十一章8
フロンティア三日目。
今日はCランク戦がメインである。
各校のCランクはⅮランク同様比較的人数が多いがⅮランクよりは少ない。
そのため、終了時間を延ばすことで一日でトーナメントを終えるという強行軍じみた予定となっている。
連戦が想定されるために上位者への負担が大きくなる反面、上がっていった者へBランク昇格のチャンスを与えられるという獲物をぶら下げることで選手たちのモチベーションを保っているのだ。
これは毎年恒例のようで、今回に限ったことではないらしい。
「しかし、毎度のことながら、初戦は人が集まらないものだ」
御川は観客席で周りを見渡す。
埋まっている席は全体の2割と言ったところで、始業と同じ時間だが静かであった。
高ランク戦に比べるとやはり大半が見たいとは思わないのが現状だ。御川本人とて、知り合いが居なければ見に来ないだろう。
彼は生徒会兼規則委員会兼運営という業務を背負っている関係で朝からいなくてはならないので、どのみち変わらないのだが。
「まあ、仕方ないわよね。Cランクってぱっとしない人が多いから」
横に座る長瀬が棒キャンディーを口にくわえながら言う。
Cランクは数的に低く見られがちだが、別に低いというわけではない。一般的な水準であり、日常に置いては高い適性を持った魔導師として差し支えない。
魔道省の約半数はCランクで構成されているほどだ。
では、Aランク自体が稀だというとそうでもない。約五万人に一人レベルでいると言われている。
現在の総人口は魔術戦争により約四十億とかなり減ったが、それでもAは其れなりにいる計算だ。
元々Aランク認定の世界基準が魔力量に依存する。
昔の考えで魔力量が多い人=強い人というイメージが今もなお定着した結果と言える。なぜ変更しないのかという疑問は魔力量以外の定義が難しいという理由。ただ、ランク付けするだけならば戦闘経験はいらないと投げやり状態が続いているためだった。
では、意外と多いAランク。その中で実戦に投入できる人数はいかほどか。
答えは約半数程度と言われている。
つまり、その半数に当てはまる人間が国にとって重宝する存在なのだ。
それを発掘するために、莫大な資金を投入し、このような大会を開いている。
「真里亜。例え事実であったとしても彼等に面と向かってその台詞を言うんじゃないぞ」
「分かっているわ」
口では肯定しているものの、顔はそっぽを向いているあたり、どうやら遅かったようだ。
「その肯定は経験からかね?」
「分かっているなら訊かない」
うー、と抗議の眼差しを向けてくる。
珍しく本人が反省しているので、御川はこの話題を止めた。
そして視線をフィールドに向ける。
初戦が終了し。第二試合が始まろうとしていた。
上空に浮かぶホログラムモニターに対戦者が表示される。
「同輩が試合のようだ」
「そう――って、あら。加穂じゃない」
モニターの顔を見て、長瀬が言う。
「知り合いかね?」
「ええ、中学からの付き合いよ……って、忍。あなたも何度か会っているわよ」
「ふむ、本名は?」
「辻占加穂」
そう指摘され、御川は過去を思い返していく。刹那、ホログラムモニターの映像と類似した顔立ちの人間と会話していたことを思い出した。
「確かに、そのようだ」
「もう……まあ、二年に上がってからクラス別れちゃったから廊下ですれ違ったりした時に挨拶や世間話するくらいだけど、それなりに友達やっているわ」
「そうか」
長瀬に友達がいるという事実に御川は嬉しく思う反面、相手のことが気になった。
長瀬はAランクであり、南星の筆頭だ。そんな相手を前に、失礼ではあるがCランクの子が普通に友達付き合い出来るのか、ふと心配になってしまった。
ましては常人ならまだしも自他ともに認める変人枠である。
これまで彼女と付き合ってきて、気にもしてなかったことが浮上してきて御川は熟考する。
「――ぇ、ねえってば」
身体が優しく揺す振られる。
「うん?」
どうやら思考し過ぎて長瀬の問いかけを無視してしまったようだ。
「ああ、すまない。どうした?」
「まったくもう。いい加減会話中に熟考するの、止めてくれないかしら。少なくとも私と会話する時くらい楽にしていなさいよ」
やれやれと、嘆息する。
生真面目な性格に考えることが好きな御川の欠点であった。
「でさ、もう試合終わったのよね」
そう言われ御川はモニターへと視線を向ける。
南星の勝利と書かれ、次のマッチングが映し出される。
それほど掛かったとは思えないほどいつの間にか時間が加速していた。
「ふむ、勝ってくれたか。喜ばしいじゃないか」
「そうなんだけど……」
仲間が勝利したはずなのに、その表情は暗い。試合内容が芳しくなかったのだろうか。
再度、御川は問いかける。
「どうした?」
長瀬は逡巡し、御川と視線を合わせて言った。
「彼女の実力は大体分かっていたつもりよ。だけど、今の試合見ていて違和感を覚えた」
真剣な表情で長瀬は紡ぐ。
「とても、Cには見えなかったのよ」
「それは弱くなって――」
「いいえ、逆よ。強く成っている。それも、A手前程度に」
「なっ⁉」
その発言には御川も驚かずにはいられなかった。
本来、ランクを上げることは個人差はあるものの、生まれ落ちた時に測定したランクからプラスワンランクが人生における限界とされている。
稀に二段跳びする者もいるようだが、噂程度の認識でしかない。
もし、彼女がそれに該当するのであれば、是非とも戦力として欲しいと考えている。
しかし、長瀬の表情を見る限り喜んでも居られないようだった。
長瀬の顔に迷いの表情が浮かんでいた。
「何かあるのかね?」
御川は助け舟を出す。
「……本来、二段昇格は誰もが祝福すべきものよ。だけど、彼女は性格が温厚で、戦闘の力を欲しているわけではなかったのよ。守るために力を鍛えるって言っていた」
「つまり、彼女の目覚めたものが防御でなく攻めだったということだろう?」
御川の答えに長瀬は幻滅した表情を浮かべる。
そして、自分の間違いに気づいた。
「失礼、前言撤回だ。そんなわけがない」
「ええ、気付いてもらえて何よりだわ」
魔術の発動原理は術者のイメージに依存する。
守りに特化したいのであれば盾や壁のイメージが挙げられる。
しかし、守りに特化していても攻撃もしなければならない場合もある。その時、術者の大半は盾を相手にぶつけることをイメージするようだ。
慣れ親しんだプロセスであるから転換はそう難しいことではない。
その後、今まで彼女がどんな風に歩んできたかを真里亜から聞いて行く。
話を聞く限り、辻占は光系統の魔術をメインにしているらしい。他の属性は手を出していなかったようで、汎用性が低いと言っていたそうだ。
そして、今回の大会で使用したものは氷系魔術。
それも殺傷一歩手前の力だったらしい。
人は誰しも悩み迷うものであり、一辺倒だった力を嘆き、汎用性を考慮して手を出しただけかもしれない。
本人に確認してみない限り分からないことだった。
「では、彼女のもとへ向かうかね?」
「いいえ、今はいいわ。大会形式ではあるけれど試験中だし」
「だが、事と次第によっては――」
「分かってる。だから私たちはいつも通り、裏で確かめればいい」
不正行為であるならば早急に対処せねばならない。
たとえそれが友人であったとしても。
「次は三年の試合か。じゃあ、薫君は控室よね」
二人は観客席から立ち上がり、一階の審判控室へと向かうのだった。
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