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昭和が香る古本屋  作者: 橋沢高広
3/5

【第3回】 趣味に対する彼の見解

 その話を要約すると、こんな感じ。

 永原さんの友人に「Kさん」という人がいる。この人、〈十八歳未満お断り〉の「青年コミックス」が愛読書だとか。いわゆる「オタク」らしいが、相当、研究熱心な人でもあるらしく、その手の知識が豊富。BLに関しても、かなり詳しく、そのKさんから〈仕入れた〉のが「耽美小説」の話題だったとの事。

 話は横道に逸れるけど、このマキノ書店ではKさん用に青年コミックスを〈取り置き〉している。私がBLを優先的に買えるのと同様、その手の本が入荷した時、店頭には直ぐに並べず、Kさんに、まず見せ、その人が買わなかった本を、お店に並べるという訳。しかも、そのKさん、かなり大量に購入するらしい。

「この店としては良い〈お客さん〉なんです。何しろ、購入金額が半端ではないので……。でも、Kの彼女からは、『エロ漫画を売らないで!』と言われてしまいました。その彼女、僕とゼミが一緒なので正直に言えば、少し困っているのも事実……」

「Kさんって、彼女がいるんですか?」と、私は思わず、口を挟んでしまった!

 青年コミックスを愛読書にしている……、まぁ、この件に関して、私が「とやかく」言える立場でないのは解っているけど、その様な男性に「彼女がいる」とは!

 永原さんは再度、私の質問に答えてくれた。

 それによると、Kさんは、かなり真面目な人の様だ。確かに「オタクの要素がいっぱい!」らしいが、普段は、その片鱗も見せないらしい。趣味に没頭する時間と、それ以外の時間は完全に区別出来る人との事だった。

 しかも、その彼女とはデートを頻繁に行うし、記念日にはプレゼントを渡す細やかさも、あるらしい。

 その彼女は永原さんに、「彼から青年コミックスを取り上げてしまうと、返って、人間味として面白くなくなるかも……」という話をしたそうだ。

 この件に関して、彼がフォローを入れた。

「趣味って、ある一線を超えると、その対象に対する〈捉え方〉が変わると考えています。僕は出版物全般に興味を持っていますから、青年コミックスも読みますが、おそらく同じ作品を読んでも、僕とKとでは〈見ている所〉が違っている……、端的に言ってしまえば、僕は『単なる読者』という視線でしか捉えられないものの、Kは別の視線……、例えば、「評論家」とか、「作者サイド」という視線で、その作品を捉える事が出来ると感じているのです。その趣味に関して、かなりの知識を持つ様になれば、作品に対する理解度も上がる筈ですし、同じ作品を読んでも、僕より深く、その作品に触れられる事を意味します。それは、ある意味、羨ましい事ですね。おそらく、Kの彼女も、その点は理解していると思います。ただ、彼の場合、購入する量が……。Kは色々な都合があって、木曜日にしか、この店に来ないのですが、伯父の話だと、一回に三十冊も買った事があったらしく、さすがに、その時は、『エロ漫画を売らないで!』と、彼女が僕に言ったのですが……」

(うわー、寛大な考え方だ!)と、感心しちゃった! 

 もし、私の彼氏が青年コミックスの愛読者だったら、〈ドン引き〉する筈。まぁ、人の事は言えないけど……。実は私、その手の漫画……、かなり過激なのを読んだ事があるんだ……。正直に言って、〈引いた〉……。でも、永原さんの話を聞いて、(そういう考え方も、ありだな……)と感じたのも事実。

 そこで、私、勇気を振り絞って、尋ねてみた。

「もし、永原さんの彼女がBLの愛読者だったとしても、そう言い切れますか?」って。

 それに対して彼は即答する。

「法律に反するものは肯定しませんが、それ以外なら他人と比べた時、一つぐらい突出した趣味を持っていても構わないと考えています。BLが愛読書という範囲なら、別に問題はないでしょう。しかし、その小説に書かれた内容を、『実践してみて!』と言われたら、躊躇ちゅうちょせずに別れます!」と笑顔で話した。

(確かに、BLの影響をそのまま受け、男同士の〈絡み〉を見たいと言われたら、これも〈ドン引き〉よね……)

 そう思った瞬間、彼は私にとって、嬉しい言葉を口にする。

「まぁ、僕には彼女がいませんから、その心配もありませんが……」

(永原さんって、付き合っている人、いないんだ! しかも、BLを読んでいる人を拒否しなかった!)

 この瞬間、私の脳内で妄想が爆発する。

(永原さんを彼氏に出来るかも知れない!)

 だが、それが有り得ない事にも気付く。

(彼にも、選ぶ権利がある……。私じゃ、駄目だろう……)と。

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