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まずはお茶を飲んでゆっくりしましょう

「フェルゼリア・カヅンです。初めまして、お会いできて光栄です。コンティンワール様どうぞよろしくお願い申し上げます」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。私の事はミュリエルとお呼びくださいね。お疲れでしょう、お部屋にご案内する前にお茶は如何ですか」

「ありがとうございます。ミュリエル様、私の事はフェルゼリアと呼び捨て下さいね」

「呼び捨ては……、ではフェルゼリアさんとお呼びしますね」

「はい。こちらは私の助手でグロリアです」


 フェルゼリアさんの影に隠れていて気がつきませんでしたが、金髪にチョコレート色の肌の女性が立っていました。年は私と同じくらいでしょうか。

 ふわふわな茶色の円い耳が頭の上でぴくぴくと動いています。可愛いです。でも、獣人なのは分かりましたが、何の獣人なのかまでは判断出来ません。

 フェルゼリアさんは薄い紫色の髪に白い肌で、瞳は濃い紫色です。年は亡くなったお母さんより少し上でしょうか?


「グロリアと申します。お嬢様、よろしくお願い申し上げます」

「よろしくお願い致します。あ、荷物は先に部屋に運ばせますね、ウエンツお二人のお荷物をお運びして」

「畏まりました、カヅン様お荷物はすべてお運びしてよろしいでしょうか」

「お願いします。グロリア」

「はい。馬車に積んでいる物をお願い致します。赤い革の鞄が私の物です。あと、こちらはこれから使いますので、このままで結構です」

「畏まりました」


 コンティンワールの領地には獣人も多く住んでいますし、屋敷にも何人か働いていますが、王都の人が獣人と一緒にいるのは珍しい気がします。

 グロリアさんの、テキパキと指示する姿は職業婦人と言った凛々しさがあり、素敵です。


「長い時間馬車に乗られてお疲れでしょう。途中天気は如何でしたか?」


 応接室に案内しながら、天気の話で間を繋ぎます。

 社交が得意ではない私は内心ビクビクしながら、笑顔を心掛けて会話を探すしかありません。天気の話は無難と言えるでしょうか。


「お陰さまで天気には恵まれましたので、景色を楽しみながら参りました。普段王都におりますが旅は楽しいですね」

「それは良かったです」


 王都とコンティンワール領は馬車でどんなに急いでも一週間掛かります。途中山等はありませんがずっと馬車に乗り続けるのは大変ですが、石造りで緑が少ない王都と違い、この辺りは畑と果樹園が多く今の時期は街道沿いに植えられた林檎の木に実る真っ赤な林檎が目を楽しませてくれます。

 あの景色が私は大好きなのです。


「こちらにどうぞ」


 応接室に案内しソファーに腰かけた二人を見て、大きな方の応接室に通して正解だったと胸を撫で下ろしました。普段お客様が来ることは殆どありませんが、通常の来客にはもう一つの方の応接室を使います。そちらの方が内装が豪華なのです。

 この部屋は、テーブルに三人掛けのソファーを向かい合わせに置いていますが、もう一つの部屋は二人掛けのソファーの組み合わせなのです。あちらのソファーではフェルゼリアさんとグロリアさんが並んで座れてもぎゅうぎゅう詰めの様になってしまったでしょう。


「お口に合えばいいのですが」


 エリスが用意したお茶とクッキーとパウンドケーキを勧めます。

 クッキーとパウンドケーキは今朝私が作りました。

 クッキーはプレーンの物と胡桃を刻んで混ぜたもの、パウンドケーキはレモンの蜂蜜漬けが入っています。


「美味しそうなケーキですね。戴きます」

「戴きます」


 この世界では甘いものも多くありますが、どれも砂糖がたっぷりで、甘過ぎます。

 砂糖が高価な部類に入るので、甘ければ甘いほど高級という感覚の様なのですが、私は適度な甘さの物が好みです。


「これは上品な甘さですね。美味しくて食べ過ぎてしまいそうです」


 にこにことフェルゼリアさんはパウンドケーキを食べていき、あっという間にお皿が空になりました。急いで食べている様には見えないというのに、瞬く間というのはこう言うことをいうのかもしれません。

 グロリアさんは胡桃のクッキーをもぐもぐと食べています。綺麗なお顔ですが、食べている姿は小動物の様に愛らしいです。年も近そうですし、お友達になれたらいいのですが。


「気に入って頂けたら嬉しいです。良かったらお代わりも如何ですか」

「是非頂きたいです。本当に美味しいですね。菓子の美味しさは甘さだけでは無いと教えられている様です。レモンの香りバターの風味が素晴らしい。本当に美味しいですね」

「良かった。これは亡くなった母が得意だった物なんですよ、今は私の得意なお菓子なんですけど」


 お菓子を気に入って頂けただけだというのに、お母さんを褒めて貰えた気持ちになり、なんだか嬉しくなって余計な事を言ってしまいました。

 貴族の令嬢は台所に入ったりしないのです。夫人が台所に入るのは没落した家だけなのだそうです。


「あ、あの」


 失言に気がついて、慌てて取り繕うとして諦めました。

 こんな事、ビーン様に告げられたら間違いなく呆れられてしまうでしょうが、口止め出来る立場ではありません。


「ビーン様は胡桃の焼き菓子がお好きなんですよ。先に私が頂いたと知ったら羨ましがられてしまうかもしれませんね。早速自慢しなければ。奥様となる方の貴重な手作りを先に頂きましたと」

「え」

「奥様、それはビーン様がお気の毒です。本当はご本人がこちらにいらしゃりたかったのですから」


 今、なんと。


「お仕事が詰まっているのに我が儘は相変わらず、そんな風にお育てした覚えはありませんが」


 あぁ、私抜きに話が進んでいませんか?

 ビーン様がこちらに来たいとおっしゃってたと聞こえたのは気のせいでしょうか?

 顔合わせも無しに、両親不在のこの屋敷に。

 そ、それはちょっと困ります。

 あれ? ところでお育てしたというのは?


「フェルゼリアさん。一つお伺いしてもいいでしょうか、今お育てしたと」

「ええ、私はビーン様の乳母でしたの」


 なんとまた、それは。


「ビーン様が十歳になるまでお側に仕えておりました。幼い頃から険しい顔立ちで、そのくせ甘いものが大好きで」


 幼いビーン様を思い出しているのでしょう。

 フェルゼリアさんは優しく目を細めています。


「ビーン様にもこちらのお菓子を作って差し上げて下さいませ。きっと喜ばれますわ」

「ご迷惑でなければ、きっと」


 ビーン様の元に嫁いで、そんな機会は出来るのでしょうか。

 そこは疑問ですが、考えない様にしておきましょう。

 それにしても、あの顔立ちで甘いお菓子が好きだなんて、なんだか親近感をいだいてしまいます。


「迷惑などとんでもない。是非お願いします。さあ、ミュリエル様そろそろ本題に入りましょう。申し訳ありません、こちらのテーブルをお借り致しますね」


 突然フェルゼリアさんの目付きが変わりました。

 エリスがサイドテーブルを持ってくると、グロリアさんが立ち上がり、鞄から布見本やデザインを描いた紙などを出し始めました。


「ミュリエル様にはまず、ドレスの格についてお話し致します」


 こうしてフェルゼリアさんによるドレス講座は、突然始まったのです。

グロリアさんはアライグマの獣人です。

アライグマはなんとなく器用そうなイメージ。

あと、三話位でビーン様登場の予定です。

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