13.盗賊
バルバラと別れ、リーズと二人お屋敷に向かう。
時刻はもう夕方だ。
通りの酒場から楽しそうな笑い声と、おいしそうな夕食の匂いが漂ってくる。
体を動かしたからかお腹空いたな。
一応昼に騎士連合の建物で間食はとっている。
なんかでかい肉の塊だった。
正直胸焼けしそうなくらいの大きさだったが、食べて正解だったな。
今の空腹具合から考えると、きっと食べなければもたなかったはずだ。
バルバラの奴隷になったらすぐにムキムキになれる気がする。
レミアもお屋敷でお腹をすかせて待ってるだろう。
今日の夕飯はレミアの好きなクリームシチューにするか。
「リーズさま!!」
そんなことを考えながら歩いていると、急に切羽詰まった大きな声に呼び止められる。
声の方を見ると、うちに毎朝食べ物を届けにくるウサミミ少女のクレアが、涙で顔を濡らしながらこちらに走って来ていた。
足からは血も流れている。
急いでリーズと一緒に急いで駆け寄ると、クレアはリーズにしがみつきながら、
「助けて!お、お母さんが・・・お母さんが!」
と泣きじゃくった。
パニックになっているようだ。
明らかに非常事態なのが見て取れる。
「落ち着いてクレア、何があったの?」
リーズは膝を付き、クレアと目線を合わせながら訪ねる。
「うん・・・
お仕事から、帰ってきて、街に入ろうとしたら・・・
変な人たちが、襲ってきて、お母さんが・・・
お母さんが!」
「大丈夫よ。必ず助けるわ。
襲われたのはどこ?」
「ここを、まっすぐ、行って・・・
外との、境目のところ・・・」
そう言いクレアは、走ってきた人通りの少ない路地の先を指差す。
「レオ、あなたはここで待ってなさい!」
リーズはそう言い残し、クレアの指差す方向に全速力で走っていった。
待ってろって、話を聞く限り暴漢や強盗か何かだぞ。
リーズ一人で何とかできる相手なのか?
その時一瞬、この世界に来る直前の記憶が蘇る。
頭のおかしい強盗に刺される映像。
刺されるのは俺ではなくリーズ。
俺は飛び込み庇おうとするが間に合わない。
薄く笑う男に背中を深々と刺され、ゆっくりと瞼を閉じるリーズ・・・
・・・くそ!
なに縁起でもないこと考えてるんだ!
俺が行って何ができるかわからないが、とにかくリーズを一人で行かせる訳にはいかない!
俺は涙目でこちらを見上げるクレアの頭を一度なでた後、急いでリーズを追った。
通りをまっすぐ走る。
既に先を行くリーズの姿は見えない。
だがこの道であっているはずだ。
少しすると、
ギンッ!カンッ!
という剣戟の音が聞こえてくる。
目を凝らすと、遠くの住宅街と草原の境界のような場所にリーズの姿が見えた。
倒れた荷車のそばで負傷したマガリを背に庇いながら、10人近くもいるフードの集団と戦っている。
剣と魔法でのめった打ちをなんとかしのいではいるが、明らかにリーズの分が悪い。
やばい、どうする、どうする!
走りながら頭を巡らす。
俺も加勢するか?
いや、明らかに俺が加勢してなにかできるようなレベルじゃない。
最悪何もできず殺される。
助けを呼んだほうがいいか?
騎士連合のバルさんも強いらしいし、彼女を呼んでくれば・・・
とそこで、リーズの背後の建物の屋根の上で何かが動いたのに気がつく。
それはフードを被った盗賊の仲間だった。
手には弓を持っている。
「リーズ!!」
リーズは気づかない。
屋根にいる盗賊が弓を構える。
どうする!
助けを呼ぶ?
いや、そんなの間に合うわけがない。
俺が・・・俺がやるしかない!
走る足を止め、右腕をまっすぐに伸ばし標準を合わせる。
俺が魔法を使ってあいつを倒す!
詠唱なんか覚えてない。
でも言っていただろう、無詠唱魔法ならイメージだけで何でもできる。
魔力量なんて知るか。
空になったっていい。
とにかく今はあいつを止める!
魔力を流し出す感覚は一度体験したはずだ。
あの夜、リーズに教えてもらった時のことを思い出せ!
出ろ、出ろ、出ろ!!
体の中から引きずり出されるかのように、伸ばした腕に何かが流れ出す。
あの夜体感した、魔力の感覚だ。
できた!あとはイメージするんだ。
炎だ、あいつに炎をぶつける。
リーズの出したものより、もっと大きな炎を!
そうイメージした瞬間、空中のガスに引火するかのように、右の手のひらを炎が覆った。
ぐっ、熱い!手が焼けてる!
いや!今はかまってる場合じゃない!
炎は出た。あとは思いっきり前に飛ばすだけだ!
「いっけえぇーー!!」
手を覆う炎の塊をまっすぐ前に飛ばすイメージで、全力で魔力をこめる。
バンッッ!!!
「うわっ!」
ものすごい反動に真後ろに仰向けに転がるが、すぐに体を起こす。
どうなった!?
「ぎゃあああああ!!!」
リーズに弓を構えていた盗賊は炎につつまれ叫び声を上げながら、屋根の上から転がり落ちた。
「なんだと!」
敵が燃える仲間に気がそれる。
その瞬間、リーズはつばぜり合いをしていた相手と、その横にいた数人を一瞬で切り伏せた。
「くっ・・・引くぞ!」
装備が周りより派手な一人が声を上げると、フードの集団は動けない仲間を置いて逃げていった。
リーズの元に駆け寄る。
リーズは魔法でマガリの治療をしていた。
といっても目立った傷はなく、気絶はしているものの命に別状はなさそうだ。
「大丈夫か、リーズ?」
「ええ、私は大丈夫。
マガリさんも無事よ。
治癒魔法もかけ終わったわ。
・・・て、あなた!
手を火傷してるじゃない!」
リーズが声を上げる。
俺の右の手の平は自分で出した魔法で焼け、赤く腫れていた。
「ああ、魔法を出すときにちょっとな・・・
まあ、こんなのはいいんだ。
とにかくリーズが無事でよかった。」
無事な左手でリーズの頭を撫でる。
「う、うん、ごめん・・・
ありがと・・・」
リーズが小声で俺にお礼を言う。
顔が赤くなっている。
とがった耳も先まで真っ赤だ。
・・・え?もしかして照れてるのか?リーズが!?
「・・・じゃなくて!
治療するから手を出しなさい!」
あ、いつものリーズだ。
それにしても珍しい表情を見れたな。
後でからかお。
すこし長めの詠唱を唱え、俺の焼けた右手に魔法をかける。
ゆっくりとだが火傷は回復して行き、やがて元の手に戻った。
「跡も残ってないみたいね。
よかった・・・」
リーズが俺の手を入念に調べた後、ほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとう、リーズ。」
「それは私のセリフよ。
後ろにいたやつを倒してくれたの、あなたなんでしょ?
ありがとう、レオ。
それにしても驚いたわ。
あなた、あんな炎の攻撃魔法が・・・。」
そこでリーズは何かに気がつき、顔からサッと血が引き青くなる。
赤くなったり青くなったり今日のリーズは忙しいな。
でもどうしたんだ?
「ねえ・・・あなた・・・
どうしてあいつらに攻撃できたの・・・?」