二章3
「村沢に気をつけたまえ」
いつもと違って真剣な表情で会長が言う。
「はい? ……それって今話題の放火犯のことですか?」
「うむ。その通りだ薫君。君もニュースは見ているようだね」
む、失礼な。僕だってニュースくらい見ますよ。……とはいっても、元からついていたのを流し見していたからだけどね。
さて、僕の現状をお知らせします。
テストが終わってから三十分後、無事にクラスが確定して各々のクラスへ移動が求められた。案の定、桜花とは同じクラスだった。
クラスの移動が終わってすぐに担任の教師が現れ、注意事項とかこれからのこととか業務連絡を受けた。今日は特にすることもなく午前中で終了。
HR終了後、僕は桜花を連れて高等部生徒会室に向かった。
休み時間中に「新入生八城薫。放課後、高等部生徒会室に来るように」と学校放送で呼び出されてしまったのだから無視するわけにもいかない。
同じクラスの人たちと交流を図りたかった矢先に呼び出しで奇異の目を向けられたが仕方ない。
一体何の用なんでしょうね? そう思いながら生徒会室に入った矢先、こんな台詞が飛んできたわけだ。
はい、回想終了。
生徒会室に入った僕らは、御川会長が座っていたソファーの対面に座る。
「とうとう、南星学院からも犯罪者が出てしまったよ。今まで一度もなかったのだがね……」
残念そうに会長が言う。はぁと溜息をついてから続けた。
「しかし、出てしまったのは事実なので仕方ないとしてだ。問題なのはこの後。我々生徒会がどう動いていくかなのだよ。薫君」
そう言って、僕の肩にぽんと手を乗せてきた。
「……もう僕は生徒会に所属していることになっているんですね」
「ああ、そうだとも。でなければこの様な話はしてないがね。それと、村沢が襲った二件を調べた所、共通点が見つかったのだよ」
「共通点?」
「そう。両家ともに高レベルの魔獣使いが住んでいた。しかも、うちの三年生だ。だからね。一応君にも声をかけておこうと思ってね」
ちらりと横に座っている桜花に視線を送り、すぐ薫へと戻す。
「桜花が狙われるかもしれない、からですね」
「ああ、そうだとも。村沢は去年の時点で退学となっているため、新入生の情報は乏しいはずだが注意しておいて損はない」
「ええ」
「村沢は現在逃亡中。魔警だけでは手におえないみたいでね。我々生徒会も全面協力しようと思う。たとえ彼を見つけたとしても、魔警に連絡は不要だそうだ。……何かと大変なようだが、お互い頑張ろうか」
「……はい」
会長に一礼してから生徒会室を出ようとする。背後からああそれとね、と会長が付け加えて、銀色のカードの束を投げてきた。薫は片手で受け止める。
「君達用に魔獣使用許可証を作っておいた。必要なときに使いたまえ」
ありがとうございます、ともう一礼して生徒会室を去った。
魔獣使用許可証とは、魔術の研究や犯罪対策などを主とする機関、魔術省が発行する緊急時に魔獣を町で召喚してもよいという免罪符のことだ。今までは必要としておらず、おじさんに頼んでいなかったので会長から渡されたのは幸いだった。
事件が起きたのはそれから一週間後のことである。
これで二章は終了となります。