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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十一章11

ブックマーク、評価ありがとうございます!

 開け放たれた窓から御世辞にも冷たいとは言えない温風が部屋に注がれている。

 薫は寝ていた身体を起こし、壁を背凭れとして座る。

 ベッドに備え付けてあるサイドテーブルから清潔感のあるタオルを手に取り、額に浮かんだ汗を拭った。

 ここはM・L内の薫専用部屋である。

 一面真っ白の空間という点はどこの医療機関とも何ら変りない。

 しかし、医療器具のすべては魔導機構ではなく永久機関もどきによって動かされるものである点が他とは一線を画している。

 それらは薫の体質を考慮して設計されたオリジナルであった。

 永久機関もどきの開発者は総一郎が率いる開発チームが現在も行っている。

このもどきの原案者は薫の両親だった。

 魔力の発現しない薫のためにと自身の研究を擲ってまで開発してくれていたものだ。

 先の大戦で二人が亡くなり、中途半端な状態にあった機器を友人である総一郎が引き継いで何とか完成させたのだ。

 この永久機関もどきの完成により、薫の生活環境は一変した。

 始めはM・Lの社内でのみ運用することとなり、薫はテスターとして約一年M・Lに滞在した。

 その期間に総一郎たちは次々と商品を開発し、薫が使用して検証を重ねた。

得られた実験データを元に彼等は思考錯誤して総一郎たちは生活水準を満たせるだけの器具を開発していったのだ。

 この部屋はその実験に使われた部屋であり、置かれている器具の大半はその実験で成功したプロトタイプだ。

 総一郎からいつでも最新版を置いてやると言われているが、物を大切にしたいという気持ちと長らく付き合ってきた思い入れから、導入を断っている。

 自宅にあるものは自分だけが使うわけではないので、全て最新版にしてもらっていた。

 これらの商品は先程から言っている通り薫のような魔力の持たない人向けに開発されたものだが、完成後世に出してみたところ以外にもヒット商品となった。

 生活器具は現在もなお家電と呼ばれている。別に電気を使うわけではないのだが、昔の名残で総称として健在していた。

 魔力機構は使用者の魔力を原動力とするため、大昔に主流となっていた電化製品のデメリットである電気代の負担が無くなったことが話題を呼び、需要が増えた。

 それに伴いこぞってメーカーが魔力原動力の製品に切り替えたという歴史がある。

 それまでは薫同様魔力など持たない者が大半で、魔力は奇怪なものでしかなかった。

 今ではそんな風潮はどこへやら状態だが。

 では、魔力動作が当たり前な中、今回の永久機関もどきがヒットした理由は単純で消費魔力が段違いに少ないのだ。

 現代の魔術機構の仕組みは使用する分の魔力を機械に自ら注ぎ、動かすものだった。

 しかし、今回の永久機関もどきは一度魔石と呼ばれる充電器のように魔力を溜めて置けるものに魔力を注ぎこむだけでいい。満タンな状態から使用すると、内部にある魔力が循環し、そのついでに魔石が魔力を生成してくれるというものだ。

 魔力発生原理について薫は知識を持ちあわせていないため、詳しく語れないがそう言うことらしい。

 魔石は半年程度魔力生成をしてくれる(使用頻度により変わる)そうでコスパが圧倒的に良い。

 それが証明されたため、学会では大盛り上がりだったと叔父さんは興奮しながら言っていた。

「久しぶりにこの部屋へ戻ってきたな」

 自宅での生活が確立してからというもの、M・Lには別の実験室が完成し、最近はそちらを使っている。

 そのため、この部屋を使う機会は減ってしまった。

 それでも部屋が清潔なのは業者さんに掃除して貰っているからなのだろう。

 薫は両手を軽く動かした。

 医療技術が発展していても、治るにはそれなりに時間がかかるようだ。

 両腕に違和感が残っている。

 皮膚が急激に膨らんだために伸ばすとまだ引っ張られる感触が残っている。

 因みに、猛暑日でありながら冷房の一つも点けずにいる理由は凍傷治療の一環だ。昔は急激な加温を避けるのが処置だったらしいが、時代が進むにつれ、急激に温めた方が利くそうなのだ。

 昨日は搬送後すぐに四十二度の湯船に投下され、薬を飲んで寝るという文章にしてみるととても簡潔な内容だ。

 明後日からのフロンティア再開に参加できるかは薫の回復力次第らしい。

 現代では高位な治癒魔術により即死以外の傷(病気の内容次第)は一発で治ってしまう世の中だ。

 その恩恵が受けられないのはやり異常なのだろう。

 最近は一人でいる時にどうもネガティブな感情になりやすいようだ。

 人との関わりが増えて環境が恵まれていたせいで、とうの昔に決意した体質との向き合い方を忘れてしまっていたようだ。

「やっぱり、一人では生きていけないよね。それは異常があろうともなかろうとも変わらないけれど」

「当たり前」

ん?

 不意に聞きなれた声がしてそちらを振り向くと、私服姿の桜花がいた。

 爽やかな空色のワンピースに珍しく髪を結ってポニーテールにしていた。

 髪を縛るのは痛めるから好きじゃないと言っていたが、どうしたのだろうか?

 彼女は静かにベッドの横にある椅子に腰掛けると、細くて白い手をそっと包帯の巻かれている腕に乗せた。

「例え自分が孤独であったとしても、必ず他人が干渉しているから一人ではない」

「それは孤独と言う言葉に対する発言?」

 薫の問いに桜花は首を横に振った。

「孤独は認識や価値観の違いから生まれる現象だから、存在はする」

 きっぱりと告げた。

「で、今日はどうしたの?」

「薫が寂しいと思って来た」

 確かに個室で寂しくはあったが、せいぜい離れても二日だ。自分がホームシックであった自覚は無いのだが。

「……本音は?」

「私は薫成分がなくては死んでしまう」

 大真面目な表情で桜花は言った。

 それは何年もの間離れて生活していた人間から出る言葉ではない気がするのだが。

 クス、と薫の口から苦笑が漏れた。

 それに桜花が微笑む。今まで落ち込んでいた感情が一気に吹っ飛んだ。

 聡明で薫のエスパーである彼女のことだ。部屋に来て僕の顔が優れないのを感じ取ってくれたのだろう。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 お互いに頭を下げたところで、桜花はハンドバックから分厚いファイルを取り出し、中から紙束を渡してきた。

 伸ばした手にそっと置いてもらった。

そこには昨日暴走し、病院へ緊急搬送された辻占に対する処遇が書かれていた。

 文面から影里ではなく御川のものであることが分かった。

 書かれている内容をゆっくりと読み込んでいく。

 これで二人が焦っていた理由に納得できた。温厚な性格で防衛主義な先輩の唐突な実力上昇。確かに不自然だった。副会長が辻占先輩と最後に会話したのが七月半ばであり、変化は見られないという。

 人の変化に敏感な副会長だから信頼していい情報だ。

 となると、半月でツーランクアップする要因は絞られてくる。

「桜花。辻占先輩はまだ?」

 脳内で思考する傍らで、静かに座ってこちらを見つめている桜花に尋ねる。

「……」

 こちらが尋ねても返答が来ないことが不思議に思い、視線を報告書から桜花へと向ける。

 すると、じっとりとした目でこちらを見ていた。

「ええと、どうかしましたか?」

 自然と言葉が敬語へとシフトした。あの目は不味い。見えてはいないが背後に般若が降臨しているに違いない。

 しかし、それはすぐに収まりいつも通りの静かな表情へと変わる。

「そう言えば薫が先輩の服をまさぐっていたなと思い出しました」

「うっ」

 確かにしました。いくら魔力を抑えるためとは言え、やはりまずいですよね。

自覚はあるので否定はしません。甘んじて受けます。

「だけれど、あの行動がなければもっと被害が出ていたのは事実。薫自身も重傷を負った。ですから不問とします」

 どうやらお許しが出たようです。

「だけど」

 どうやら続きがあるそうです。

 桜花は立ち上がり、ぎゅっと全身で抱きしめられた。

「やっぱり薫は優しいし、困っている人に手を差し伸べるのは大好きな所。でも、誰彼構わず自己犠牲精神で助けるのは控えて。私たちが心配になることを率先してするのは止めて」

「それは分かってはいるんだけれど……」

「じー」

 その目は止めてその目は!

 何でもしますからと言う台詞は口に出かけたけれど何とか飲み込んだ。

 後で言質取ったって言われて、とっさに起こした行動の責任を取れと言われかねない。

 この時点で、薫は反省する気が一切ないことがお分かりだろう。

 桜花は「はぁ」とため息を吐きこちらの胸に顔をうずめる。

「これだけは私が言っても揺るがないよね」

 ここで戦闘時の件を出すのは野暮なので控えた。

「……ごめん」

 だから謝るのが精一杯だった。

 しばしの間桜花は薫から離れることは無かった。

 薫は優しく頭を撫でてやる。

 綺麗で滑らかな髪は撫で心地抜群である。桜花が家に来てから、月菜の髪も彼女と感触が似てきている。

 やはり、手入れにコツがあるのだろう。

 満足したのか、桜花は自ら離れて席に着いた。

「うん、薫成分補充完了」

「やっぱり、その気はあったんだ……」

 何だろうか。最近桜花は副会長とセットにすることが多かったために、悪影響がでているのではないかと心配になってくる。

 そこで資料が目に映り、再度報告書を読む。

 今度は読み終えるまで動くことはなかった。

 報告書を桜花に返し、家の金庫に入れておくように言う。

「じゃあ、明日迎えに来る」

「分かった。気をつけて」

「うん」

 最後に満面の笑みを浮かべ、桜花は部屋から出て行った。 

 彼女が向かうのは玄関ではなく屋上である。

 大分改善されたものの、やはり人見知りであることに変わりはなく、未だに一人で出歩くことは辛いようだった。

 開いている窓から轟音が聞こえた。

 屋上から桜花を乗せて飛び立ったガウゼスを見えなくなるまで見送ると、薫は熟考する。

 改めて、今回の報告書の内容をふまえ、整理していく。

 タオルと同じくテーブルに乗せてあるデバイスを取り上げ、影里にあることを尋ねる。

 待つこと三分。

 返信が返ってきて、確信した。

「敵の次の目標は副会長だな」


お読み下さりありがとうございます。

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