08.レミアとの一日
朝、お湯を沸かしレミアたちが起きてくるのを待つ。
ちなみに火は食堂の向かいにある、応接間のような部屋の暖炉から種火を持ってきてつけた。
少しすると食堂の扉が開き、リーズが中に入って来くる。
おお、美少女のネグリジェ姿!
リーズがひらひらの服を着るのは想像できなかったが、なかなかどうして似合ってる。
ちなみに透けてはいない。
まあ元から美人だし、何着ても似合うのかもしれないな。
「ちゃんと言いつけ通りにしてるわね。
じゃあ私の分、用意してくれる。」
リーズはさして気にした様子も無く椅子に座る。
俺は彼女の前にティーセットを運び紅茶を入れた。
リーズは静かにそれに口をつける。
おー、なんだか紅茶を飲む姿も様になってるな。
このまま絵画にでもできそう。
題名は『優雅な朝』だな。
いや『美しい薔薇』かな。棘的な意味で。
そこに、
「おはようレオ!」
とネグリジェ姿のレミアが入ってくる。
そして俺に駆け寄り飛びつく。
レミアは朝から元気でかわいいなぁ。
でもお湯を持ってるときは危ないからだめだぞー。
お行儀よく椅子に座るレミアにも紅茶を入れる。
ちなみにレミアにはミルクと砂糖をたっぷり入れたミルクティーだ。
「おはよー・・・」
甘い紅茶を美味しそうに飲むレミアを眺めていると、眠そうに目を擦りながらアニエスが食堂へと入ってくきた。
服がずれて白いスベスベした肩と鎖骨が見えている。
おぅ、セクシィー。
これが大人の色気か・・・
胸が揺れる。
ノーブラだろうか。
だめだ、耐性の無い健全な青少年には刺激が強すぎる。
だが見る。
そう、耐性が無いからこそ見なければいけない。
これは訓練なんだ。
耐性を付け、何事にも動揺しない大人になるための訓練。
決してやましい気持ちで見るわけじゃない!
決して!
「ああもう、姉さんまたそんなだらしない格好して!」
「んー、ありがとう、リーズぅ・・・」
リーズがアニエスの服装を直す。
ああ、もったいない。
それにしてもアニエスは朝が弱いんだな。
意外だ。
紅茶も飲み終わり一息ついたところで、玄関からノックの音が聞こえてくる。
こんな朝早くに来客か?
「クレアちゃんだ!」
レミアが椅子を降り玄関に走っていく。
「来たわね。レオ、あなたも来なさい。」
リーズが俺を呼ぶ。
何だろう?
リーズに続き玄関まで行く。
レミアが玄関を開けると、外にはピンッと立ったウサミミが目を引く少しぽっちゃりとした女性と、同じくウサミミの生えたレミアと同じくらいの歳の少女が立っていた。
そしてもう一人。
麻の服をまとった浅黒い緑色の肌の猫背の生き物が、荷車を引いている。
なんだあれ?
いや、なにかで見たことがある。
たぶんゴブリンってやつだ。
この世界にはそんなのもいるのか。
でもなんだ?
明らかにウサミミの二人とは様子が違う。
「おはようマガリさん。毎日悪いわね。」
「いやいや、気にすることはありませんよリーズ様。
なんてったって商人同士でこの役を取り合ってるくらいですからね!」
そう言い、マガリと呼ばれたウサミミの女性は豪快に笑う。
そしてパンや卵などの食料品の入ったかごをリーズに渡した。
見た目は若いが、どことなく雰囲気がおばさんっぽい。
「クレアちゃんおはよう!」
レミアがマガリの横にいたウサミミ少女に抱きつく。
「お、おはよう、レミアちゃん。」
クレアと呼ばれた少女は少しオドオドしているが、顔はうれしそうだ。
レミアとの仲はいいようだ。
・・・それにしても、気になるのは後ろで下を向いてるゴブリンだ。
まるで気づかれたくないかのようにじっとしている。
怖がっているようにも見える。
もしかして奴隷か?
ということは、あれが亜種なのか?
「ひゃ!れ、レミアちゃん、あ、あれ・・・」
レミアに抱きつかれていたクレアが、リーズの後ろにいた俺に気付き指差す。
「うん!レオって言うの!レミアのどれい!」
「ローズ家に一匹奴隷が来たって噂されてたけど、本当だったんだねぇ。」
「ええ、紹介するわ。
昨日からうちの奴隷になったレオよ。」
「ど、どうもレオです。」
なんとなく名乗り出る。
「おや、しゃべる奴隷ですか。
昨日の今日でもう言葉を覚えさせたんですかい?」
マガリが驚いた様にリーズに尋ねる。
「・・・ええ、まあそうね。」
「はははっ、まあ詮索はしませんよ。
ローズ家はお得意様ですからね。」
「ありがとう。
・・・レオ、あなたも覚えておきなさい、彼女は商人のマガリさんよ。」
リーズの話によると、マガリさんはこの町に住む商人で、毎朝パンやタマゴ、牛乳などのといった生鮮食品を届けてくれているらしい。
「・・・レミアちゃんの奴隷いいなぁ。」
クレアは俺を見た後、チラッと後ろのゴブリンに視線をやる。
やっぱりあれは奴隷なのか・・・
「バカ、貴族様の奴隷なんかと比べんじゃないよ!
それじゃあリーズ様、あたしらは配達の続きがあるんでこれで失礼します。」
「ええ、気をつけて。」
「クレアちゃんばいばい!」
クレアは去り際、後ろを向きながらレミアに小さく手を振っていた。
結局、荷車を引いていたゴブリンは下を向いたまま、一度もこちらを見ることはなかった。
あれが亜種か・・・
なんだか人と言うよりモンスターに近い感じだったな。
それに、まさしく奴隷といった感じの扱いだったし。
ローズ家に拾われたのは幸運だったのだろう。
俺もああなっていたかもしれないと考えると、正直恐ろしい。
いや、奴隷売買なんてものもあるかもしれない。
仕事は真面目にすることにしよう・・・
昼過ぎ、昨日と同じように勉強を終えたレミアと一緒に庭に遊びに出る。
どうやらレミアと遊ぶことも俺の仕事の一つのようだ。
最高の仕事だな。
朝荷車を引く奴隷を見た後なので余計にそう感じる。
今日もリーズとアニエスは書斎でなにか仕事をしているようだ。
「なあ、レミアはいつも一人で遊んでいるのか?」
俺の先を楽しそうに駆けるレミアに尋ねる。
「うん、そう。
リーズおねえちゃんと、あと時々アニエスおねえちゃんがあそんでくれるときもあるけど、おしごとがあるから・・・。」
そう言い、レミアは少しだけ寂しそうな顔をするが、
「でも今はレオがいるからへいきだよ!」
と、俺の手を握って笑いかけてくる。
「・・・よし!
じゃあ今日は二人でたくさん遊ぶぞ!
レミアは何がしたい?何でも付き合うぞ!」
「え!えーと、うーんと・・・
じゃあ、アーサーごっこがしたい!」
ん?知らない遊びがきたな。
「それは何をする遊びなんだ?」
「えっとね、レミアがアーサーで、レオの上にのるの。
レオはそれで走るの!」
俺がレミアを乗せて走ればいいのか?
とりあえずレミアを肩車する。
「わーー!レオすごい!たかい!!」
これで走ればいいんだよな?
俺はレミアを肩車したまま、花に囲まれた庭の石畳の道を駆け出す。
危ないのでスピードはゆっくりだ。
それでもレミアは、早い早い!と喜ぶ。
「うーん、えい!」
レミアが片方の腕で俺の頭を抱えながら、もう片方の腕を振る。
すると腕を振った方向に風が起き、花びらが舞った。
おお、すごい!
今のも魔法か。
怪我を治すのも、火を起こすのも魔法だったし、割りとなんでもできるっぽいな。
俺も教えてもらえないかなぁ。
「これがアーサーごっこか?」
とりあえずレミアのご期待にそえたかどうかを確認する。
「そう!アーサーはね、レオにのってわるいやつをたおすの!」
その後もレミアにねだられ、揺れを抑えながら庭を走る。
レミアは今度は風ではなく水を出して辺りに打つ。
花に水やりして回ってるみたいだな。
レミアはとても楽しそうだ。
時々俺の頭を、えらいえらい、と撫でる。
レミアを上に乗せ走り回っているうちに庭園の端まで付き、そのまま庭の外にある草原に出る。
辺りには白い小さな花がたくさん咲いていた。
いったんレミアを降ろし、一緒に草原に寝転がる。
気持ちいいな。
天気もいいし、日差しが暖かい。
このまま昼寝なんていうのもいいなぁ・・・
・・・
・・・・・・
ハッ、だめだだめだ!なに寝てだよ!
あまりに平和な昼下がりなんで油断してた。
俺は奴隷で、その上仕事中なんだ。
仕事をサボってお昼寝なんて流石に許されん。
あわてて起き上がり周りを見渡と、レミアは白い花を摘み何かを作っていた。
少しの間黙って見守る。
「できた!」
レミアは嬉しそうな声と共に、完成したそれを俺に見せる。
それは花で作った冠だった。
女の子らしいな。
さっきのアーサーごっこは男の子っぽかったが、こんなかわいらしい遊びもするようだ。
「これはね、アニエスおねえちゃんに教えてもらったの!」
流石アニエスだな。
ということはアーサーごっこはリーズが教えたのか?
いや、ないか、リーズがあれを見たらむしろ怒りそうだ。
レミアは胡坐で座る俺に近づき、
「これ、レオにあげる!」
と言って、作った冠を俺の頭に乗せる。
「ありがとうレミア。」
「うん!」
俺が頭を撫でると、レミアは気持ちよさそうに目を細めた。
「レオにもつくり方、教えてあげるね!」
レミアは今度は俺の上に座り、説明しながら二つ目を作り始める。
俺もレミアを真似て花の冠を作る。
・・・下手くそだな。
なんていうか、スカスカしてる。
レミアは完成した二つ目の冠を俺の頭に乗せた後、
「レオのもレミアにかぶせて!」
とキラキラした瞳でお願いしてくる。
え、この下手くそなのでいいの・・・?
ちょっと申し訳なくなりながらも作った冠をレミアの頭に乗せると、レミアは楽しそうに笑いながら、また俺の首に抱きついてきた。
・・・どうやら、寂しい思いはさせずに済んだみたいだな。
その後はアーサーごっこの続きをしたり、レミアの両手を持ってぐるぐる回したりして遊んでいるうちに、日が暮れてきたので、駄々をこねるレミアをなだめ手を繋いで屋敷に帰った。
「明日もいっぱい遊ぼうね、レオ!」