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11.甘やかし


「ねえレオ、あなた最近レミアに甘すぎない?」


 お昼のティータイム、レミアを膝に乗せケーキを食べさせる俺に、リーズが呆れたような顔で尋ねる。

 俺がレミアに甘い?

 そうだろうか?

 でも確かに言われてみれば最近、レミアにねだられ夕食後部屋までおぶって連れて行ったり、俺の分のデザートをまるまるあげたりもしていたな。

 今も「食べさせてー」と言われたのを、「よろこんで!」と即答し、レミアの口にフォークを運んでいるし。

 ・・・やっぱり、甘やかしてしまっているか?

 ここはレミアに聞いてみるか。


「甘すぎるかレミア?」


「だいじょうぶ!おいしいよ!」


「大丈夫だ、リーズ。」


「あなたね・・・」


 リーズが頭を抱える。




 お茶とお菓子も食べ終わり、庭の花々を眺めながらのゆったりとした時間が流れる。


「そういえば、今日はアニエスたちはゆっくりできるんだっけ?」


「ええ、仕事も一段落してね。

でも近々、一週間くらい家を空けることになるから、今日はレミアと過ごそうと思ってるの。」


 アニエスが穏やかな表情でレミアの髪を撫でる。


「家を空けるってどこか行くのか?」


 一週間って結構な期間だな。

 そんな長い期間出かけるのは俺が来てから初めてだ。


「二ヶ月くらい先に首都で貴族議会があってね、その準備をしに行かないといけないのよ。」


「なんだその、貴族議会って?」


「貴族として認められた家の当主が参加する国政議会よ。

領地の管理は基本領主に任されるんだけど、共通の決まりとか、大規模な遠征や支援とかは貴族議会で決められるの。」


 リーズが真面目な顔で答える。

 へー、アニエスって貴族だったのか。

 たしかにそんな感じしてる。

 なんかこう、キラキラ?フワフワ?してる。

 貧弱だな俺の貴族イメージ・・・

 ん?でも待てよ?


「領主と貴族ってどう違うんだ?」


「領主っていうのは、亜種結界に囲まれた土地を治める人のこと。

貴族っていうのは、その亜種結界を五つ以上治めて、貴族議会に参加する権限を得た家の者ことを言うのよ。

貴族の家の当主は、皆どこかしらの領主と言うことね。」


「へー、ということはローズ家はこんな広い街を五つも持ってるのか。」


「正確には、うちの領地は八つよ。

まあ、全部が全部こんなに栄えてる訳じゃないわ。

領地として認められるには、一定の大きさと人口のある結界じゃないといけないから、人がいないわけじゃないけどね。

半分以上が農地の結界もあるわ。」


 八つが多いのかはわからないが、やっぱりローズ家は大領主だったのか。

 こんなお屋敷に住んでても不思議じゃないな。




「おねえちゃんたち、何してあそぶ?」


 ティータイムも終わり、俺が食器を片付ける横でレミアがうれしそうに姉二人に駆け寄る。


「私は遠乗りに行ってくるわ。

最近走らせてあげてないからね。」


 そう言い、リーズは馬小屋のほうを見る。


「えー!」


 レミアは久しぶりに姉二人と遊べると思っていたのだろう。

 不満の声を上げる。

 リーズは、姉さんに遊んでもらいなさい、と言いレミアの頭を撫でた。


「そういえばあなた、馬には乗れるの?

乗れるのならたまに走らせてあげて欲しいんだけど。」


 リーズが俺に尋ねる。


「いや、馬なんか乗れないぞ。」


「・・・そりゃそうよね、何言ってるんだろう私。

普通は仕事を覚えさせなきゃいけないのよね・・・。

あなた変に色々できるから、わからなくなっちゃうじゃない、もう!」


 リーズが変なキレ方をする。

 今のは怒られたのか褒められたのかどっちだ。




 庭園の奥の草原に馬に乗ったリーズが出て行くのを見送った後、三人で庭園を散歩する。

 レミアが自由に先頭を歩き、俺とアニエスが後ろを付いて行く。

 レミアは何か見つけては楽しそうな顔でアニエスを呼び、アニエスはそれについて優しく教えている。

 なんだか母と娘みたいだな。

 じゃあ俺は父親役でもするか?

 レミアは絶対にやらん!

 俺が一生面倒を見る!

 いや、これは父親じゃないか。


 まあでも冗談でなく、長女のアニエスはまだ幼いレミアの母親代わりなのだろう。

 若いのに大変だなぁ。

 いやこの世界の人は何百年も生きるんだっけ。

 じゃあアニエスも見た目通りの年齢じゃないのかも。

 ちょっと聞くのが怖いな・・・



 そうこうしているうちに庭の隅まで来る。

 するとレミアが、見て見て!と俺を呼んだ。

 レミアの指差す先を見ると、石畳に直径1メートルくらいの円が彫られていた。

 円の内側には何か文字のようなものも描かれている。

 屋敷の図書館に置いてある本とは違った、複雑な形をした文字だ。


「これが魔方陣か?」


「そう!お花をそだててるの!」


「え!この魔方陣が育てるのか?」


「そうよ、決まった花だけに水と栄養を与えて、庭の管理をしてくれているの。」


 アニエスの話では、これと同じものが庭の四隅にあり、庭を囲うように結界を張っているらしい。

 それは便利だな。

 いかにも魔法世界って感じもするし。


「アニエスがこれを描いたのか?」


「いいえ、何代か前の当主様が作ったの。

なんでもその当主様は歴代でも特に魔法に精通した人だったみたいで、裏の草原を全部花畑にするわ!って言って、お仕事も全部親族にまかせてずっと魔法研究をしてたみたい。」


 アニエスは、素敵な人ね、と言い笑う。

 いやいや、それは素敵で済ましちゃダメだろ。

 まあ、その当主様のお陰でこんな綺麗な庭があると思えば、ありがたい話ではあるけど。




「部屋に飾る用のお花も、いくつか採って行きましょうか。」


 ひとしきりお散歩を終えたところでアニエスが提案する。


「わかった!じゃあおねえちゃんたちの好きなのとって来るね!」


 そう言い、レミアは止める間もなく走って行ってしまう。

 あぁ、大丈夫だろうか。

 転んで怪我とかしないだろうか。

 ハラハラしながら、遠くで花を採ってまわるレミアを見る。


 とそこで、俺の横に立つアニエスがこちらをじっと見ていることに気が付いた。

 何かと思いアニエスを見ると、彼女はゆっくりとした動作で俺の頭を撫でる。


「な、なんですかいきなり。」


「ふふふっ、なんとなくね。」


 アニエスがやさしく笑う。

 おお、年上のお姉さんのスキンシップに思わず敬語になってしまったぜ。

 父親役はまだ無理そうだな。



 しばらく待っていると、レミアが小さな手いっぱいに花を抱えて帰って来た。


「レオ!みてみて!」


「レミアは天才だな。」


「えへへー」


 レミアは俺に撫でられながら嬉しそうに照れ笑いする。

 あ、いま甘やかしてるな。

 まあいいか。


「ありがとう、レミア。

少しかしてくれる?」


 アニエスはレミアから花を受け取ると、目を瞑りながらそれに手をかざした。


「何をしてるんだ?」


「魔力を流してあげてるの。

こうすると、ほんの少しだけど長持ちするのよ。

・・・それじゃあ部屋に飾りに行きましょうか。」


「うん!」




 その後は三人で一緒に、採ってきた花を部屋に活けて回った。

 食堂、三姉妹の部屋、そして俺の部屋だ。

 帰ってきて花を見たリーズは、

「もう、大きい花ばっかりじゃない。」

と言いながらも、自分の花にめちゃくちゃ魔力を注いでいた。

 やっぱりリーズもレミアに甘いじゃないか。


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