐フレイムストーム!」


 ゴォォっと燃え盛る炎が渦を巻いて広範囲に広がった。

 周囲の木々を燃やしていく。


 炎腕爆熱バグナードですでに燃えている隼人が苦し気に身をよじった。


「くそっ――回復ヒール! ――でやぁぁぁ!」


 燃えながらも剣を振りかぶって突進してきた。

 移動が速く、太刀筋も確か。


「ちっ、しぶといわね」


 アタシはバックステップで距離を取ろうとしたが、それ以上の速さで詰め寄って来る。


 ザンッ!


「く――っ」


 横に跳んでかわしたけれど、脇腹を切っ先がかすめた。

 それだけで皮膚が裂けて血が飛び散った。


 燃えているというのに、この強さ。

 さすが勇者。



 一方アタシは、炎腕爆熱と炎大嵐と土壁の三つを維持するのが精いっぱいで攻撃はできない。

 エルくんの動きがまだ見えない。


 ――まだなのっ!?


 その時、土壁の上から賢助の声がした。


「大丈夫!? すぐに消す――あまねく廻る水たちよ……」


「今よ!」


 燃えている森の中、爆音がとどろく。


 ――ガォァァアン!


「今ここに雨となり――え? ……ぎゃああああ!」


 チラッと見ると、浮遊魔法で土壁の上に出ていた賢助の上半身を、光の束が貫いた。

 賢助の胸に大穴が開き、信じられないものを見る目つきで穴を見下ろし、震える指先で触ろうとした。

 しかし次の瞬間、口から大量の赤い血を吐いて、どしゃっと地面に墜落した。


 エルくんの精霊銃だ。


 まともに撃っても100%避けられる。

 魔王を倒すほどの二人なんだから。

 だったら、見えない、動けない状況を作ればよかった。


 それが四方土壁。

 これで隼人だけになった。


 その隼人は皮膚はただれ、髪をちりちりに燃やしつつもアタシを睨んで叫ぶ。


「まだまだ……お前を殺せば、火は消える! ――でやぁ!」


 アタシは土壁を消し、そして火炎大嵐フレイムストーム炎嵐ファイアーストームにランクダウンする。

 これにより、魔術のリソースに空きができた。


 自身の脇腹に手を当てつつ、右手の指を繊細に動かして風をまとう。


回復ヒール


 そして隼人の剣撃をあっさりと避けた。

 燃え盛る彼を睨みつつ、距離を取る。


 ただし、マジでしぶとい。

 というか、このまま逃げられたらまた完全復活するだろう。


 ――やるなら今しかない!



 アタシの決意に呼応するかのように森に厭味ったらしい声が響いた。


「そんなに水が欲しいならあげますよ――水牢球アクアコフィン


 ドバァン!


 派手な水音ともに、隼人が青い水の玉に包まれた。

 水の中でブクブクともがく隼人。


 ――いいざまぁ……じゃなくて、チャンス!


 アタシは発動していた魔法をすべて消すと、深呼吸をしてから足を肩幅に開いた。


 隼人は強い。装備も強い。

 火が消えたことで持続ダメージがなくなり、水の中で火傷や髪のちりちりが治っていく。

 ひょっとしたら勇者の鎧とかの効果かもしれない。

 

 やるなら一撃で仕留める大技しかない。


 

 まずは右手で炎をイメージしつつ、うねるように動かす。

 左手は風を意識してさらに複雑に動かし、右手を煽る。

 右足で水をイメージしつつ、爪先足立ちで足首を回し。

 左足は土をえぐるように踏み込んで固めていく。


 炎を風で巻き起こして極限まで加熱、さらに土と水で圧縮する――。


 薄目で見ていると隼人が剣に光を集めていた。


 彼と目が合う。


 その瞬間、頭上に掲げた剣を振り下ろした。


 ザンッ――!


 水の塊が真っ二つに切られて、辺りに水しぶきが飛ぶ。

 ぽたぽたと濡れた前髪から水を滴らせつつ、隼人が微笑む。


 

「何をしたってもう終わりだよ――さよなら」


 隼人が剣を構えて駆け寄って来る。


 アタシは腰を回すようにして、全身で手足の力をまとめ上げる。


「それはこっちのセリフよ、さっさと死んで――四元爆光波プラズマデトネーション!」


 突き出した右手から強烈な白光が迸った。


 まっすぐに駆けてきた隼人へ直撃する。


 グガァァァ――ンッ!


「ぎゃぁぁぁああああ!」



 隼人が光と音と爆発に巻き込まれてもみくちゃになった。

 手足を巨人に掴まれて捻られるように、ねじれていく。

 眼が一瞬で白く焼け、皮膚も肉も消し飛んで骨がのぞく。


 眩しい白光の中、血反吐すら一瞬で蒸発する。

 そして骨すら焼けて粉々になっていく。 


 アタシはそれでも右手を前に突き出し続けた。

 ――やるなら最後までやる!


 手足が消し飛び頭が消え去り、そしてがらがらと着ていた鎧が地面に散らばった。

 でも、でも――!

 アタシは魔法を止められなかった。

 それは恐怖か激怒かわからない。

 ただ感情の赴くままにさらに地面に落ちた剣と鎧を焼いていく。



 ――と。

 アタシの腰に優しい柔らかさが触れた。

 そして怯えるながらも、澄んだ声が聞こえる。


「もういいよ、お姉ちゃん……もう終わったよ」


 エルくんの手のひらから伝わる癒すような温かさに、アタシは手をだらんと降ろした。

 灼熱の光は消えて、燃えて広場となった森の中に、暖かな陽光が降り注いだ。


 アタシは青空を見上げながら、はぁ……と溜息を吐いた。

次話で多分終わりです。

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