十二章8
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「貴方っていつもそうよね‼」
生徒会のある校舎の一階。本校舎とフィールドへ繋がる通路の端で、女子生徒が声を張り上げていた。
あまりの声量に何事かと周囲の人間が一斉に元凶へ振り向く。
彼等の視線の先には額に青筋を浮かべながら腰に手を当て、周囲の目を気にもせず般若の如く怒鳴っている女子生徒の姿があった。
更に目を引くのは彼女の足元で土下座を決め込んだ巨体である。
「ああ、生徒会か」
そのうちの一人がまたかとばかりに呟くと、野次馬精神を失い去っていった。
他の生徒たちや教師も彼同様一瞬視線を向けるだけで、その後気に留めることもなく過ぎ去っていく。
皆さまお気付きの通り。影里、金西ペアである。
どうしてこのような図が出来上がったのか。それは今から五分ほど時間を遡る。
Bランク初戦を終え、昼過ぎまで時間が出来た金西は生徒会メンバーと合流しようと観客席へ向かっていた。
その最中、偶然にも家族ぐるみで付き合いのある商談相手と遭遇。
つい熱が入り立ち話を始めてしまった。
それから早一時間が経過しており、次の試合が近かったため解散。
金西は急いで訓練場へと向かう。
試合自体は難なく勝利し、控室を出たところでデバイスに影里から合流場所の連絡が入った。丁度彼女の試験も終わったとのことで昼食を一緒に取ろうという流れとなる。
金西は応じ、合流場所へ辿り付くと影里の姿を探した。
どうやらまだ来ていないようなので、暇つぶしにと先程の商談の詳細をまとめ、今後の方針を考えていた。
それから五分ほどして影里がやってきた。
彼女の表情は何処か暗い。試験が悪かったのだろうか。
「む、遅かったな。お前ほどの奴でも試験は難しかったのか?」
彼女が遅いこと自体は気にしているわけではないが、なんとなく皮肉めいた事を言いたくなった。
普段こちらが責められているだけに反撃の機会は滅多にない。
金西の言葉が図星だったのか影里は肩を震わせ、両手を固く握った。
さすがの金西も不味いと思い、前言撤回しようと口を開く。が、彼女の方が半歩早かった。
「……早かったのね元也。待たせてごめんなさいね。
――話を変えるけれど、お昼の前にどうしても聞きたいことがあるわ」
「な、何だ?」
ここでようやく影里は面を上げた。
彼女の表情は硬い笑みを張りつけつつ、口角を引き攣らせていた。その表情から金西は悟った。彼女は自分の放った皮肉など何ら気にもしておらず、別件で怒っているのだと。
そして、人指し指を下に向け、
「元也、正座」
怒気を込めた声で金西に告げたのだった。
*
昼休みが終わり、Bランク戦も順調に進行。
遂に折り返しを迎えた。全学年ベスト16が決まったのだ。
あと九周でBランク戦は終了する。
二年生の審判を終えた薫はフィールド横の段差を降り、他の審判たちといつも通り反省会と言う名の雑談をして、控室に向かう。
次からは一年の試合ということで、実に楽しみだった。
金西もランクインしているということで、内心応援している。薫に求められることは常に中立。今回の試験に私情を持ち込む事は許されていない。
しかし、それはフィールド内の話で、降りてしまえば一塊の南星学院の生徒であることに変わりない。
薫は控室に置いてある荷物からデバイスを取り出して、現在の巡回情報をチェックしていく。
影里が試験中だったことから巡回者たちが直接薫の元にデータを送っている為、件数を見て苦笑した。
まとめ役がいることで効率がここまで違うのかと薫は改めて体感した。
三十分かけて記録を見終え、薫は座ったまま伸びをする。いつもしないことであるために余計な疲れが出てしまった。
彼らの情報を統合すると一言で片付いた。
「異常なしか。っと、そろそろかな」
デバイスの時計を見て、薫はベンチから立ち上がった。
薫は控室から出て、フィールドとは真逆の道を進み、校舎内に出る。
少し進んだ場所で待機していると、規則委員の腕章をつけた女子生徒二人がやってきた。同じ一年で、淡い黄色の髪をショートカットした小柄な少女と百七十あるだろう高身長で青みがかった髪をセミロングに伸ばした少女の組み合わせであった。
「お疲れさま」
薫は近づいてきた二人をねぎらうと、両手袋を外して彼女たちに伸ばす。
「お、お疲れ様です」「お疲れ様です」
彼女たちはおずおずとその手に触れた。その表情は緊張で強張りつつ、頬を少し染めていた。
異性の手に触れることが恥ずかしいのだろうと薫は解釈していた。
しかし、薫は気づいていない。彼が南星の生徒たちから憧れの目で見られていることに。
薫は魔力を有していない。それゆえ魔術を使えないものからは弱者扱いを受けている。
だが、彼の魔術無効が対魔術師に有力であり、極めて身体能力が高いことでカバーしているのだ。
その能力は生まれ持ったものではなく、努力ゆえの成果である。
その点を知った彼女たちを含め、南星の生徒たちは薫の評価を改め、この数か月で薫は憧れの存在の一人となっている。この間の辻占の魔力暴走を止めたことで、その傾向はうなぎ登りになったようだ。
学院の校風が生徒の自主性を尊重するという点から努力を好む生徒が多い環境ゆえ、薫を認める生徒が後を絶たないのだ。
数秒待っても魔術の破壊が見受けられないことを確認し、二人の手を離した。
「はい、お疲れ様。異常無いみたいですのでこれからもがんばってください」
「「はい! 失礼します」」
二人はやたら上機嫌に答え、薫のもとから去っていった。
薫は両手に手袋をつける。
彼女たちはなにやら自分の事を話題に出して盛り上がっているようだ。それほど自分の手が珍しいのだろうか。
何やら見当違いな考えを始めつつ、薫は控室に戻った。入れ違いで二年を担当している審判たちが部屋から出て行った。
控室には常に空中ディスプレイが三つ点いており、フィールド、訓練場の状況を見ることが出来た。
三年のベスト8が決まったようだ。そして、トーナメント表がでかでかと映し出された。
南星からは三人進出。西も同数。東と意外なことに北も残っていた。
解説者(報道用に一応いるが、会場には流れることは無い)が言うに自立型魔導兵器らしい。つまり魔導人形というわけで、召喚獣と同じようなものらしい。
つまり、北は相当な魔力保持者なわけだ。それでBランクなのもよく分からないが。
「さて、いきますか」
薫の受け持ちである一年の試合にはまだ時間があるが、彼らの試合に興味があった。
西星の生徒だが、日本刀を使う珍しい人のようで、薫は割と楽しみにしていた。同じ刀を使う剣士として、何か攫めるのではないかという期待のもと、フィールドへ向かうのだった。
二年のBランク戦もベスト8が決まろうとしており、すぐに一年の試合となる。
薫が密かに期待した刀使いだが、結論から言って得るものがなかった。
それもそのはずで彼は刀の見た目に引かれ、自分の武器として振るっていたに過ぎなかったのだ。試合を見て素人だと判明した時点で、薫は最後まで試合を見るモチベーションを失くしてしまった。
手持ち無沙汰気味だった薫は飲み物が切れていることを思い出し、一度校舎へ戻ることにした。
学内にある自販機でスポーツドリンクを購入。ガコンとペットボトルが排出された。
手に取ると良く冷えており、夏の暑さを一瞬忘れさせてくれた。
控室にいる時は冷房が効いているが、フィールドや校舎にはそのような設備はない。
ボトルを額にくっつけて熱を逃がす。せっかく冷えているのに勿体無いと思うかもしれないが、冷えすぎたものをいきなり身体に入れる方が返って悪いのだ。
「さて、戻ろうか」
薫はすっかり温くなったドリンクを手に、控室へと向かう。
その途中でばったりと影里金西ペアに出会った。
あら、と向こうも気づき、足を止めた。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」「……うむ」
金西はこの後試合だと言うのに疲れ切っていた。薫は影里へ声音を抑えて訊く。
「……影里さん、流石にやりすぎでは?」
「これくらいしないと元也は覚えませんので。八城君も、迷惑でしょう」
確かに、生徒の代表である生徒会が悪役に見えるのはよろしくない。しかし、TPOを考えて行動してほしい。
「じゃあ、僕は戻るね。金西君、次の試合頑張って」
「ああ」
元気のない返事に頼りなさを感じたが、立ち直ってもらうしかない。これに懲りて派手な演出をしないことを願うばかりだ。
薫は二人と別れ、控室に戻った。次の審判に備え、ストレッチを入念に行った。
そしてコンディションをチェックしていく。
「よし」
身体の問題は見られない。いつ戦闘になっても対応できるだろう。
立てかけてある舞姫を両腰に吊るし、必要なもの以外はロッカーに入れて、フィールドへ向かった。
フィールドの客席は八割方埋まり、夏の熱気に負けないほどの歓声があがった。
丁度二年の試合が終わり、準決勝進出者が揃ったようだ。
トーナメント表を確認すると、南星は三人進出している。
『次に、Bランク一年の準々決勝を始めます。出場される選手及び審判方はフィールドへお集まりください』
呼び出しのアナウンスが会場に木霊した。薫はフィールド近くの閲覧場所からいつもの審判集合場所へ移動。
薫は同じく一年を担当する審判たちと打ち合わせを行い、訓練場組と別れる。
薫は旗を手にフィールドへ上がり、開始の合図を待つ。
数分して両サイドに選手が揃い、審判長が旗を上げた。続いて他の審判たちも旗を揚げる。
一瞬の静寂。
それを審判長が切り裂いた。白旗を振り下ろす。
「始め!」
気づけばあっという間に一週間が過ぎていました……




