十二章5
ブックマーク、評価ありがとうございます。
今回はかなり短いです。
小休止感覚でお楽しみ下さい。
辻占の魔力暴走が切っ掛けで延期されていたフロンティアが再開した。
現在、Cランク戦は終盤に差し掛かっている。
有力候補の辻占が抜けたことにより、南星二年の優勝は怪しくなってきた。
観客を呼び込んでいたエースが不在のため、客入りは例年通り半分埋まるかどうか程度であった。
準決勝進出は西が四人、東が二人、南、北ともに一人という状況。
他学年に関しても南星は東西に一歩劣る進出となり、ポイント合戦もこのままでは競り合いとなりかねない。
唯一の希望は三年が四人残っているため、彼らが上位を総取ってもらうしかない。
それは辻占の件があろうがなかろうが元々想定していたことではあるため、生徒会の面々は落ち着きを見せていた。
しかし、大会に誠意を持って挑んでくれている生徒たちには大変申し訳ないのだが、正直に言って彼らの心情は大会のポイント処ではなかった。
あまり表立って見せることは出来ないが、生徒会に集まった薫たちの表情は誰もがはっきりと判るほどの疲れが見て取れた。
「とりあえず、今日はこのまま進行してほしいものだ」
生徒会長専用の椅子に深く座り、彼にしては珍しくだらりと背もたれに体重を預けていた。
「会長、さらりとフラグを立てるの止めて下さい」
「そうは言ってもな、影里君――」
反論しようとする会長にギロリと冷たい視線を影里は向けた。
「何か?」
「こらこら、こんなところで喧嘩しないの! 無駄に空気悪くなるでしょーが」
「そうだぞ静華。愚痴を零すのは結構だが利益にならんことは控えろ」
ここぞとばかりに金西が追撃した。
「な! 元也に正論を言われるなんて……」
幼馴染に正論を叩きこまれショックなのか俯いてしまった。
しかし、彼の口から正論を久々に聞いた気がする。
さらりと酷い事を考えつつ、口喧嘩を眺めていた薫はさらに熟考に入った。
この空気を改善するには事件の解決が必要だ。まだ確証を持てていなため、誰にも伝えていないが、これまでの事件と情報を統合していくと犯人はある程度絞れてはくる。
ただ犯人と断定する決定的なピースがまだ足りないのだ。
この事件に関しては名が上がっていないが、S・Kの存在も視野に入れて考えなくてはならない。
恐らく、彼らにとってこんな美味しい展開は無いはずだ。これを利用して何かしらアクションを起こしてくるだろうと薫を始め生徒会と魔術省は踏んでいる。
S・Kに関しては情報が一切入ってこない機関であり、ほぼ受け身の状態が数年続いている。それが彼らを悩ませる種となっているのだ。
一応、生徒会や規則委員の面々は毎日不定期に薫と触れてもらう規則を出した。
身内が操られては本末転倒である。
薫の体質を利用してお互いの信頼を繋ぎとめているのだ。薫はこの時、不憫だが幸せを感じてしまった。自分の力が人の助けになる。多くの人の絆を繋ぎとめている。目に見える成果に喜びを感じてしまった。
ただ、本当にこれは喜びだろうかと疑問に思ったため、桜花に包み隠さず聞いてみたのだ。その返答はすぐに表情に現れた。怒りである。
「何言ってるの! 薫の力でこの状況の中皆が互いを信頼できるんだよ? 十分助けになっている。この雰囲気だからそうやって暗くなるのは仕方ないけれど、排斥するほどのことじゃない。しっかりしなさい!」
といつにもなく本気で怒られた。ついでにビンタ付きで。
つくづくいいパートナーだと薫は感謝した。
それからはいつも通り冷静さを取り戻し、今に至る。
ちなみに現在時刻は午後四時を回った頃である。
本来この時間に生徒会メンバーが全員生徒会室にいることは無い。二日前と同様に巡回任務に付く予定でいたのだ。
しかし、疲労を察したのか会長と道中ですれ違った島本先生に捕まるや働き過ぎと言われ、彼女が校長たちを説得したらしく急遽特別休暇命令がかかったのだ。
生徒会が休みの間、教師陣が代わりに入ってくれるとのことで、ついでとばかりに規則委員会も本来の仕事量を半分にしてもらい、代役を彼らに頼むことになった。
生徒会全員でかかっても説得できなかった校長とその他取り巻きを抑え込めるとは、やはり島本先生はすごいと素直に感心した。
それに比べ、
「先生はなんなんでしょうね?」
薫は考慮ついでに場の雰囲気を和ますために逆木先生へ目をやった。
彼女はいつも通り全身を覆う少しだぼっとした灰色のコスを身に付けて絶賛睡眠中である。
女性の寝顔をまじまじと見るのは失礼であるが、こうもしょっちゅう寝られると視界に入れざるを得ないので許されるはずだ。
「今日は……ねずみ」
「だねえ」
生徒会顧問は何時でも皆のマスコットだった。その恐らく、これ以降に逆木先生が先生らしい行動を取っても生徒会内での認識に変化はないだろう。
影里が席を立つと、備品のコーヒーメーカーから人数分のカップに注ぎ、配膳してくれた。
「ありがとうございます」
差し出された二つのカップを受け取り、お礼を言う。
勿論片方は桜花の分だ。
ここに来てから終始くっついている桜花にカップを渡す。彼女は両手で受け取るとちびちびと口を付けた。
「そう言えば、桜花ちゃんもブラックなのね?」
机の中央に置いてあるシュガーポットから一匙掬い、自分のカップに投下しながら長瀬が言う。
「……薫に合わせていたら、慣れた」
「そうなの。忍もブラック派だけれど、私は苦手だわ」
「別に無理に合わせる必要はあるまい」
段々といつも通りの和やかさを取り戻してきた一同。
薫は会議用空中ディスプレイを立ち上げるとメインアリーナの様子を映す。
丁度三年の決勝戦が行われていたようだった。
最終的に南の身内戦となるようだ。
薫は審判用のデバイスでトーナメントを確認する。
南西ともに二人ずつ準決に進出。
五決で南が勝利。つまり、三人がポイントを勝ち取ることになった。欲を言えば四人ともポイントを取ってほしかったが別に落とした人を責めるようなことはしない。
薫はこれまでの結果を全員に報告した。その後御川が発言する。
「明日はBランク戦とAの初戦だ。影里君、薫君以外全員出場する。せっかく時間を貰ったのだからフロンティアの対策をしようじゃないか」
と提案してきた。
対策と言っても薫は体質上ランクDとなっているがそもそも試合に出ることが出来ないため、除外。
よってこの中でメインとなるのは金西だろう。
彼は生徒会唯一のBランクであり、是非とも明日は最後まで残ってほしい。
と言っている間にも三年の試合が終わり、二年の試合が始まろうとしていた。
会長たちを中心に明日以降の対策をフロンティアの映像を肴にしつつ練ることになった。




