十二章3
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一方、御川たちは薫たちと同じく西星市にいた。
平日の昼間だが、西星市が都会ということもあり駅周辺は多くの人で埋まっていた。
相変わらずの魔法地区であるためにそこら中に召喚獣がうろついている。
駅前からはターミナルのように道が広がり、半ドーム状の屋内通路が続いていた。そこには水平型エスカレーター(通称動く歩道)が両端に配置されていて、中央は優に十人が一度に並んで通ることができるほどのスペースがある。
御川たちは動く歩道を使わず、中央を行きかう人たちの合間をうまく抜けながら進んでいく。
但し、移動速度は常人の一・八倍である。
これは歩術と呼ばれるもので、魔力を使用しない基礎的な体術である。
南星学院はただ魔術を使用するための技術を習得するだけでなく、身体から鍛え上げる基礎を念頭に置いて教育している。
その為か一年生は碌に魔術を扱えない者が多い。
しかし、入念な基礎を積み重ねたからこそ高学年へ進むにつれて質の良い生徒が育っているのである。
他校が疎かにしているわけではなく、南星学院が特に力を入れている部分であり、新入生たちを引き寄せる魅力の一つと言いっていい。
御川は言わずもがな。その後ろに続く影里、金西も一月で習得済みだ。
御川たちも今回の事件に違和感を覚え、原因解明の手掛かりとなりそうな魔警へと向かっている途中だった。
屋内通路を抜けて大通りへ差し掛かった。
ここを道なりに進むと魔警が見えてくる。
歩を進める中、御川のデバイスが着信を伝えたため立ち止まる。ディスプレイには薫の文字が表示されている。
二人に止まるよう指示を出し、三人は大通りの隅へと移動。スピーカーモードに切り替えたデバイスから流れる薫の報告に耳を傾けた。
魔警で潜入して捕まった北の生徒たちから事情聴取をしたという報告に三人は顔を見合わせた。
「ほんとうに彼は頭が回りますね」
ここまで来ることが無駄になったことに少しだけ怒りつつも呆れながら、影里は言った。
少しとは言ったが目に見える形で現れてはいた。人通りの多い中央道で肩を怒らせて闊歩する彼女の数歩後ろを男二人が並んで歩いている。もはや体術を使うこともせずに来た道を戻っていく。
デバイスを仕舞うと、彼は歩きながら考え始めた。
「ここまでくると、彼の行動を把握しておく必要が出てきたな」
御川は薫の能力が優秀である反面単独行動が玉に瑕であることを学んだ。前々から一人で行動することが多い気はしていたが、特に問題ではないためスルーしてしまっていた。今回露骨に先回りが目立つようになったため会長として部下の行動はなるべく把握しておく必要があると感じた。
御川は今後の課題を胸に秘め、自分たちが次に起こすべき行動を考える。
規格外コンビは犯人の捜索をすると予想した。
では、我々のすべきことは豊川の捜索だろう。
再びデバイスを握ると、長瀬につないだ。後ほど合流することと薫から得た情報を共有すると通信を切る。そして長瀬の居場所をGPSで把握。
幸いにも西星市内であり、ここから十分とかからない場所にいるようだ。
「二人とも、とりあえず真里亜と合流する」
傍らで待機していた影里らに声を掛ける。
「了解しました(分かった)」
御川の提案に二人は頷きを返すと、三人で駅方面へと戻る。
先ほどの道を通り抜け、西星駅をぐるりと半周して西星学院方面へ。
大通りに繋がる階段を下りて、国道道なりにまっすぐ進む。
左手に魔術省が見えてきた。脇を通り抜け三人は信号に引っかかった。
信号が青に変わり西星学院の校門前を通過。またもや十字交差点にて信号待ち。
GPSの位置情報は周辺を指していた。
「さて、真里亜はどこだろうか」
御川はぐるりと見渡してパートナーの居場所を掴みにかかった。
しかし、どこを見てもそれらしい面影を見つけることは叶わなかった。再びデバイスを覗き見るが、現在地に矢印が伸びていた。
刹那。上空から魔力を感じ、上空を仰ぐ。
何やら落下してくる物体があることを把握。
それ(・・)は次第に人の形をかたどっていき、見知ったものへと変貌した。その正体は長瀬である。
「やっほー」
という軽快なかけ声とともに進行方向に魔法陣を三枚展開して割っていく。すると落下速度が軽減されたことが確認できた。
大胆な魔術の発動で周囲の人がぎょっとする。
長瀬は基本大雑把であり、軽減魔術に秀でていない。細部の調整やアシストは御川の役目である。
御川は長瀬の着地地点の真下へと移動し、落下してくる彼女を身体全体を使って受け止めた。
すっぽりと腕の中へ収まった長瀬は満面の笑みを御川に向けてきた。
「ありがと」
「ああ」
そっと長瀬を降ろす。
「で、真里亜。どうして上空から落下してきたのか理由を問いただしても?」
「飛行魔法使って豊川さんを捜索していました! サー‼」
と、敬礼交じりに長瀬は返答した。
「そうか」
あまりにもぶっ飛んだ発想だが、効率的だと御川は思った。
他の二人も流石に慣れたのか、それほど大きな反応を見せなかった。
影里の顔がやや顔は引き攣っているが、些細な問題だ。
「だけど、見つからないのよね」
がっくしと大胆に肩を落として項垂れるジェスチャーをした。
「まあ、仕方あるまい。これからはどこに向かう予定だった?」
「うーん、特に決めてないからお好きにどうぞって感じ。一応東星駅から一直線に飛んで来たからそこ以外で」
長瀬の通ってきた道を外し、更に魔警たちも捜索していない場所を探る。確認のために魔術省の知り合いに一報入れてみた。
彼等は東星市内を捜索中とのことなので、ここから北に向かうのがベストか。
「では、我々は北に向かうとしよう」
その旨を三人に伝えて北に足を向けた時、魔術省方面から爆音と鳴った。
「へ?」「「何(事)だ⁉」」「爆発⁉」
音のする方へ目を向けると丁度西星学院の方から煙が上がっていた。
「行くぞ!」
「「了解!」」「合点!」
『我は風になる!』
四人は足に魔法陣を展開して風を纏わせる。一歩踏み出して蹴ると一気に身体が加速した。
詠唱文に風が入っているが単に脚力を上げる簡易魔法である。
先程通り過ぎた校門前までは一分かからず到着した。煙の発生源は向かって裏側のようだった。
校門にいた警備員たちも慌ただしく動き、連絡を取り合っているようだった。
御川はそのうちの一人を捕まえ、生徒会御用達の通行証を見せて許可を取ると、現場へ急行する。
校門から続く舗装された道を通り、いつも会議で使う建物を通りすぎ、数件先で裏側へ回る。校舎の壁にはいくつもの戦闘の痕が残っていた。
恐らく裏庭と思われる場所には外装に年季の入った体育館であろうものがあった。
御川たちはここまで入ったことが無いため、存在を初めて知った。
しかし、それはすでに半壊しており、崩壊に合わせてハウスダストを周囲にまき散らしていた。
未だに中から爆発音が聞こえ、崩壊とともに地響きを起こしている。
「一体なにがあった!」
金西は近くにいた魔法省の人間に問いただす。
彼も事態に追いつけていないのか驚いていた。
「分からん! 我らも今来たところだ」
彼のほかに四人ほど魔術省の人間が待機している。
「とりあえず、中に入るよ!」
長瀬が率先して体育館へ突入を試みた。
『その必要はねえ‼』
え? と誰しもが声の元に視線を向ける。長瀬も思わずダッシュポーズを取りながら立ち止まってしまっていた。
声は崩壊している体育館内から聞こえてきたようだ。
すると崩壊しきって瓦礫と化した壁が土煙を立てながら崩れていく。
そして中から少年が現れた。
こちらを見るや彼は面倒くさそうに頭を掻いた。
赤を基調としたローブ風の征服。西星学院のものである。小脇には同じデザインではあるが反対に青色。東星学院の制服だった。
「榊!」
『”戦闘狂”‼』
御川は思わず声に力が入ってしまった。
少女を抱える少年は西星学院生徒会長の榊・雅人であった。そして、抱えられている彼女は今まで探していた豊川であった。ぐったりとしているが、彼が何も言わない為にとりあえず生きてはいるようだ。
彼の右手には肉の解体包丁を大きくしたデザインが特徴の大剣が握られていた。
更に目を引くのは剣先が血で濡れていたことだった。しかし、色が緑であることから魔獣との戦闘を行ったものと推測出来た。
まるで何かの狩りをした帰りのような井出立ちである。
榊はもう一度こちらをぐるりと見渡すと面倒なと更に顔を歪め、すたすたと御川の元へ歩いてきた。
「おら、探しもんだろう?」
と、ぞんざいに抱えていた豊川を放る。
百七十あるかどうかの彼が片腕で人を放る姿には驚かせられたが、人を投げるのはいかがなものだろうか。
御川は豊川を抱き留めると長瀬に引き渡し、辻占と同じ南星御用達の病院へ向かうよう指示を出す。
彼女は頷くと即座に魔法陣を展開し、飛び立った。
こちらの方が救急車を呼ぶよりはるかに早い。御川は榊に向き合うと事情の説明を要求した。
「で、榊。この有様は君が暴れたからかね?」
「まあ、半分はそうだな」
「半分?」
ぶっきらぼうな言い方に顰め面になりながら影里が尋ねた。
榊は口から唾を地面に吐き出すと、返答した。
「ああ。たまたま教師に呼び出されてな。それで来てみりゃ裏に妙な魔力を発しているじゃねえか。で、ちっと覗いてみたら見知った顔が縛られてやんの。まさかとは思ったが行方知らずの豊川だった。これでも一応生徒会長だ。もし身内が犯人だったら始末しなくちゃならねえから事情訊こうと近寄ってみりゃ、何やら魔獣とゴーレムが現れやがってな。ちょっくら遊んでやったらこのざまさ」
と、榊は体育館を半壊させたことに少しも悪びれずに言い放った。
確認のため、魔術省の面々が体育館内に入る。
そこら中に刃と同様の体液がまき散らされており、確かに魔獣との戦闘の痕跡があった。ゴーレムに至っては手足を粉砕され転がされている。
一人がゴーレムの側まで近寄り、手を触れる。手とゴーレムの隙間から淡い光が漏れた。
魔力を流し込んで動くかどうか検証をしているのだろうと御川は考えた。
そして、何も起こらないことが確認できたのか、その魔導士は立ち上がり、他の仲間に向かって首を横に振った。
そのやりとりから捜索系の魔術であったようだ。
「手がかりは無しか」
「まあ、見つかるわけねえだろうな。このゴーレム魔石式だからよ」
「それを先に言いたまえ。その魔石は?」
「あん? 勿論ぶっ壊したに決まってるじゃねえか」
そう言って榊はゴーレムの胸元を指した。
土で作られたゴーレムの胸部は見事に抉られていた。
「そう言うわけで、此処には犯人の手がかりはないだろうな」
「とりあえず、この状態で保存しておくが、問題ないね?」
魔導士の一人が榊に問う。
「ああ。好きにしてくれ」
投げやりに答えると握っていた大剣を肩越しに背中へと回し、ベルトで固定した。そしてすたすたと現場から立ち去ろうとする。
「どこへ行く?」
「さっき言ったろ? 俺は教師に呼び出し食らったって。それ放り出してこっち来たから顔出しに行くんよ。話ならその後にしろ御川」
「済まない。特に用事は無い」
「そうかい」
榊は両手をポケットに突っ込むと大股にその場から離れていった。
そして御川たちは魔術省の魔導士たちとともに現場検証を行うことになった。
始めること三十分が経過した頃、御川のデバイスが受信したことを伝えてきた。
差出人は長瀬からで内容は豊川の目が覚めたというものだ。
御川はその場にいる魔導士を一人捕まえると、彼女を搬送した病院へと向かうのだった。
本編初登場。(閑話込二回目の登場です




