セセラギ
これが最後の恋。僕の最初で最後の恋。
「セセラギ」
久々の同窓会は、珍しく集まりが良かった。自分自身、もう5年近く会っていない人ばかりで、結婚がどうだとか、子供がどうだとか、そんな話題に置いていかれるばかりだった。
熱気のなかをくぐり抜けて、机の隅と好物のタコわさを確保してビールを煽っていると、聞き慣れた声がした。
久しく見なかったその顔は、ドキドキするほど凛々しくて、胸が痛くて仕方がなかった。僕の初恋の人。
川辺に座って、目を閉じていたあの夏。コーラを旨そうに飲む君の音を聞きながら、涙が出そうだった。君の左手に触れてしまったら、きっともう戻れない。もう、君を密かに想うこともできない。だから僕は伝えられない思いを右手に握って、目をつぶっていた。
川のセセラギを聞くふりをして。
僕は君を好きだった。僕は男で、君も男で。でも、僕は性別に恋をしたのではない。君を、君を好きだった。これが最後の恋。僕の最初で最後の恋。
二次会に流れていく人混みのなかで、ちらりと君を盗み見た。彼のあどけない八重歯にときめきながら、もうあの恋には戻れないのだと悟った。彼の左手には二度と触れられないのだと悟った。
家に帰ると大きな水槽の前で、恋人が寝転んでいた。僕はたまらなくなって、上着も脱がずに彼女の横に忍び込んだ。何も言わない彼女はゆっくりと僕の頭を撫でていた。水槽の青い反射光のなかで、目を閉じた。
二度と戻らない恋と、積もりゆく愛に身を委ねながら。