十二章9
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会場は瞬く間に歓声で包まれた。
一年Bランクの準々決勝初戦。現在フィールドでは二試合が同時進行していた。
歓声の原因は両方に土で作られた土人形が一体ずつ生成されたことだろう。
二体の土人形は声の無い咆哮を放ち、会場を震わせた。
土魔術の使い手が被ったらしい。一方は生徒会メンバーの一人、金西である。
彼は今まで武器錬成で戦ってきたが、準々決勝ともあって土人形を本格導入したようだ。
対して、もう一人の土魔術師は西の生徒。こちらは土人形一筋で戦ってきている。
金西と比較すると、彼の土人形は俊敏さが一歩勝っているようだ。しかし、それを抜けば二人の技術の差はない。
それらを相手取るのは東と西。運悪く西はブッキングしてしまったらしい。
どちらも遠距離を得意とする魔術師で、召喚獣は持ちあわせていない。
試合開始から二分が経過。
西同士の対決は早くも終わろうとしていた。
なぜなら、魔術師の得意属性が火のせいで、土魔術の塊である土人形と滅法相性が悪いく、一方的な展開を強いられたのだ。
自身の魔術が全く通用しない時点で、勝敗は明らかだった。
「くそっ!」
魔術師は両手を合わせ、最大出力で火炎魔術を放つ。地面を焦がしながら進む炎は土人形に着弾。
爆発が起こり、煙幕が発生する。しかし、足音が絶えることは無かった。
人を丸ごと包み込むほどの威力を持つ炎でさえ、土人形の前に無力だった。何度か放つが、やはり土人形はびくともせず、前進してくる。
そして土人形は巨大な拳を魔術師へ振り下ろした。
魔術師はそれを回避。風を纏った拳がいた場所を深くえぐった。その後、割れた地面が魔術師に振りかかる。
「ぐあっ!」
巨大な破片が直撃し回避のため空中にいたのが災いした。魔術師は破片とともに吹っ飛ばされる。
それだけで大きくポイントを稼がれてしまった。
魔術師は破片をどけて、立ち上がる。
またしても距離が離れてしまった。間合いが離れたことで、土人形は追撃してこず、のこのこと進む前の位置へ戻っていった。領域に入ると戦闘を行うタイプで、消費魔力の節約が出来る土人形の使い手がよく使う戦術である。
魔術師が逆転する方法は、術者へ直接ダメージを与えること。しかし、魔術を発動しても土人形が邪魔をするか、自身の土魔術で防がれてしまう。しかも、相手は光の障壁も併用してくるため更に厄介。
不意打ちをしている暇はなく、ただ人形から逃げに徹し、隙を伺うしか方法が残されていない。
土魔術の使い手もその辺は理解しているようで、土人形をうまく使い、自分の盾となる位置を常に取っている。両脇からの火魔術を受けてくれるような相手ではない。
体力を回復させつつ、魔術師は状況を整理していく。
これではあっという間に時間が過ぎ、判定負けとなってしまうだろう。
だから魔術師は考える。
土人形を抜け、術者にダメージを負わせる方法を。一つだけタイミングを誤らなければ逆転できる方法が浮かんだ。
「あんまり、やりたくないが……仕方ない!」
背に腹は代えられぬ、と魔術師は土人形に向かって走る。
土人形は相対すべくファイティングポーズを取った。
魔術師は両手に魔法陣を浮かべる。どこぞの長瀬(化け物)ならまだしも一般的に術の二重発動は身体に負担を掛ける。捨て身技の一発勝負だった。
魔術師は走る。
土人形の間合いまで二秒、一、今だ!
土人形が拳を放つと同時に少しだけ平行移動して拳の当たらない場所へ。横を拳がかすめるが、気にせずツーステップで脇を抜け、前進。術者へと走る。
この時、初めて術者が焦りの表情を見せた。即座に土人形を反転させ、魔術師を掴みにかかる。
しかし、その手は空振りに終わった。
魔術師は両掌を土人形へと向け、魔術を発動。自身の炎をブースター替わりにして加速した。土人形を受けとして、炎の吐き出される威力分、身体にGが圧し掛かる。
一瞬にして術者との距離が零になった。
「なっ⁉」
術者は咄嗟に土の壁を錬成するが遅い。魔術師は地面を蹴り上げて前のめりに飛ぶ。
頭突きを術者の腹に打ち込んだ。放送されない解説者が『ロケット頭突きだぁ!』と叫ぶ。術者はクの字に身体を曲げ、吐しゃ物をまき散らしながら飛んだ。
二人はそのまま壁まで突き進み、術者をプレスする。
結界に阻まれ、加速した身体は止まった。衝突の爆音に会場は一瞬鎮まり返った。
そこで、近くにいた薫は手に持っていたデバイスに送られてきた気絶信号を確認。
右手の白旗を揚げた。それに呼応して他の審判も旗を揚げる。
試合終了。
会場が一斉に沸く。見事なまでの逆転劇だった。
薫は横で伸びている二人を見やり、冷や汗を服で拭う。
「あぶな」
二人が突撃してきた場所には薫が立っていた。まさか場外まで飛んでくるとは思っていなかったため、一瞬だけ油断していた。時間を確認しようとデバイスに視線を向けた直後、目の前に肉塊が飛んで来たのだ。
薫は緊急回避をして、なんとか直撃を免れた。
これからは注意しよう。
開始二分強。準決勝第一試合は閉幕。待機していた救護班によって二人は奥へ連れていかれた。
配備されている土魔術者がフィールドを整えている間、薫は金西の方へと視線を向けた。
ポイントは金西の方が優勢。
彼は土人形だけでなく、武器も使って近接戦をしている。先ほどの様に近付かれてもいくらでも対処出来るため、遠距離魔術師にとって厄介な存在に違いない。
残り二分を切った。
属性を見る限り水。相性はよさそうだけれど、金西君は気にもしていないんだろうな。
それはポイントを見れば分かり切っているが、実際金西自身に苦手意識は無いのだろう。
例え不利であったとしても乗り越えるために考え、行動する。これは商売の交渉を行うようになってから培ってきた商人のスキルが、戦場でものを言っているのだ。こうしてみると商人もなかなか侮れない。
「未だ、彼が何を売っているのかは知らないんだよね」
今度訊いてみようかな。と頭の片隅で考えつつ、薫はフィールドを降りた。
最後まで見ないのは、先程のような逆転勝ちを狙えるほど、敵の体力が残っていないと分かったからだ。
思った以上に魔力を消費しているようで、金西もやりやすいのではないか。
「水の弱点は威力の少なさ。有効活用しようとすれば、量に物を言わせるか、絞って切れ味を上げるかの二択。彼はそこまで細かに水を操れないため、物量に走るわけか」
「ええ。ですから消費する魔力も普段より多い。ましてや的があれほど大きいですからね。余程戦闘に慣れていなければ、ペース配分も難しいでしょう」
同じように隣の戦闘を見ていた審判が言った。
「水魔術は初級しか使えないから分からないが、どれほどなんだ?」
「それは使える人に聞いてください」
「おっと、すまない。君が魔術を使えないのをすっかり忘れていた」
審判の態度から本気で忘れていたようだ。
「気にしないでください」
その後、水魔術が得意な審判がやってきて、どれくらい辛いのかを教えてもらった。
それを聞く限り、金西と戦っている生徒がどれほど魔力を持っているのか分かり、二人して驚いていた。
「彼は、精密な動作をマスターすればAに届くだろうね」
そう締めくくると、丁度試合も終わりを告げた。
予想通り、金西の判定勝ちでこの試合は終了。
後二戦で準決勝となる。
一年は訓練場で準決を済ませて決勝をこちらでやることになっている。
「さて、俺らも次の準備をしましょうか」
「と言っても、やることねえがな」
和気藹々と次の試合まで時間を潰す審判たちだった。
*
「あら、金西君。勝ったじゃないの」
準々決勝が間もなく終わるということで、観客席から移動することになった生徒会メンバー。
この後に控えるAランク初戦に予定では全員参加することになっている。
その為、戦闘準備をしてから選手控室へ向かうべく、生徒会室へ戻る所だった。
立ち去ろうとした瞬間に金西の勝利が確定した。
「いいことじゃないか」
「……意外」
「神奈崎さん、意外とはどういうことですか?」
ぽつりと桜花が放った言葉にすかさず影里が聞き返す。
「……耳がいい」
「誰が地獄耳ですか!」
普段声を張り上げることの少ない影里だが、やはり彼のことが気になるのだろう。
「なんだかんだ言って、静華ちゃんは元也君のこと気になるのよねー」
「なっ! そんなんじゃ、有りません! ただ、幼馴染として」
「はいはい」
あたふたと言い訳を始めた影里を長瀬は静めにかかった。さり気に桜花を逃がしているあたり、長瀬は一年達との距離感を掴めているのだろう。良い傾向だ。御川は賑やかな一行を保護者気分で眺めていた。
「そろそろ行くぞ。アップ場所が取れなくなってしまう」
「はーい」
四人は生徒会室へと足を向けた。
フィールドへ繋がる校舎へと入り、階段を使って渡り廊下のある二階へ。
そして、対面の校舎へ渡って最上階まで階段を登る。すると五分足らずで生徒会室に到着した。
御川たちが生徒会室へ入り、各自ロッカーから装備を出していく。とは言え持っていく物は少ない。
学院より配布された今大会用のインナーとプロテクター。これだけである。
ただ、驚いたことに御川だけは自前の魔導具を持っていた。
「魔術杖、ですか」
「ああ、普段は使わないのだがね。真里亜が側にいない以上、攻撃用の術をいくつか併用する必要があるのだよ」
「なるほど」
そう言われ、桜花は納得する。御川はいつも後ろでサポートするか、水妖を出して戦うのが基本スタンスだ。パートナーがいることを前提で動いている。そう言われると、彼が攻撃系の魔術を放ったところを見たことが無い。
どういう戦いをするのか、個人的に気になってきた。
三人は控室へ移動するが、影里は見張り業務を再開するとのことで別行動。
「月並みですが、皆さん頑張ってください」
影里に見送られ、三人は生徒会室を後にした。




