十二章1 裏で動く者たち
ブックマーク、評価ありがとうございます。
いつもよりちょっと長めです。
フロンティア再開を明日に控える中、南星生徒会は今日も事務処理が続いていた。
原因である辻占の処遇については薫に渡した報告書に記載されている通りであった。
魔術省と魔警がわずか一日で辻占の身辺を洗い出したものの、急激なランクアップに関する有力な情報はない。
それどころか、長瀬の推測と同じ結果が出て困惑していると聞いた。
現時点で彼女が目覚めていない関係で詳しく内容を問い詰めることが出来ないため、彼女自身の処遇は保留となっている。
そのため魔警は外部から齎された力であると仮定し、彼女と面識のある人物を洗い出し始めたそうだ。
場合によっては会場破壊と言う形で多大な損害賠償を一生徒に請求することになりかねない。
原因が他にあるなら何としてでも捕まえたいと思っている長瀬は親友のためにその捜査に協力するべく、今日の事務には参加していない。
御川がそれを認めたために、誰も文句を垂れることは無かった。
薫は当然のごとくM・Lで強制療養のため外出不可。
よって生徒会室で仕事をしているのは残りの四人だった。
とはいえ、此処ですることはそこまで多くない。
被害報告を纏めることくらいである。
そんなことであれば御川一人で解決してしまう内容である。
勿論、そんなわけがない。
被害報告など先日に皆で協力し、早々に終わらせている。
では、此処に集まって何をしているのかと言うと、校内に張り巡らせてある監視カメラの映像をひたすら確認しているのだ。
昨日薫から連絡を受けた影里はすぐに頼まれた映像から算出し、彼に伝えてある。
依頼されたのは指定された映像に挙げられた特徴を持つ人物がいるかというものだった。
今日は薫から頼まれた伝言を生徒会全員に話して、実行していたのだ。
ただ一言。
「巡回中の映像を並べて見ると答えが出る」
だった。
今朝早く、四人は生徒会室に集まって作業を開始。
各PCに映し出されている監視カメラの映像はどれも長瀬と桜花が写っていた。
ひと段落着いたところで、モニターから目を離す。
「言われて見ると、確かにおかしいですね」
午前中からぶっ続けで三日分の映像を確認し終え、影里は眼鏡を机に置き、目元を揉み解しながらそう言った。
「まさか、敵の狙いが真里亜だとは誰も思うまい」
御川が驚嘆の声を上げる。
それに他二人がうんうんと賛同していた。
眼鏡をかけ、影里は再びPCと向き合う。
そこには屋台で焼き鳥を大量買いする長瀬と、疲れ切った桜花が映し出され、その後ろには多くの人が往来していた。
それ一枚見ればなんも違和感はない。
PCはスライドショー形式で別の画像を映し出した。
これも巡回中の二人の映像であり、場所は変わって入り口前。
更にはフィールド、裏庭、駐車場、大学前など至る所の画像が次々と流れている。
しかし、これらには二人が写るほかに共通点があった。
青いローブ調の制服に、指定のスカート。胸辺りで切り揃えた茶髪の女子生徒の姿が度の映像にも映っているのである。
これだけはっきりと写っていると、身元を特定することは容易だった。
検索するために別のソフトを立ち上げようとする手に御川は待ったをかけた。
「どうしたんですか?」
作業を中断させられたことが気に障ったのか、影里が冷ややかに尋ねる。
「調べるまでもないのだよ。影里君」
「え……と、会長さんの……知り合いですか?」
横で見ていた桜花が疑問の声を上げた。
「ああ。まさか彼女だとは思わなかった」
そう言って、御川は自分の席に戻る。
「犯人が分かっているなら早く言うと良い」
「元也は黙ってなさい」
ぴしゃりと影里は金西に言い放つ。
むう、と唸り金西は黙った。
「すまないね。彼女は東の副会長だ。君たちは定例会議に出席していないから面識がないのは仕方ない」
それを聞いて、三人は驚愕した。
「東の副会長ですか。まさかそんな」
「ああ。だからこそ、問いたださねばならない」
そう言うと、御川はデバイスを取り出して、諸星に連絡を取ろうと試みる。すぐにつながった。
「ああ、忙しいところ済まない。御川だ。少し長い話になるのだが、今いいかね?」
『問題ないよ。そちらほど忙しくはないからね』
確認をとり、了承を得たところで、今回判明したことのすべてを伝える。
同じ学院である以上、手を組んでいる可能性はあるが、別に知られて困ることではない。
彼と話をして見た結果、向こうも驚きを隠せないようだ。
『事情は分かった。今から確認するから、通話状態にしておいてくれ』
「了解した」
御川はデバイスをスピーカーモードにして、机に置いた。
ガサゴソと何やら探しているようで、すぐに通話内容が聞こえてきた。
『ああ、珠ちゃん。諸星だけど。うん、そう。お姉ちゃんはいるかい?』
どうやら東の副会長には妹がいるらしい。
『え――居ない?』
聞こえてきたフレーズに、生徒会一同は思わず立ち上がった。
『そうか、どこに行ったかは……分からないよね。ごめんね。うん、じゃあね』
デバイスが雑音を放ち、こちらとの通話へと切り替わった。
『会話の通りだ。今の通話を送るよ。これでこちらの不正がないことの証明になるからね』
伊達に生徒会長では無かった。
「疑うようで済まない」
『こればかりは仕方ないよ』
やや落ち込んだ声音で、諸星は言う。
『もしかしたら、此間の規則違反者も……』
「あり得るだろうな。実験として使われたのかもしれん。そのあたりも含め、調べてみる必要が出てきた」
定例会議で報告として挙がっていた二人の規則違反者の件だ。
もし、副会長が犯人であったとするなら、試しとして利用された可能性が十分にある。
『なら、こちらは二人を調べる。緑の方、頼んでいいかい?』
東の副会長の名を豊川・緑という。
「了解した」
返事を聞くや、諸星は通信を切った。
そして、御川のPCに先程の音声データが送られてきたので、影里に頼みこれが本物であることを確かめてもらう。
照合した結果どこにも合成音は使われていないことが判明し、本物である裏付けが取れた。
「桜花君。君は薫君の元に向かってこのことを伝えてくれたまえ。豊川は我々で探す」
そう言って、御川は生徒会にある金庫から屋上の鍵を取り出し、桜花へと投げる。
鍵を受け取り、薫への伝達を頼まれた桜花は生徒会室を飛び出した。
因みに、投げ渡しなのは未だに御川は一人の状態の桜花に近寄れないためであった。いつの間にか金西と影里の二人は出かけるための準備を終え、御川を待っていた。
そそくさと御川も準備をして、捜索に向かった。
「薫君、君はどこまで見えているんだい?」
昨日の時点で、長瀬が狙われていることが分かっていたのだろう。
彼の洞察力や頭の回転は生徒会一である。
実は彼はすでに犯人が分かっているのではないだろうかと御川は疑っている。
*
「僕が実は犯人を知っているとか、会長は思っちゃったかな?」
世間が騒ぎ始めた頃、薫はベッドの上で来客者との会話にこんなことを呟いた。
「なによ、藪から棒に?」
唐突な会話の曲げ方に来客者は怪訝な表情を浮かべた。
「いやね、僕が会長にとって全知全能な人間に見えているのではと不安になってさ」
「なら、大丈夫よ。少なくとも私はそう思っていないから。確かに貴方は頭がいいけれど、それは状況証拠が手元にあるからこそ導き出された回答でしょう。はい、林檎」
来客者がお皿に乗せた林檎を渡してきた。
しかも兎だった。
「いただきます」
備え付けのフォークを使い口に運ぶと、しゃりしゃりと心地よい歯ごたえを感じた。
やはり、季節前の果物は旬のものより劣っているな。
少しだけ険しい表情を作る。
「それは仕方ないでしょう」
表情から察せられ、またもや呆れられてしまった。
「ですよね」
そう言って、あっという間に丸々林檎一つを平らげると、薫はテーブルに皿を置いた。
「さてと、いつまでもこのままでいる訳にはいかないからね。本題に入りましょうか」
姿勢を正し、来客者へと身体を向ける。
「で、姫野さん。彼女……豊川さんは今どこに?」
来客者は同級生にして学級委員の姫野だった。
今まで彼女には裏で情報を収集してもらい、薫に報告してもらっていたのであった。
そのおかげもあって、薫は確診に迫りつつある。
影里への映像の質問は姫野の情報が正しいかどうかの裏付けを取りたかったからだ。
「あのさ、八城君。私が知っているのは学院内の情報だけで外に出てからは何も掴んでいないわよ?」
「そうだね、うん。分かってた」
「本当に?」
姫野は疑いの目を向けてくる。その視線は背筋を凍らせるほど冷淡であった。どうやら彼女は桜花とは別ベクトルの怖さを秘めているようだ。
「期待してすみませんでした」
「よろしい」
こじらせると後が怖いので、素直に謝った。
「でもまあ、校内で観察を続けた限りでの話になってしまうけれど、先輩が他の誰かと接触したようなそぶりはなかったわ。常時見張っているわけではないし、他の子たちからも情報を貰ってはいるけれど見落としがあるかもしれないわ」
「だとすれば、事前に仕込まれていた線が有力かなぁ。何とも言えない」
この段階では毛曲堂々巡りになるだけである。
情報があと少し足りないのだ。
「彼女が誰かに操られていることが分かれば」
「ええ、大体検討は付くわね」
他人を操る術を持つものは意外と少ない。
もし、操術であることが判明すれば、一気に追い詰められるかもしれないのだ。
「ところで、八城君。気づいているかしら?」
唐突に姫野は微笑みながら薫に尋ねた?
「残念ながら、気づいていますとも」
そう言うと、姫野は身体ごと椅子を横にずらす。すると、丁度薫の視線は扉に向かう。
そして、扉の隙間から覗く怖い瞳がそこにはあった。
「別に逃げる気はないから入ったらどう? 桜花」
部屋の外にいる幼馴染に告げた。
彼女は静かに扉を開けて、また静かに閉じる。
完全に閉じたところで、桜花はこれまた静かにベッドへ歩いてくる。行動すべてが研ぎ澄まされたものであり、礼儀正しい。しかしそれらは却ってとげとげしい印象を与えてくる。
姫野とは逆に窓際の椅子に座った。
「……薫」
「桜花の言いたいことははっきりと分かるのだけれど、後にしようか」
「そう。なら言わないわ。人の目があることだし」
ちらりと、視線を姫野に向ける。その目には誰もが分かるほどの敵意が込められている。
「……ほ、本当に仲がいいわね。あなたたち」
姫野は頬を引き攣らせ、大いに引いていた。
「いつの間に、こんなにも仲良くなったのかしら」
「おーい、桜花さん。トリップしてないで戻っておいで」
「私、そろそろお暇しようかしら?」
「爆弾投下して帰らないでいただけます?」
「さっさと帰りなさいよ、この泥棒猫」
言ってはいけない台詞を口にしてしまい、増々姫野の表情は固まっていく。
さすがの薫も顔が青くなる。
仕方なく、薫は桜花の頭にチョップを与える。
「あたっ」
突然の攻撃に桜花はもろに受け、涙目で訴えてくる。
「いや、こっちが何するんだ。だからね!」
「はあ、一応私の口から言っておくわね。八城君に頼まれていた案件を報告に来ただけよ。貴女の思っているようなことじゃないわ」
「勿論分かっています。薫が浮気しないことくらい」
「貴女、やっぱり面倒くさいわね!」
珍しく、姫野が声を荒げて突っ込んだ。
このやり取りを見て、薫は別の意味で驚いていた。
「まさか」
「あのね、八城君。今、貴方の言いたいことがはっきりと分かったのだけれど」
「それはなりより」
そう。桜花がこれほどまでに姫野と会話が成立している事実に驚いているのだ。
内容はともあれ。
軽口が言える仲となるには相当苦労するのだが、やはり薫と繋がりの深い人物には積極的になる傾向があるのだろう。
何にしても、桜花の成長には喜びを隠せない。
「本当に、後にしてもらえないかしら。本気で帰るわよ」
「すみませんでした」
傍から見れば両手に花状態なのだが、二人同時に謝る日が来ようとはこれいかに。
「で、桜花は如何したの?」
テンポの良いコントのような会話を終わりにし、本題に入る。
「これ」
桜花はポケットから鍵を取り出して、薫の手に乗せる。
安物のキーホルダーには屋上の二文字がある。
つまり、ガウゼスで学院から飛んで来たということで。
「会長たちが、捜索に行った?」
「ざっつらいと」
抑揚のない声で桜花が言う。
と言うことは、薫も悠長にしてられなかった。
「姫野さん、巻き込んだついでに、もう一つ頼んでいい?」
「いいわよ。後で埋め合わせしてくれるならいくらでも」
その返済が何になるのか怖いが仕方ない。
「今、副会長が魔警と一緒に捜索しているらしいのだけれど、副会長に付いていて欲しいんだ」
「彼女がターゲットであることは理解しているけれど、私が要るの?」
確かに力量差を考えれば、副会長の護衛は不要だ。しかし、今回の場合、その強さがあだになるかもしれない。
「保険にね。お願い」
「分かったわ。場所教えて」
渋々承諾してくれた。本当に頭が上がらない。
薫はデバイスで長瀬の居場所をリアルタイムで表示してくれる物を渡す。
「……ちなみに、これは壊すとどうなるのかしら?」
「まあ、故意敵に壊されなきゃ何も請求しないから大丈夫だよ」
先ほどのお返しとばかりににこやかな表情で言う。
恐る恐るデバイスを鞄に仕舞い、姫野は部屋から退室した。
「さて、桜花。僕らも行こうか」
「大丈夫?」
先ほどの殺気はどこへやら。
こちらを労るように聞いてくる。
「平気だよ。流石に動ける」
両手を振り、アピールする。
本当に痛みは引いており、いつもと変わらず動かすことが出来た。
「と、本人は告げておりますが、本当に大丈夫でしょうか?」
「問題ございません。今朝方、専属医が許可しております」
「わぁ⁉ 秘書さん。いつの間に」
振り返ると総一郎の秘書が立っていた。
タイトスカートのスーツを上品に着こなし、佇んでいた。
「薫さんの報告を元に社長も動いております。本日はこちらを渡しに参りました」
どこから取り出したのか、彼女の両手の上には二本の刀が乗っていた。
舞姫である。
どうせ使うことになるからとメンテナンスに出していたものである。
「ありがとうございます」
お礼を言って、舞姫を受け取る。
では、と言って秘書は部屋から出て行く。
「どうして僕の周りには気配を消す人が集まるのだろうか?」
「さあ」
常人離れした察知能力を持つ薫ですら先程の秘書と姫野(たまに長瀬)の気配は未だ掴めないでいた。
お読み下さりありがとうございます。
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