表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/61

14.制約

前回の続きです。

「ねえ・・・あなた・・・

どうしてあいつらに攻撃できたの・・・?」


 青ざめた顔でリーズが尋ねる。


「それに確か私、クレアのところで待ってなさいって言ったわよね。

どうしてここにいるの?」


 なんだ?

 急に青くなったからなにかと思ったら、後を追ってきたことを怒ってるのか?

 さっきはありがとうって言ってたのに?


「言い付けを破ったのは悪かったと思ってるけど、緊急事態だったし仕方ないだろ?」


「悪かったって・・・

あなたなんとも無いの!?」


「ん?なにが?」


 いまいち話がかみ合わない。


「もしかして・・・制約がかかってないの?」


 制約?

 制約って魔法協会に行ったときに話してたやつか?

 それってこの手の甲の紋章のことじゃないのか?


 ポカンとしている俺の顔を、リーズが厳しい表情で、探るように見つめる。

 そんな顔で見つめられたら照れるぜ・・・

 口には出さない。

 出したらたぶん殴られる。


 見つめ合った状態で数秒沈黙したのち、リーズが腰につけていた剣を抜いく。

 え、なんで剣を抜くの!

 まさかお仕置き!?

 真剣で!?


 と思ったら、リーズは剣の持ち手の部分をオレに向け、


「この剣で私を攻撃しなさい。」


と言う。


「え、冗談だろ?」


「いいから早く!」


 なんかすごい怒ってるような・・

 さっきまでめっちゃやさしかったのに。

 まあリーズは盗賊数人を一瞬で倒しちゃうくらい強いし、俺の攻撃じゃあ万が一にも怪我はしないだろう。


「じゃ、じゃあいくぞ。」


「早く!」


 わかったよ。

 左肩あたりに向かって斜めに剣を振り下ろす。

 リーズはそれを片手で掴んで止めた。

 おお、すげぇ。


「本当になんとも無いの?」


「だから、なんともってなんだよ!説明してくれ!」


「そう・・・」


 リーズは少し残念そうな顔をする。

 そして、


「ぐふぅ!」


次の瞬間、俺はみぞおちに肘打ちをくらっていた。





 ローズ家のお屋敷の食堂、リーズ、レミア、俺の三人は席に着く。

 ちなみに俺は両手を後ろで縛られている。

 初めてここに来たときのことを思い出すな・・・

 違うのはアニエスがいないことぐらいか。

 まあ、何度も経験したいような状況じゃないけどね。


 事件の後処理は後から来た騎士連合の人たちに任せて、俺たちはすぐに屋敷に戻ってきた。

 襲ってきた盗賊は、最近この近くにやって来たやつららしい。

 騎士連合は首都にいくアニエスの護衛で手薄になっており、そこを狙われたという話だ。



「おねえちゃん、どうしてレオはしばられてるの?

いけないことしたの・・・?」


 レミアが不安そうに尋ねる。

 まあそれも仕方がない。

 いきなり怖い顔で呼び出されたと思ったら、俺が縛られた状態で座ってるんだから。

 帰ったら甘やかそうと思ってたのになぁ・・・


「その前にレミア、あなたが奴隷化魔法を使ったときのことを、もう一度教えて。」


「・・・うん。」


 レミアが再度、俺と会ったときのことを話す。




「・・・あなた、奴隷化魔法かけたとき、どこまで詠唱したの?

ちゃんと最後まで唱えた?」


 レミアからの話を聞いたあと、リーズは更に尋ねる。


「うん、全部したよ?

――、――――、――― ってとこまで。」


「その後は?」


「そのあと?」


 レミアが首をかしげる。

 それを見たリーズはテーブルに肘をつき頭を抱えた。


「・・・大丈夫かリーズ?」


「大丈夫か?じゃないわよ!

あなたの話をしてるのよ!

わかってるの!?」


 心配したらガチ切れされた。

 すみません、まったくわかってないです・・・


「おねえちゃんどうしたの・・・?」


 レミアも分かっていないみたいだ。


「・・・レミア、授業で教えたわよね。

奴隷化魔法は、亜種を制約で縛ることで奴隷にする魔法だって。

レオにはその制約がかかってないのよ。」


「でもレオはいい子だからだいじょうぶだよ。」


「そういう問題じゃないの!」


 あぁ、レミアがしゅんとなってる。

 可愛そうだけど、落ち込んでるレミアもかわいい。


「リーズ、俺にも状況を説明してくれないか?

何の話をしてるかわからない。」


「いいわ、説明してあげる。

あなたがかけられた奴隷化魔法、レミアは途中までしか詠唱してなかったみたいだけど、本当は最後に、かけたい制約を言うことでそれを奴隷に課すことができるの。」


ふむふむ。


「そして、そのとき必ずかけなきゃいけない制約、必須制約っていうのが決められていて、それが、

『精霊族の財産を害すると痛みが走る』、

『嘘をつくと痛みが走る』、

『術者の命令に背くと激痛が走る』、

『精霊族に攻撃しようとすると激痛が走る』、

『精霊族を殺めると死亡する』、

『術者から逃亡すると死亡する』、

『奴隷化されていない亜種に加担すると死亡する』の7つ。

奴隷化魔法って言うのは、制約で縛り、痛みと恐怖で従わせる魔法なの。

あなたにはそれが一つもかかって無いのよ。」


 ・・・え?

 痛みが走る?激痛が走る?死亡する?

 なんだそれ・・・

 俺にはかかってないって言ってるけど、そんなのかけられたら絶対に反抗なんてできないじゃないか。

 元の世界の奴隷より酷いんじゃないか?


「本当は、必須制約は魔法協会での登録の時に確認されるんだけど・・・

あなたの時は、その、初めからおとなしかったし・・・

家で反抗する意思が無いのも聞いてたし・・・

レミアも泣き出すだろうし・・・

だから、その、かかってるものだと思ってて・・・

確認は省略してもらっちゃったと言うか・・・

どうして私、いつも肝心なところでうかっりしちゃうのかしら・・・」


リーズがまた頭を抱える。


「確認って、どうやって確かめるんだよ・・・」


 落ち込んでるところ悪いが、俺は今それどころじゃない。

 正直、この世界の奴隷に対しての認識が甘かった。

 パニックになりそうだ。


「・・・『死亡する』制約は確認のしようが無いから、

『精霊族の財産を害すると痛みが走る』、

『術者の命令に背くと激痛が走る』、

『精霊族に攻撃しようとすると激痛が走る』、

の三つだけ実際に発動させて確認するの。

制約がかかってないことがわかったら、その奴隷は処分されるわ。」


 やっぱり殺されるのか・・・


「確認方法には4ステップあって、まず最初に、術者が奴隷紋に魔力を流して正式な術者であるか確認するの。

正式な術者の場合は奴隷紋が光るわ。

これはやったわね。

次に、術者の他の命令が制約確認の邪魔をしないように、術者に『これまでの命令を取り消す』という命令を出させるの。

三つ目が、魔法協会の用意した陶器を奴隷に割らせること。

陶器を割った奴隷が苦しんでいるのを見て、『精霊族の財産を害すると痛みが走る』の制約を確認するのよ。

最後に刃を潰した剣を奴隷に持たせて、目の前の武装した魔法協会員に攻撃しろと命令するの。

それで、『精霊族に攻撃しようとすると激痛が走る』の制約が確認できたら、制約確認は終わりよ。

何度やっても制約が確認できないときは、その場で処分されるわ。」


 え、えげつない・・・

 制約がかかっていたら、どんなに酷い命令を出されても、その命令か激痛かの二択ということか。

 レミアはそんな命令しないだろうけど、流石に恐ろしすぎる・・・


「ち、ちなみに激痛っていうのは、どのくらいの痛みなんだ・・・?」


「亜種の種類にもよるけど、『激痛が走る』の制約は数秒痛みに悶えたあと気絶して、半日は目を覚まさないほどの痛みみたいね。

『痛みが走る』の制約はある程度のものに抑えてあるわ。

仕事中ミスするたびにいちいち気絶されても困るしね。」


 聞けば聞くほど酷い話が出てくるな・・・

 心が折れそうだ・・・

 レミアのほうを見る。

 レミアは涙目になった心配そうな顔で俺を見上げている。

 あぁ、かわいぃ、いやされるぅ。


 少しだけ落ち着きを取り戻した。

 ・・・じゃあ、一番肝心なことを聞くか。


「その・・・制約をかけ直すことは可能なのか・・・?」


 声が震える。


「制約を消したり、かけ直したりすることはできないわ。

『術者の命令に背くと激痛が走る』

の制約を使って、命令の一つとして制限を増やすことはできるけど。

『誰々の命令も聞け』みたいに命令してね。

これは元の術者が命令を取り消せば消えるわ。

でも、あなたにはそれすらかかってないからね・・・」


「よ、よかった・・・。」


 安堵に、おもわず声が出る。


「よかったじゃないわ!

あなたこのことがバレたら処分されちゃうのよ!

わかってるの!?」


 あ!そうか!

 過酷な制約がかかっていないことに安心していたが、逆に制約がかかってないことが分かれば、俺は殺されるのか!

 制約がかかっていたほうがよかったのか・・・?

 いや、どっちにしろ地獄か。


「騎士連合で仕事をしている時にバレなくてよかったわ。

あなたを外に出すのは危険ね。

あなたが撃った魔法だって、見られたのが盗賊だけだからまだよかったけど・・・」


 リーズが暗い表情で考え事を始める。

 だけど、ちょっと待ってくれ。


「なあ、リーズ・・・

・・・俺はここにいていいのか?」


 亜種はこの世界では危険な生き物のはずだ。

 今までは制約がかかってると思って、ある程度安心していたのだろう。

 だが制約がかかっていないなら、奴隷であろうとなかろうと関係ない。

 俺は乱暴などしないと誓えるが、この世界の人間からしたら、肉食獣を放し飼いにしているようなものだろう。

 受け入れられるわけが無い。


「・・・そんな怖い顔しなくて大丈夫よ。

追い出したりなんかしないわ。

今までも制約がかかってないのに、真面目に仕事をしていたものね。

それに、あなたはもう・・・その・・・

うちの家族なんだから・・・」


「え?」


 最後、声小さかったけど、いま家族って言ったよな?

 あのリーズが!?


「そ、それにあなたを処分なんかしたら、レミアがまた泣きじゃくるでしょ!それだけよ!

それより早く晩御飯作ってちょうだい。

お腹すいたわ!」


 リーズはそう早口に言い、そっぽを向いた。

 顔が赤くなってる。

 唖然としていると、横にいるレミアが俺の服を引っ張る。


「よかったねレオ!」


 さきほどまで不安で泣き出しそうだったレミアも、俺を見上げ笑った。


 ・・・今日の夕飯は腕によりをかけて作ろう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ