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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十三章1 劣等感

ブックマーク、評価ありがとうございます。

 終了のブザーとともに審判たちが次々と旗を揚げていった。

 と同時にメインフィールドに多くの歓声が広がった。正午を十分ほど過ぎた現在、ほぼ予定通りに準々決勝の決着が付いたのだ。


 結果、西が三人、東、南が二人、北が一人の進出という形となった。配分的には代わり映えしない結果である。

 選手たちが控室に去っていくのを確認した審判たちは互いに頷き、フィールドを降りる。

 それに合わせ、待機していた清掃係(土系魔術師)たちが気合を入れてフィールドを鳴らしていく。

 ひとまず午前の仕事を終えた薫は同じフィールドに立っていたメンバーとともに控室に戻るため、フィールドから一番近い廊下を歩いて行く。

 

 控室に入るなり、若者の元気な姿を見てきたためか彼らは興奮しつつ午前の試合を振り返り始めた。

 薫も少しだけ交じり、それから生徒会室へ顔を出そうと思っていたその時、胸ポケットに突っ込んでいたデバイスが唸りを上げた。

 ディスプレイには御川の文字が浮かび、点滅を繰り返していた。……会長から?

「ちょっと失礼しますね」

 一言断りを入れ、薫は輪から離れたところで応答する。

「はい、八城です」

『ああ、薫君。 ……繋がって良かった』

 電話越しに御川が安堵の息を漏らした。

 こちらを心配しての発言なのだろうが、フィールドを見れば薫がいるかどうかすぐに判明する。つまりそれ程切迫した状態なのだと察し、薫は表情を硬くした。

「ええ、僕は無事ですが、どうしたんですか?」

『其れが、影里君が行方不明になった』

「はい?」

 いきなりの事に薫は状況を理解できず、ただ困惑した。が、すぐに冷静さを取り戻すと御川に問いかけた。

 

「それは事実ですか?」

『ああ、驚くのも無理はないが事実だ。詳しいことは生徒会室で話そう。すぐに来てくれたまえ』

「分かりました」

 通話を終えた薫は再び近くのメンバーに場を離れる旨を伝え、控室を出る。

 

 L型の廊下を疾走し、通行証を通して校舎へ。二階に上がり、渡り廊下を抜けて一目散に生徒会室のある校舎へ移る。

 そこからまた階段を使って最上階まで駆け上がる。途中何人もの生徒とぶつかりそうになるが、持ち前の運動神経で躱しながら進む。

「うわっ‼」

「ごめん!」

 横一列で歩いている生徒の横を壁蹴りで追い越し、突き当りを曲がり、直進すると生徒会室前に辿り着いた。 

 扉の前で薫は一度深呼吸をして乱れた呼吸を正す。取っ手に手を掛け、引いた。

 

 すると、機械同士がぶつかり合う音が合唱した。

 薫は咄嗟に両手を上げる。

 見れば、扉付近にいる規則委員数人が薫に魔導具を向けてきている。

 奥には会長たちがおり、会長も杖型魔導具の先を突きつけている。こちらに向ける表情は誰もが硬く、口を一文字に引き怒りを顕わにしていた。

 副会長はただその場に立っているだけだが、あの人はどんな状況だろうと戦えるので特に構えていない。

 桜花に至っては透き通った黒目でじっとこちらを見つめている。


 更に一拍置いて背後にも一人、隠れてこちらの動向を確認している者がいる。

 この気配……姫野さんか。

 皆して一体どうしたと言うんだ⁉

 彼らの行動に薫は困惑する。もしや、先程の連絡は自分をおびき出す罠だったのかと勘繰り、両手を上げつつも冷静に中を見回す。ここにいるのはいつものメンバー。確かに影里の姿はない。

 薫はここにいる全員が操られているのか疑うも、すぐに懸念を解いた。

 会長の隣に立つ金西の表情は血が引いていて青さが目立つ。つまり、本当に行方不明となったのだろうことが伺えた。


「大丈夫。本物」


 緊張の場に似つかわしくない静かで清楚な声音が部屋を満たす。

 その声を聞き、一同は戦闘態勢を解除した。そして皆ホッと表情を崩すと、目でこちらに非礼を詫びてきたので首肯で返す。

 声の主は桜花である。彼女と薫は契約をしている関係で互いが本物かどうかの確認をすることが出来る。つまり、こちらも疑われていたということだ。このような事態であれば当然だろう。

 もし身内に犯人がいるのだとしたら一大事だ。


「薫、もう入っていいよ」

 何事もなかったかのように桜花が言う。

 それが合図となり、構えていた二人も即座に魔導具を引く。

 幼馴染のお許しを得て、薫は生徒会室に足を踏み入れた。扉に一番近いメンバーがすぐさま閉め、二人が魔導具を構えて待機する。さらっと姫野も薫の横にいて、一瞬肩をびくつかせた。

 何よと視線で訴えかけてくるので何でもないと首を横に振った。彼女には影で色々と関わってもらっている。この場にいても特に問題は無かった。


「驚かせて済まないね」

 流石にいつものふざけ半分の笑みは無しで、御川が声を掛けてきた。

「いえ、非常事態ですから仕方ないです」

 理解していると目線で訴えると、彼は首肯した。そして、ぐるりと全員を見渡しながら今回の事件の詳細を話し出す。

「さて、皆集まったな。そのままの状態でいいから、聞いてくれ。 

――知っての通り、我が生徒会メンバーの影里が行方不明となった。根拠は絨毯に零れているコーヒーと、散らばった資料だ。席を離れるとしても、綺麗好きで規則に一番うるさい彼女がこの状態でどこかに出かけるなど有りえない。そして、彼女とは依然連絡が途絶えたままだ」

 皆、真剣に御川の言葉に耳を傾けている。

「防犯カメラの映像は?」

 規則委員の一人が手を上げて発言した。

「ご丁寧に消されている。それもここ数日分全てだ」

 その返答に全員が息を飲む。


 つまり、犯人は大胆にもこの生徒会室へやってきて、影里を手元に置き、データを消していったということだ。

「そんなことが可能なのですか?」

 他の規則委員が質問をする。それに薫は応えた。

「可能でしょう。考えられるケースとしては影里さんが生徒会室を開けやすくするために誰か知り合いを操作しここを訪ねさせる。犯人は近くに潜み、そして、扉を開けたところで魔術を掛ける。単純ですが意外と効果的な方法です」

 成程、と質問者は納得し、手を下げた。

「だが、静華の友人は全員デバイスでやり取りをしているぞ?」

 立ち直ったのか、金西も会話に参加してくる。

 ふむ、と御川は顎に右手を添えた。

「ならば、教員ならどうかね? 彼等ならば生徒会室を訪れても何ら疑問を持たず、影里君も扉を開けてしまうのではないだろうか」

 

 確かに。そもそも生徒会室に一般生徒が訪れてくるなど、この三か月一度もなかった。だが、教員ならばフロンティア関連で訪ねて来ることも多い。自然に招き入れてしまってもおかしくはないだろう。

「監視カメラのデータは消されたとして、カメラ本体はどうなっているんですか?」

 ふと疑問に思った薫は御川に訊ねた。

「カメラ自体は動いているようだが、データがこちらに来ない。今までは彼女が隠れて横流ししていたものだから仕方ない。確認するには警備室に出向かなくてはならないな。そうなると、彼女が敵に操られたことを教員たちにも説明しなくてはならなくなる。それは」

「なるべく避けたいわけ。生徒会がホイホイ敵の罠に掛かるなんて外に知れたら、こちらの権限が減らされるし」

 長瀬は御川の台詞を奪い、飄々とグレーな発言をした。


「だから、真里亜。どうしてそう棘のありかつ余計な発言しかしないのかね?」

 この状況で権限がどうこう言っている場合ではないのだが。

「まあ、つまりだ。真里亜の言う通り、このような事態が後にいくつも起こると、生徒会が不信会議に掛けられかねないということだ」

「……あまり内容は変わってない」

 ぽつりと桜花が毒を漏らす。

「兎に角、今は影里君を探すことを第一に考える。彼女が持つデータが敵に渡るとろくなことが起きない」


 逃げたわ。逃げたな。規則委員たちからもぽつりぽつりと声を潜めた突っ込みが入る。

 最近は彼らも生徒会と触れ合うことが増え、このような場にも慣れてきたのだろう。

 やれやれと薫は首を振りつつ、柏手を一つ。それだけで場の視線を自分に寄せた。この切り替えが出来るからこそ、このお家芸が成り立つと言っても過言ではない。

「規則委員は今から影里さんの捜索に当たって下さい。なるべく内密に。自然な振る舞いを試みて巡回してください。連絡は僕の方に直接下さい。解散!」

 薫の伝令に彼等は頷くと生徒会室を出て行った。それを見送ると、薫は御川を見やる。

「忍?」

 ちらりと長瀬がパートナーを見やると彼もまた青い顔をしてこめかみをほぐしていた。


「ああ、敵さんは周到のようだ」

「ですね。こちらの動きづらいタイミングを的確に狙って来ています」

 これからBランクの準決、決勝。そしてAランクの一回戦が控えている。

 生徒会組はほとんど参加。そして、他の生徒会たちも同様であるため、秘密裏に応援を仰ぐことが困難だ。

「……」

 何か手を考えなくてはと薫は頭を回す。そんな相方を、桜花はじっと見つめている。

 それに気づいた薫は視線を合わせ、アイコンタクトをとる。何か言いたそうな目をしていたため、言ってごらんと語りかけんばかりの視線を送る。通じたのか、わずかに頭を揺らした。

「薫、この前麻衣さんと話てたこと、そろそろ教えて」 

 

 麻衣さん? と周囲は頭に?を浮かべている。薫は逡巡し、口を開いた。

「……そうだね。僕の予想だと明日状況が変わると思ってたけれど、それは言い訳だな」

「反省は後でいいから、言って」

 ぐいっと小さい顔を近づけて、瞳を合わせる。綺麗な水晶のような瞳に映った自分の顔を見つめ、今話すべきことを纏める。

 うんよし、と勝手に納得して桜花は薫から離れた。


「まずはすみません。皆さんに開示していない情報が二点あります」

 またかとメンバーは露骨に表情に出している。しかし、何か考えがあっての事だろうと理解し、皆続きを待った。

「一つ目は、入院していたはずの辻占先輩が忽然と姿を消しました」

 薫の言葉に、一同は驚愕した。

「それは……何時だね?」

 神妙な顔をして御川は返答を待った。

「一昨日、だそうです。現在M・Lが検証を行っていますが、恐らく間違いないかと。敵は監視員を操作し、今回同様カメラに細工をして密かに先輩を外に運び出したということだそうです」

「成程」

「他にも看護師を操作して今まで隠蔽していたようです。操られていた人は確保してM・L社内に移送済みとの報告を受けています」


「つまり、だ。薫君の予想では明日決行されるべき作戦が早まったのは……」

「僕のはあくまで予想に過ぎませんので確証はありませんが、無関係とは思えません」

「ちなみに、その予想の内容は何かしら?」

 いつの間にか備品の茶菓子を引っ張り出し、つまんでいた長瀬が質問する。

「それと二つ目の件が被りますので織り交ぜて説明します。まず、今回の事件はまたもやS・Kが間接的に関わっていました」


 その場の空気に初めて緊張感が加わった。


「辻占先輩の自宅をM・Lが家宅捜索した結果村沢同様手紙でやり取りがあることが発覚しました。先輩の力は彼等によって無理矢理ブーストされたものであることが分かりました」

 そこまで言って、長瀬に視線を合わせる。

「そう」

 彼女は残念そうに力なく呟き、続きを促してくる。

「敵からすれば魔力の暴走が危険であることを周囲に認知してもらうためのデモンストレーションを起こせれば誰でもよかったのかもしれませんが、偶然にも先輩がヒットした。そこで、敵は一工夫入れることにした。同じ学院には優秀な生徒が揃い、もっとも危険とされるメンバー候補である副会長に目を向けた。どうにかして副会長を手中に収めるために人を使って観察を始めた」

「そのために豊川が使われたのか」

「同じ学院だと不信がられるためにわざと別の学院を使ったわけか」

 御川に続いて金西が言う。


「かもしれません」

「だから、八城君は私に長瀬先輩の護衛を任せたのね。納得したわ」

 姫野が成程と頷いていた。それに長瀬はむっと不貞腐れた表情を作る。

「それって薫くんは私のこと信用してないってこと⁉」

「万が一ってことがありますし。副会長は対面では強いですけれど絡め手は苦手ですし、一人でも近くにいれば容易に手を出してこないと思いまして」

「むうー、まあ、許す!」

 とりあえず納得してくれたようだ。

「それと、北の生徒会長は無関係であることが分かっています」

「奴は見つかったのか?」

「どうやら彼を囲っている研究室にずっといたそうですよ。そちらについては裏付けが取れています」

 それを聞いた御川は左京がまた発狂する姿を想像し、何とも哀れと思わずにいられなかった。

「そのような理由から次に狙われるのが副会長だと思っていたわけなんですが、完全に裏をかかれました」

「なら、今後は静華と先輩の確保が第一優先か?」

 金西の問いに薫は頷く。

「うん。そうなるね」

「なら、俺は次で試合を降りて静華を探しに行く」

 金西は徐に立ち上がると、生徒会室を出て行こうと扉に足を向けた。

「ちょっと待って」

 出て行こうとする金西の腕を薫は掴んで止めた。完全に頭に血が上ってしまっている。

「放せ!」

 金西は腕をスイングし、薫を壁に叩きつけた。

「がっ!」

「お、おい! 金西くん⁉」

 他の四人は鎮静させようと割り込みに来る。それを薫は待ってくださいの一言で押さえつけた。四人は数歩先で二人の行方を見守るように立っている。

「放さないよ。幼馴染が敵に攫われて心配なのは分かるけど、それは安直すぎる。敵の思う壺だ」

「なら、この怒りをどうすればいい! 敵が出てくるのを待てと、そう言うのか!」

 ぐいっと片腕で正面にまで薫を持ち上げ、吐き捨てるかのように言葉をぶつけた。

「ええ、そうですね。ですから金西くん。その怒り、フィールドでぶつけて下さい」

 宙に浮いたまま、にっこりと笑って薫はそう言った。



「「「「「はぁ?」」」」」



 その場の誰もが、薫の言うことが理解できなかった。 


真剣なシーンに和みを入れるバランスが難しい……

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