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15.アニエス帰宅

 リーズから衝撃の奴隷事情を聞いた翌日、アニエスが首都から帰ってきた。

 レミアがアニエスのもとに元気よく駆け寄り、アニエスはその頭を優しくなでる。

 いつもの光景だな。

 だがなぜかアニエスの護衛をしていた騎士連合の人たちは、玄関の前で整列し帰ろうとしない。

 もう護衛いらないだろ。


「みなさん今回はありがとうございました。

次回もよろしくお願いしますね。」


 アニエスがねぎらいの言葉をかける。


「いえ!こちらこそ!

アニエス様の護衛の任、光栄でありました!」


 隊長らしき女性が熱っぽい顔で声を上げる。


「ふふふっ。あなたもありがとう。

話し相手になってくれて楽しかったわ。」


 アニエスは周りよりも少し若い騎士連合員に声をかけ、レミアと同じように優しく頭を撫でる。

 おいおい、撫でられたやつ感極まって泣いてるぞ。

 あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛ず、とか言ってる。


 その後、なぜかアニエスに対して一人一人感謝の言葉を述べた後、騎士連合員たちは名残惜しそうに帰って行った。


 アニエスは彼女らが見えなくなるまで玄関で見送った後、


「うーん、つかれたわぁ。

ねぇレオ、私を部屋まで運んでくれる?」


と言いながら俺の首に手を回し、しなだれかかって来た。

 もちろん!よろこんで!

 いや、待て、リーズが見てる前で、おぶって部屋に連れこむなんてちょっとアダルトなことして怒られないだろうか?

 ていうかこの体勢、俺が手を回せば抱きしめ合う形にならないか?

 気づかなきゃ良かった!

 やばい、手が!手が勝手に!


「待って姉さん、その前に、レオについて話さなきゃいけないことがあるの。」


 アニエスの突然の抱擁に混乱していると、リーズが真剣な表情で切り出した。

 そうだ、アニエスにも俺に制約がかかっていないことを話さなきゃいけないんだ。

 ふざけてる場合じゃなかったぜ。


「わかったわ、食堂でいいかしら。」


「ええ。レミアとレオも来て。」




 皆で食堂の椅子に座り、リーズが事情を話す。


「―――ということなんだけど、姉さんはどう思う?

レオは普通の亜種じゃないし、無理やり処分する必要もないと思うんだけど・・・」


 リーズが伺うようにアニエスに尋ねる。


「アニエスおねえちゃんおねがい!

ちゃんとお世話するから!」


 どちらかというとお世話してるの俺だけどね。


「ふふふっ、大丈夫よ。

ダメなんて言わないわ。

これからもここにいてくれる、レオ?」


「ああ、もちろん!ありがとう!」


 そもそもここを追い出されたら生きて行けないんだ。

 制約がかかってないからって、反抗なんてするわけがない。



 アニエスは満足そうに微笑んだ後、


「でも困ったわねぇ。

レオには今度の貴族議会に来てもらわなきゃ行けないのに。」


と言う。


「え?貴族議会に?」


 それってあれだよな。

 国中の貴族が集まって話し合うとかいう。


「・・・貴族は奴隷を持ったら貴族議会で報告する、っていう慣わしが昔からあるのよ。」


 俺がポカンとしていると、それを感じたのかリーズが説明してくれる。


「権力者が個人で強力な兵力を持たないようにするためらしいわ。

必須制約も奴隷の反抗を防ぐのと、奴隷を悪用できないようにするのが目的だしね。

まあでもそんなのは昔の話で、今では珍しい奴隷や、どれだけ強い亜種を生け捕りにしたかの自慢の場になってるわね。

それもみんな使用人の奴隷を私物化してるだけだし。」


 本当にくだらない連中だわ、とリーズは不満そうに言う。


「・・・それなら別に行かなくてもいいんじゃないか?」


「そうすると難癖をつけてくる人たちが必ずいるから、行かないわけにはいかないのよ。

貴族議会では弱みを見せちゃいけないからね。」


 結構シビアなんだな。

 でもアニエスは、朝とか弱み見せまくってる気がするけど。

 毎朝こぼれそうなくらい服よれよれで起きてくるし。

 何がこぼれそうなのかは知らない。

 外で気を張ってる分、家では気を抜いているということなのかな?


「それにレミアもそろそろ五十歳だから、貴族議会に顔を出させないといけないしね。

そうなるとレオだけ家にいさせるってわけにもいかないし。」


「ちょっと待て。」


「どうかしたの?」


「今なんて言った・・・?」


「レミアを貴族議会に連れて行くこと?」


「もうちょっと前!」


「レミアもそろそろ五十歳だから・・・

ああ、歳に驚いてるのね。

なんだ、亜種っぽいところもあるのね。

言っておくと、精霊族の成人は百歳よ。

成長の仕方には種族差があるけどね。

私たちは少し遅いほうかしら。」


 リーズがなんでもないように話す。

 50歳!?俺の母親より年上じゃねーか!

 いや、取り乱すんじゃない。

 精霊族の寿命を聞いたときに、なんとなく予想できていたことじゃないか。

 でも、リーズたちの年齢を聞くのはやめておこう・・・

 色々ショックがでかそうだ・・・


「レオは?

レオは何さいなの?」


 レミアが俺に尋ねる。

 う、答えにくい・・・

 でもレミアが聞きたいなら答えちゃう。


「じゅ、十七歳です・・・」


「レミアのほうがおねえさんだ!」


「あらあら、やっぱり成長が早いのね。」


 アニエスが驚く。

 こっちのほうがびっくりだよ。

 それにしても俺が一番年下か・・・

 これからはレミアおねえちゃんって呼ぼうかな・・・




 一通り話も終わり、各々席を立つ。


「それじゃあ、部屋まで運んでくれる、レオ?」


 そう言い、アニエスは俺に向かって両手を伸ばした。


「え、やっぱり運ぶのか?

そ、それはさすがに・・・」


「ずるいわ・・・

レミアはいいのに私はダメなのね・・・」


「わ、わかったよ!」


 押しに負けアニエスをお姫様抱っこする。

 軽い!まさしく羽のようだ!

 アニエスが俺の首に手を回す。

 なんで女性の体ってこんなに柔らかいんだろう・・・

 このまま街に走り出したい。


「いいな、いいな!

レミアそれやったことないよ!」


 レミアがアニエスを運ぶ俺のそばをぴょんぴょん跳ねる。

 確かにレミアにはおんぶか肩車ばかりで、お姫様だっこはしてあげたことなかったな。


「じゃあこのあとレミアもやるか!」


 いくらでもしてやるぞ!


「やった!じゃあリーズおねえちゃんも一緒にやろう!」


 俺がお姫様抱っこをするのをボーと見ていたリーズに、レミアが声をかける。


「えっ!

わ、私はいいわよ、そ、そんな子供っぽいこと!」


 リーズがなぜか焦りながら答える。


「そ、それよりレミア、中断しちゃったけど、あなたまだ今日の勉強終わってないでしょ。

抱っこはその後にしてもらいなさい。」


「はーい。」


「それとレオ、明日から朝食後、あなたもレミアと一緒に私の部屋に来なさい。

一緒に勉強教えてあげるから。」


「え、部屋の掃除とかしなきゃいけないんだけど。」


「部屋って使ってない客室でしょ。

それは時間ができたときでいいわ。

あなたにはローズ家にふさわしい奴隷になってもらわなきゃ困るんだから。

いい、絶対よ。」


 こうして、俺の労働時間はまた少し減った。



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