私の好みは地味すぎでしょうか
「ミュリエル様、申し訳ありません。グロリア」
「あ、申し訳ありませんっ。あまりにも理想的なお姿を拝見してしまい我を忘れてしまいましたぁ」
フェルゼリアさんの一声でグロリアさんの丸い耳の毛が逆立ちました。さっきまで茶色の毛がふわふわとしていたのに、違う動物の耳の様です。
「大変失礼な事を、どれだけお詫びしても足りません。本当に申し訳ありません」
ぺこぺことグロリアさんが頭を下げ、その度に丸い耳もぴくぴくと動きます。
その動きの可愛いさといったら一言ではとても言い表せません。
「申し訳ありませんミュリエル様。私の指導不足です。本当に申し訳ありません」
「い、いいえ。あの、大丈夫です。別に気分を害してはいませんし、あの」
「ミュリエル様?」
私が口ごもっているのを見て誤解しているのでしょう。グロリアさんは心配そうにこちらを見ていますが、彼女の気持ちを代弁するかのように、ぴくぴくと震える耳が可愛くってつい。
「怒っていませんよ。グロリアさん、だからそんなに怯えないで下さい」
「え」
こんな事をしたら余計に誤解されそうですが、震える耳を見ていると口元が緩んでしまいそうで慌てて私は右手で口元を隠しながら謝りました。
「ご、ごめんなさい。グロリアさんが謝る度にお耳も一緒に謝っているみたいで、なんだかとっても可愛くて。笑ったら失礼ですよね。ふふふ。でもすっごく可愛らしいんですもの」
可愛いからといって安易に耳を触るのは大変失礼な事だと以前お母さんに聞いた事がありますから、これは絶対に我慢しなければならないのですが。機会があったら是非一度堪能したいと思ってしまいます。
「あ、そういえば今日は耳を隠していませんでした。ミュリエル様は可愛いと言ってくださるのですね」
心配そうな顔が私の一言で何故か嬉しそうな顔になりました。
失礼な事を言ったわけでは無い様ですが、どうして笑っているのでしょうか。
「グロリアの失礼をお許し頂けるのですか?」
「驚きましたけれど、一応は褒めて頂いたのですよね。それなら私の方が失礼ですよ、グロリアさん。笑ったりして申し訳ありません」
「いえ。あの、可愛いと言って頂けて嬉しいです。この耳はアライグマの誇りなんです」
誇らしそうに胸を張ってそう言うと、今度はグロリアさんの耳もピンと立ち上がりました。目は口ほどに物を言うという言葉が前世の日本にはありましたが、グロリアさんの場合は耳は口ほどに物を言うという感じなのかもしれません。
「そうですか、アライグマ族の方はとても手先が器用だそうですね。昔母に聞いた事があります」
「はい、我がアライグマ族は細かい作業をするのが大好きで、服飾関係や細工物の職に就いている者が多いのです」
「そうですか。素敵ですね」
「でも種族的に肉付きがいいもので、華奢なお体は憧れで、つい興奮してしまいました。本当に申し訳ありません」
しょんぼりしながらグロリアさんは深々と頭を下げました。
体の大きなフェルゼリアさんの隣にいるので目立ちませんが、グロリアさんはかなり肉感的な美人です。
胸とおしりが大きくて、腰はそれなりに細く見えますがこれはコルセットで出来たくびれなのでしょうか。日本的な考えで言えば魅惑的な女性と言えますが、今の貴族の女性は折れそうな程細い腰が美人の条件に入っている様なので、グロリアさんの様なタイプの女性は流行から少し外れてしまうのかもしれません。
でも腰は細く胸は大きくというのが一番の美人とされているので、腰は兎も角胸の大きさでは私も基準から外れてしまうのですが、こればかりはどうしようもないのです。
「私は豊かなお胸の方が羨ましいですけれど」
「それは如何様にも演出できますわ。さあミュリエル様、採寸致しますね」
「あ、お願いします」
「それでは失礼致します。あ、ミュリエル様今更で申し訳ありませんが、私が採寸を行ってもいいでしょうか」
「え? ええと? お願いしますね。グロリアさん、さっきの事は気にしないで下さいね」
「そういう事では無いのですが、ふふ。では失礼します」
何故確認するような事を言ったのか理由が分らないまま、体のあちこちを測って貰うとドレスに着替え今度は私の衣装部屋に案内する事になりました。
「こちらが夜会用のドレスです、こちらは昼の外出用と普段着です」
用途別に掛けられたドレスを見せると二人の目付きが変わりました。
「失礼ですが、手に取ってもよろしいでしょうか」
「ええ、勿論」
「……こちらは、ミュリエル様のお好みでお作りになった物ではありませんね」
「え、あの。これは父が」
フェルゼリアさんの問いに戸惑いながら答えました。
嘘ではありません。お母さんのドレスはお父様が作って下さった物ばかりです。
「こちらは趣が異なりますね。こちらがミュリエル様のお好みで仕立てた物ですね」
仕立てたばかりのドレスを見て、フェルゼリアさんが言い当てました。
「そうですが、どうして」
「こちらのドレスは一言で言えば豪奢、ですがこちらは少し品が良すぎると言いますか」
「あの」
品が良すぎると言われたのは私が作ったドレスですが、それは褒め言葉ではないのでしょうか。
「これから花嫁になろうという方のドレスというよりは、少しお年を召した方のドレスと言った方がいいかと」
「素材が悪いでしょうか」
「いいえ。これはコンティンワール絹の中でも質の良い物をお使いですし、レースも刺繍もとても技術が高い物をお使いですわ。仕立てもお上手ですし、文句の付け所がありません。ただ、華が無いのです」
技術があるのに華がない。それは致命的な問題なのではないでしょうか。
「こういう品の良いドレスは妻となり子供を産んでからでも十分に着られますわ。ミュリエル様はこれから婚約し婚姻されるのですから、結婚前のお嬢様がお召しになる様な華やかな物でもよろしいのではないかと」
「それはつまり、地味という事でしょうか」
言われそうだとは思っていましたが、私の好みのドレスはやっぱり地味過ぎるのでしょうか。




