十二章7
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翌日。
ようやくフロンティアのプログラムも折り返しに入る。Bランク戦とAランクの二回戦までを終わらせる予定だ。
すでに観客席は三分の二埋まっている状態だ。Bランクからは極端に総人数が減ると同時に技能レベルが各段に上がる。
ランクCとBは一つ違いとは言えその溝は深いのだ。魔力量や各種技量などBランクはCランクの約二倍とまで言われている。
だからこそ魔術師はCランクが一般的な基準となっているのだ。
観客の多くはCランクの各生徒たちだった。察する通り自分より遙か上を行く人間の技を盗むことが目的だろう。
勤勉な生徒たちに交じり、薫と金西を除く生徒会メンバーは固まって座っていた。
全員午後のAランク戦に参加するため、午前中に軽く巡回が入っていた。ついでだからと金西の戦闘を見学するべく、会場の警備という名目で先日に引き続き教師陣に警備を任せることにした。
そして長瀬の提案でわざわざ最前列を陣取った。
なお、影里は金西の出番と試験が被るため、彼女はこのあとすぐに別れることになっている。
「静華ちゃん、元也くんの試合見れなくて残念ねー」
どこから取り出したのか片手にポテチの袋を抱え、ぽりぽりとかじりながら長瀬が言う。
まるで上映中の映画館いるかのようなくつろぎっぷりである。
「……いえ、別に」
否定はするものの、言葉に陰りが含まれているあたり実は楽しみにしていることは明らかだった。だが、それを指摘する者はいなかった。
「あの――副会長。いつになったら私は解放されるのですか?」
細々とした声量ながら凛としたその声はざわついた中でも自然に周囲の耳に届く。
桜花である。
彼女は今、まるでぬいぐるみのように長瀬の腕の中にすっぽりと納まっていた。薫がいないことで桜花は長瀬に預けられる頻度が増え、段々遠慮が無くなってきたことから定期的にスキンシップを仕掛けられるよになってしまった。
「うーん、私が満足するまで?」
「なぜ疑問形なんですか。早く離してください……暑いです」
そう言うと桜花は長瀬の腕を持ち上げ、ずるずると這い出て影里の隣に座った。
這いずった際、彼女のスカートが一瞬捲れ、きめ細かで白磁のほっそりとした太ももが露わとなり、近くの男どもの視線を釘付けにしていた。
しかし桜花はまるで気にしていないようだ。
一瞬長瀬が魔力を練った殺気をばらまくとすぐにいやらしい視線は会場へと向けられた。
「ほどほどにしたまえよ」
「分かっているわよ」
パートナーに注意され、少し不貞腐れながら長瀬は返事した。悪いことをしていないのに怒られるのは不服だった。
「神奈崎さん。さり気に私を盾にしないでもらえます?」
「……気のせい」
桜花はいつも通りなのか誤魔化しの為なのか判断のつかない返事をした。
影里は呆れたとばかりに小さなため息を吐く。
配置として、最前列に右から桜花、影里、長瀬。二列目に御川が一人寂しく腰かけている。本来ベンチ一区切りに五人ずつ座れるのだが、なぜか彼らの周りだけ綺麗に空いていた。
一般生徒からは信頼とともにやや恐れられている生徒会であった。
御川が会場に視線を向けると、丁度一年のBランク二回戦が終わろうしていた。
今年の南星二年、三年は丁度二十名すついる。どこの市も大体十六から十八であることから例年より少しばかり多い。それに反し一年生のBランクはわずか十名。教師からは不作年と言われている。(ちなみに他三校は平均的だそうだ)
その代わりと言っては何だがAランクが例年よりわずかに多い。しかし、ポイントを重視している教師陣からすれば確かに好ましい状況とは言えないだろう。
まもなく三回戦が始まる。一年生の試合は次の試合で区切られ、二年生と入れ替わる。
残りの一年の試合は訓練場で行われることになっていた。
そして、四回戦目に金西が登場する。
「彼の戦闘風景をきちんと見るのは初めてだな」
三回戦の開始と同時に御川が言った。
なんだかんだ裏方が多い金西は表立って魔術を使う機会がない。一応昨日の会議に全体像を聞いたものの、やはりきちんと実力を図るには肉眼で見た方がいい。
この試合は両面とも一方的な遠距離魔術による攻撃で撃沈し、わずか二分足らずで幕を閉じた。
空中ディスプレイに次の対戦表が映し出されれた。
「……頑張りなさいよ」
影里はまだ出てこない幼馴染に告げ、試験会場へと向かう。
それを見送った一行はなんだかなあ、と苦笑交じりに顔を見合わせた。
「ほんと、彼女は素直じゃないわね」
「まあ、可愛くていいじゃないか」
「そうだけど」
そんなやり取りの間に、フィールドに二人の生徒が向かい合わせ立っていた。
金西と東の生徒だった。
百九十を超えるがっしりとした金西に対し、相手は百六十行くかどうか。線の細い生徒だった。
「彼は……」
「なに? 忍。知り合いかなんか?」
御川の呟きに長瀬が反応する。
「いや、なに。彼もまた生徒会の人間だよ。横井・兼定君だ」
「あら、そうなの」
自分で聞いておきながら特に興味を示さずにフィールドへ向き直った。
間もなく、試合開始だ。
*
金西は対戦相手を見下ろしながら、考える。
相手は自分より遥かに小さい。パッと見た感じ、力で負けることはないだろう。しかし魔術という未知がある以上、油断はできない。
外見からでは魔術具の類は見られない。制服の下に隠しているかもしれないが、戦って見ればいずれ分かることなので考えるのを止める。
すると時間になったようで審判長が旗を揚げた。
それに続き、周りの審判も旗を揚げる。そこに薫の姿はなかった。どうやら訓練場の方にいるようだ。
空中ディスプレイにカウントが表示される。五から始まったカウントが零になる。
『始め!』
審判たちが一斉に旗を振り下ろした。
合図と同時に金西はバックステップで横井と距離を取った。
その行動に彼を知る同級生は首を傾げた。近接戦闘しかできないのに自分から距離を撮ることは自殺行為に等しいからだ。
勿論、これは作戦である。
金西はその場で片足立ちになり、右掌でフィールドに触れた。
『其れは武器になる』
掌を中心に黄色の魔法陣が広がった。金西は立ち上がると、同時に腕を肩と水平の位置まで持ち上げた。
すると魔法陣もコンマ秒遅れて掌にくっついてくる。更に魔法陣へ追いつくようにフィールドの土が伸びていき、次第に土は別の形に自然と変わっていく。
大体金西の身長三分の二程度の長さ。直径三センチ半の棒に変わる。
そして、足元。棒の末端より少し上が膨れ上がり、巨大な立方体へと変貌した。誰が見ても分かるとおりシンプルなデザインのハンマーの完成である。ここまでわずか二秒の出来事だった。
突然何もないところからハンマーが出現したことに横井は驚き、観客の上級生たちはへえと感心の呟きがどこからともなく上がった。
「武器生成……土魔法の上位」
「流石に知っているか」
出来上がったハンマーを掴み、ぐるりと半周させて肩に担ぐ。
そして足を開いてゆっくりと溜めを作るように腰を落とした。
「行くぞ。怪我をしたくなければ全力で防ぐことだ」
相変わらずの自信に満ちた言葉遣いで金西は忠告した。
刹那。
まるで猪の様に金西は横井に突撃する。
「!」
反射的に横井は叫ぶ。
『光は人を守る!』
咄嗟に防御魔術を発動させる。両掌に小さい魔法陣が現れ、二重の壁が生成された。
それに合わせるように金西はハンマーをスイング。光の壁は瞬く間に破壊され、横井にに激突した。
「がっ‼」
一撃をもろに喰らった横井は盛大に吹っ飛び、防御結界に突っ込んだ。クッションが利いた結界は横井の身体を優しく包み、ぽよんとフィールドに投げ返された。
その光景に観客は歓声を上げた。
金西のインパクトがありすぎて、大半は横井の二重魔術に気づいていないのが可哀想だった。
横井は苦痛に耐えつつ脇腹を押さえながら立ち上がる。
肋骨数本いったな、これ。
身体の状態を確認しているその矢先、頭上に影が差した。痛みを和らげる間もなく、左に全力で跳躍。コンマ数秒遅れでいた場所にハンマーが振り下ろされた。
土同士のため、鈍い音を立てるに留まった。
「外したか」
降ろしたハンマーを再び担ぎ、金西がぼやく。
土煙が上がるも金西の巨体を隠すまでには行かず、生首とハンマーの先が宙に浮いているように見えてホラーだった。
「酷いじゃないか。怪我人に追撃だなんて。それでも君は生徒会かい?」
「今は生徒会云々関係なかろう」
なにをばかなことをと言う風に首を振る。
その間に横井は距離を取り、応急措置として一年から教わる魔力移動で痛みを緩和させた。
アドレナリンの分泌による作用と似たような仕組みだと言われているものだ。
金西は軽く地面を蹴り、跳躍。しかし、スピードがおかしかった。
「はやっ!」
あっという間に詰められる。
今度は斜め前に逃げ、振り向き様に、
『其れは火花を起こす!』
右手を金西に向け、火炎魔術を発動した。振り下ろし始めた状態の背中に炎がかかる。
「ちい」
背中を焼かれ、金西は声を上げる。地面に着地するなり火炎線上からずれた。
横井はちらっと金西のいた方を見る。地面から橋の半分切り落としたかの如く弧を描いた直方体が突き出ている。
跳躍と同時に箱を生成して加速度を出していたのか。金西は火炎放射から逃れ、こちらと対面の位置でハンマーを構えた。
始めはハンマーに驚かせられたが、冷静になれば避けることは容易だ。獲物が大きい分直線的な動きしかできないから通り道を把握できればいい。
次に空中ディスプレイをみやる。
……残り半分。カウンターを狙うのが丸いか。
横井は絶対見逃さないとばかりに金西を凝視する。
視線に気づいたのか、金西は口角を上げた。
「そんなに睨むな。とはいえ、そろそろ終わりか」
そう言うと、金西は担いでいたハンマーをその場に叩きつけた。
「なにを」
している。その声は会場に響くことは無かった。
横井を中心に土が覆いかぶさってドーム状に変形した。彼のいた所は二撃目で空ぶってハンマーを叩きつけた場所だった。
土煙を上げたのには二重の意味があった。まずは跳躍時に加速を付けていることを悟られないようにするため。そしてもう一つは罠の設置を隠すため。
ハンマーは直線的な動きであるが故、効率的に避けようとするなら対面にいた方がいい。それを利用して、横井を罠の場所に追い込んだのだ。普段おつむが足りないキャラでも戦闘時には活躍する隠れた才能を持っていた。
それを見込んだからこそ、御川は彼を生徒会に勧誘したのだ。
金西はゆっくりとドームに近づくと地面と平行にハンマーを構えた。
「せめてもの慈悲だ。頭は潰さないでやる」
だるま落としよろしくスイングし、横山は吹っ飛んだ。再度結界に衝突し、フィールドに落とされる。伸びた蛙の様に地面に転がった。
数秒待っても起きる気配を見せなかった。
そして試合終了のブザーが鳴った。
制服に備え付けられた判定装置により気絶と判明したようだ。
勝ち誇るようにドヤ顔し、金西はフィールドを後にした。
数分後、審判長から金西の勝ち方を聞いた薫は頭を抱えた。
絶対後で影里さんに言いつけてやると心に誓い、次の試合に向け準備をするのだった。
なんか、金西が悪役みたいになってしまった……




