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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十二章4

ブックマーク、評価ありがとうございます。

 南星学院から車で二十分の場所に南星総合病院はあった。

 東西南北四つの市の中で一番大きい病院であり、南星学院の約半分の面積を誇っている。ただ大きいだけでなく、医師たちの腕前も国の折り紙付きと優秀な施設である。他市からわざわざ利用しに来る患者もざらにいるほど人気な場所だった。

 魔術師やその見習いは緊急時の場合ここか、M・Lのどちらかに搬送されることになっている。

 しかし、M・Lは基本研究機関であり、医師免許を持つ者はそれほど多くない。よってM・Lに搬送されても数日後には総合病院へと移送されるケースがほとんどだ。

 なお薫のような特殊な体質持ちの場合は逆に総合病院からM・Lに流されることになっている。つまりは適材適所だ。

 西星学院で豊川の目が覚めたと長瀬から連絡を受けた御川一行は総合病院へ急行した。

 病院に到着するも彼らは入り口で立ち止まった。

「どうした? 中に入らないのか?」

中に入ろうとする気配を見せなかったことで同伴の魔術師が催促してきた。

 魔術師の疑問は最もだったが、手続きの関係を考慮して待つことを優先させてもらう。

「いえ、仲間と合流してから入ります」

 そして入り口前で待つこと数分、雲一つ無かった空に影が差した。

「来たようだ」

 御川は見上げずに呟くと、頭上から何かが落ちてくるのを影で認識した。

 そして、彼らの前に二人の緑を基調とした白のコントラストの制服を纏った男女が着地した。

 その光景を見た周りの人たちは一瞬驚くものの特に気にすることなく往来する。

 このご時世、人が落下してくることに違和感を持たないのだ。

 一人は黒の薄手グローブを着けた両手を地面に打ち付け、片膝立ちの姿勢になることで衝撃を和らげる。屈伸と同期して腰に吊るしている刀の鞘が地面に弾み、カンッ! と軽快な音を立てた。

 もう一人は魔術による重力操作を地面間近で発動し、一瞬にして重力をかき消すと解除して音もなくゆっくりと降り立った。その際広がっていた長く手入れの行き届いた黒髪が、綺麗にまとまった。

 そして、少女は俊敏な動きで隣の少年の背後に身を隠す。しゃがんでいるため全然隠れていないのが微笑ましい。

 言わずもがな薫と桜花の登場である。

 薫は苦笑とともに立ち上がると一礼。一応、後ろの桜花もちょこんと倣った。

 顔を上げると御川たちの元に歩いて行く。

 桜花はひよこのように薫の半歩後ろを歩く。どうやら魔術省の男に抵抗があるようだ。

 一人慣れない人がいる程度であれば最近は問題なさそうにしているのに、今日は如何したのだろうか?

 しかし、今は細かい疑問に付き合っている時間はない。薫は疑問を片隅に置きつつ、御川に声を掛けた。

「お待たせしました」

 再度軽く会釈をする。

「いや、捜索中にすまないな。一度集まる必要がありそうだったから呼び出したが、問題ないかね?」

 確かに、この集まりは非効率だった。御川たちが目覚めた豊川先輩から事情を聞き、後で報告して貰えればいい。

 その間にこちらは犯人捜索を続けていれば時間の有効活用に繋がる。

 しかし、御川の顔は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべていた。まだ三か月ほどの付き合いではあるが、薫の優れた洞察力からこの表情は御川自身に迷いが見られた時にする表情であると解釈している。

 つまり、自分たちが彼に不信感を与えてしまったと考えるのが妥当だろう。

 薫は今回の事件に対して短い時間で振り返る。

 北の侵入から密かに情報収集を始め、クラスメートや個人的なパイプを利用していた。それを報告することなく、フロンティアを迎えスケジュール上薫は個人行動せざるを得ない状況を逆に利用して情報を集めていた。それらを生徒会や規則委員会にすら非公開にして行動していたのだから不信が募ることは無理もない。

 いつも一人で抱えてしまう癖がこうして悪い形に出てしまったことに深く反省しなくてはならないな、と薫は自分を戒めた。

 恐らく、根っこの部分で桜花たちとフロンティアに参加したいという欲求があり、それが叶わないことを理解しつつもどこか不満だったのだろう。

 克服したと思っていた感情がふつふつと湧き、その最中に事件である。

 簡単に言って薫の八つ当たりだった。 

「ええ、特には。振り返ると、最近自分の単独行動が目立ってきましたから丁度いいかなと思います」

「薫抱えすぎ」

 すかさず桜花が突っ込んだ。

その返答に御川は下っていた評価を上げることになった。

 やはり彼は自分を律する力も持ちあわせて居ることに驚嘆したのだ。おそらく、桜花がストッパーとしているからだろうが、それでも冷静に成れる人間は貴重だ。

 いや、それだけではないはずだ。

 彼は表情から内心を読む事にとことん優れている。私の表情からこちらの意図を汲んだのだろうな。

 心苦しくも後で諭すつもりでいたが、どうやら必要はなさそうだ。本当に手のかからない後輩である。

「気づいてくれたようで何より。プライベート以外のことは成るべく知らせてもらいたいね」

「気をつけます」

 薫は真摯に頷いてくれた。

 それだけで、御川は満足だった。しかし、時間は有限である。全員揃ったところで中に入る。

 御川は受付に行き、この一年ですっかり顔なじみとなった看護婦に豊川の搬送された病室番号を訪ねるとすぐに返答をくれた。

 御川はにこやかにお礼を言うと、受付を離れてついてくるように後方へ指示を出す。

 薫たちは御川の後に続いて受付場を去った。

 受付から続く廊下を進むとエレベーター乗り場にたどり着く。パッと見て混雑していることを確認した御川は階段へシフト。

 場所が二階であるため誰も文句を言うものは出なかった。

 ここの二階と三階は特殊で、全ての部屋が内側に作られている。部屋を囲う様に廊下が伸び、廊下からでしか外の景色を見ることが出来ないようになっていた。

 つまり防犯対策である。魔術師が利用することが多いため、今回の様に狙われた人間を囲うこともざらである。

 そんな訳有り患者を外部から守れるようにと設計された病院であった。勿論これにも総一郎が絡んでいるわけで。薫と桜花にとっては身内のようなものだった。

 入院患者にとっては外の景色が見られず退屈であろうが、こればかりは仕方のないことだ。

 227号室と書かれたプレートが差し込まれた扉の前で御川は立ち止まると、三度ノックをした。

『どうぞ』

「失礼します」

 御川はスライド式の扉をゆっくりと開き、中に入ると自らが横にずれてストッパーの役を担ってくれた。

 後続はそそくさと入室する。

 最後に薫が閉める役を引き継ぎ、そっと扉を閉めると鍵を掛けた。

 御川が先程の会話で部屋の施錠許可を取っておいてくれたようで、安心して鍵を掛けることが出来た。

 部屋は其れなりに広く、ベッド周りに十人が囲っても大丈夫であった。

 この場には生徒会六人と付き添いの魔術師、豊川本人と長瀬が連絡したため、諸星会長の姿があった。

計九人がこの病室にいることになる。

 薫は警備の為、桜花とともにドア付近にて待機。

「桜花、お願い」

 薫は桜花の耳元で囁いた。

 擽ったそうに身を震わせ、こくりとわずかに頷くと桜花は紡ぐ。


『其れは振動をも壊す』


 壁全体と天井に黄色の細かな線で装飾された魔法陣が描かれた。防音兼盗聴防止の魔術である。

 壁の魔法陣を見るや、諸星と豊川は驚いた。

「……ねえ、会長。彼女一年生よね?」

「その筈だが、此処まで綺麗な魔術が使えるとはな。素直に尊敬する」

「そりゃあね、桜花ちゃんはうちのエースだから!」

 長瀬が自慢げに言う。

 副会長、病院内ですからお静かに。

 桜花を一瞥するとやや頬を染め俯いていた。珍しく人に褒められて恥ずかしいようだ。

 ん、と切替るように御川が咳払いを一つ。

 それだけで和やかな雰囲気が一転し、やや張り詰めたものへと変わった。

「目覚めてすぐで申し訳ないが、緊急を要するためいくつか質問に答えてもらいたい。いいかね?」

 御川はいつもより遅めな口調で豊川に問いかける。

「ええ、捜査のためですもの。私は平気ですからいつも通りのペースで構いませんよ。南星会長」

 返答に御川は頷く。彼女の声に異変は感じられなかった。従来の彼女を薫は知っているわけではないが、傍らの諸星会長が安心の表情を浮かべていることから平常通りであることが伺えた。

「では、東星副会長、改めて問おう。何があった?」

 御川の問いに豊川は表情に影を差した。その表情は困り半分、申し訳半分のものであって、決して内容を誤魔化すためのものではなかった。

「正直に言って私もどうしてこのようになったのか記憶がないのよ」

 本人は申し訳なさそうにしているが、誰もが気にしていなかった。むしろ、別の返答が返ってきた方が変わった反応を示したに違いない。

「東星副会長。もしやフロンティアの前日から記憶が飛んでいるのではないかね?」

 御川の問いに、豊川は困惑の表情を見せた。つまり、これまでの北と同じ手口で彼女は操られていたことになる。

「どうして、それを?」

「今まで公にしていませんでしたが、フロンティアが始まる数日前に、北の生徒数名が我が校に許可なく侵入するという事件が起きています。調べてみた所、彼らに操作術が使用されていました。そして、皆して術を掛けられたと思しき日から記憶が飛んでいます。ですから貴女も同じ事がおきているのではないかと確認してみたのですが……どうやら同一犯か、同じ術を使う者たちの犯行のようで間違いなさそうですね」

 薫が御川の代わりに説明する。

「では、まだ私たちの他にも操られている人がいる可能性が?」

「ええ、いるかもしれません」

 薫は頷いた。

「他にフロンティア中に魔力の暴走を起こした我々の同輩がいる。しかし、彼女はまだ目覚めていないために確証が取れていないが恐らく同じだろう」

「そう、ですか」

「しかし困まったな。これでは犯人の特定が難しいぞ」

 金西がぼやく。

「なら、過去に訊くしかないわね」

 えっと、皆の視線が影里へ向く。

「ええと、豊川さん。貴女の記憶の途切れた場所を明確に思い出してもらえないかしら。あと時間」

 影里の質問を聞いた薫は彼女が何をしたいのか察し、デバイスを取り出すとある場所に連絡を入れた。

「あ、先程訪問した八城です。はい……」

 場所を聞き終えた影里は懐からデバイスを取り出すと地図アプリを立ち上げ、空中に投影させた。

「ここで間違いありませんか?」

 地図のやや中央を差す。そこは南星学院内の校門から伸びた舗装道の辺りであった。

「ええ」

 ありがとうございますとお礼を言って、影里は調べ物を再開。

 薫はその横に進むと、とある場所を言う。

「貴方本当に使えるわね」

 滅多に見せない嬉しそうな笑みを浮かべ、影里は熱心にデバイスを行使する。

「見つけた」

 影里は皆に見えるように自身の位置を変え、映像を投影する。

 デバイスから伸びたウインドウは四枚。

 北の三人と豊川の姿である。

「これは四人の記憶が途切れた時の監視カメラの映像です」

 薫が連絡したところは先程確認しに行った収容所だった。

 あそこで行われた会話は常に録音されているため、受付の人に頼んで、録音データを送ってもらったのだ。そして北の三人との会話から豊川と同じく記憶の途切れた場所と時間を録音データから拾ってきて彼女に伝えた。

 会話の内容は覚えていたのだが、念の為である。

 学院内で長瀬たちを付け回した豊川を見つけた時と同じように映像から犯人を絞っていこうというスタンスである。

 最近は魔力反応を頼りに魔術による捜査が一般的となっており、このような映像捜査をせずとも犯人を断定出来るようになってしまったためにあまり使われなくなってしまった。

 同伴している魔術師もその手があったかと感心している。

 魔術の使用できない薫は良くこのようなレトロ技術を用いることが多い。必然的に彼の周りも古い技術に触れることになる。

 彼はある意味で進化する技術の為捨てられてしまう技術を残す役割を持っているのかもしれない。

 映し出された映像から共通点を探るべく、皆目を凝らしてウインドウを見た。

 数分間見比べたものの誰も声を上げなかった。

「うーん、ばらばら」

 ギブアップとばかりに長瀬がハンズアップの姿勢を見せた。

 今回は豊川の様にすんなりと行かないようだ。

 犯人は余程隠れるのがうまいようだ。

「まずいな。これで見つからない以上、犯人の行動を待つほかないぞ」

 魔術師がぼやく。

 確かにと誰もが賛同する。

「……」

 薫は拳を顎に当てて熟考に入った。

「薫?」

 

桜花がこちらを覗き込んできた。澄み切った瞳がまっすぐ薫の視線を射貫く。

 その眼差しが隠し事はダメと訴えかけているようだ。

 苦笑で返すと桜花は頷いて元の位置に戻った。そして薫は皆の方へ顔を向けた。

「あくまで公開情報からの推測ですが、敵の操作魔術は対象が三人もしくはそれ以上可能。しかし、効果は持って三日と言ったところでしょうか」

「三日……」

 三日間他人を自由に動かせるだけで相当なことが出来るだろう。

 しかしこうも被害が大きくなり、監視の目が強化された中で犯人は仕掛けてくるだろうか。

「会長、ここ数日、北の生徒会長とは連絡とれましたか?」

 今まで引っかかっていた疑問を御川にぶつける。

「いや、左京君にも尋ねているのだが彼女も連絡が取れない状態らしい。一体どこで何をしているのか見当もつかない。これでは彼を疑わずにはいられないぞ」

「彼は発明にしか興味がないのだろう? 仮に彼が人を操作できる魔術具を作り出しても実験止まりですぐに学会に発表するのではないか?」

 諸星が彼を擁護する発言をした。

「まあ、彼は俗世に興味はないからね。その可能性も捨てきれないが結局彼と話せなければ何も分かるまい」

 御川がそう結論付けた。

 この問題は緊急ではあるが、明日から再開されるフロンティアがある手前、運営としてあまり時間を取られるわけにも行かなかった。

 生徒会としてとても頭を悩まされる状況である。

 半場うやむやな形で犯人の推測を終わらせ、一足先に生徒会一行は病室を後にした。

 魔術師は残り、豊川から詳しく情報を聞くとのことで諸星ともども残るらしい。

 一応まとめたものは後で送ってくれるとのことだった。

「こうも想定外のことが連続で起こるのは今回だけにしてもらいたいな」

 廊下を進む中、珍しく御川が愚痴垂れた。

「後続の緊急時マニュアル最新版が捗るわね」

「まあ、そうだが」

 運営組にとっては今後の対策が立てやすいというポジティブな考えを持つことで今回の事件を乗り切ると改めて誓ったのだった。


薫君あちこちからストップがかかるの巻

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