十一章7
駆け足ですが。
場所は変わってメインフィールド。
太陽が上り切り、傾き始めた頃である。
個人戦はトーナメント方式のため、後になるにつれて参加人数が減っていく。
そのため、勝利者一人当たりの運動量もまた増える。一応三学年が交互に行っているため、各自休息時間はあるものの、疲労を完全に取り除くことのできるほどの余裕はなかった。
選手控室には三学年のベストエイトのみが残る状態となっていた。
内訳は一年:西が三人、東、南が二人、北が一人となっている。
二年と三年は面白いことに西と南が三人、東が二人と、北が一人もいない状況だった。
薫は初の審判として参加している関係から、これまで一年を担当していた。
よって、この後の一年の試合はある程度先を予測出来る。
素人目判断だがⅮランク戦は西が持っていくと踏んでいた。
西は三人とも残ったのは魔術師でその中でも一人が召喚魔術と単純な火魔術を併用できる人間がいた。
その時点で南ならCランクと断定される実力者だが、西はこの程度の人間は珍しくないのだろう。
自校ではどちらも魔剣士が残っている。粗はあるが加速術式を効率良く運用して短期戦で勝利してきたスピードタイプである。
聞くところ二人とも同じ道場の出だそうで、ライバル関係なのだそうだ。東は多分に漏れず安定した魔術を使用する西に似てCランクに近い実力の持ち主が上がってきた。
で、今回の注目と言うわけでもないのだが別ベクトルで北に視線が向いている。
盾形魔導具の使い手なのだが、何と彼は全ての試合を無傷で通過するというⅮランクにしては異例の結果を残している。
先程薫の予想は西が勝つと踏んでいると言ったが、それは単純に火力があるのと変化球を成せるという点からだった。それを乗り越えるほどの壁を生成できるのであれば、北の優勝もあると考えている。
トーナメント方式であるため、戦う順番はすでに決まっている。なんと、南は片側に塊っており、ただでさえ偏った時点でどちらかしか高得点を得られない状況。
更に一回戦、二回戦ともに北と当たるという不運な表となっていた。ひたすら立てこもる相手に対して接近戦は正直不利だ。
そして五位の決定はよりポイント数を稼いだ方に与えられるため、下手をすれば南の一年はポイントが貰えない可能性が浮上してきたのだ。
ここでわずかでも勝ち取っておきたいのは誰もの本音ではあるが、こればかりは相性という他なく、たとえ負けたとしても彼らを責めることはしないだろう。
今は両面とも上級生の試合のため、薫は審判用の控室で待機していた。
中にはモニターが設置してあり、会場内の様子がリアルタイム放映されている。
片手に持つトーナメント表を移した端末とモニターを交互に見て、薫は今後の戦況予測していく。
「……やはり、彼等には申し訳ないけれど今回は先輩たちの胸を借りる他なさそうかな」
モニターから歓声が響く。視線をそちらに向けると南の三年が西を打ち破り、準決勝へ進出したようだ。手持ちのトーナメント表も更新された。
これでこのブロックは決勝まで南同士が当たることは無い。
もう片方が二人いる状態だが二人とも準決勝進出をすでに決めているため、この時点で最低九点が入る計算だ。五位は西が持って行ったが、この差は大きい。
会長が言うように、うちは上級生が強いのだと納得した。
「先輩たちプレッシャーだろうな……」
次は二年の準々決勝だ。
彼ら次第で差が開くか均衡かが決まる。
薫はデバイスを胸ポケットに仕舞い、備え付けのベンチから立ち上がると軽く身体をほぐしていく。
基本的に審判は立っているだけなのだが、いつでも動ける状態にしておかなくてはならない。
「さて、行こうか」
いい感じに身体が温まったところで、ベンチに置いていたスポーツタオルと飲料を手に部屋を出る。
会場の出口付近に近づいたとき、かすかに胸元が震えた。
あまり時間がないので、差出人だけ確認する。
「……予想より早かったな」
担当の試合が終わったらすぐ確認することを決め、デバイスをポケットに戻す。
手動の扉を開け、会場に踏み込んだ。
わぁ‼ と控室で聞いたものより大きな歓声を浴びた。
薫に向けてではなく、退場していく選手たちに向けてだ。
Ⅾランク戦でこれなのだから、今後の試合は観客の増加に期待できるだろう。
イベント運営者として汗を流してきたかいがあるものだ。
「お疲れ様です」
三年の審判を終え、フィールドから降りてきた主審たちに声を掛ける。
六人は薫に頷いて軽く返礼すると、短い反省会を行う。
『只今より、個別トーナメントランクⅮ、一年生の準々決勝を行います! 出場選手はフィールド前で待機してください』
会場アナウンス(影里ver)が響く。
薫は先ほどの主審たちとともに先にフィールドに入り、所定の位置に付く。
薫が担当するのは西と東の対戦である。
隣では北と南の対戦が行われる手筈だ。
一応、不正のないことをアピールしておかなくてはという主審の配慮だった。
本音から言えば北の魔導具を見たかったが、会長が今後の参考と称して録画することになっているので、あとで確認すればいい。
時間となり、選手がフィールドに入場してくる。
赤と青の対照的な制服を来た男女が五十メートル越しに向かい合う。
二人とも魔導具の携帯は無い。しかし、西の女子は改造制服で法衣のようなローブに身を包んでいた。
真夏だというのに暑くないのだろうか。
たわいのない疑問とともに、開始時間となった。
分割されたそれぞれのフィールドの中央端に主審が立つと手に持っている旗を 真上に上げる。
「始め‼」
合図とともに旗が振り下ろされた。
東の男子生徒は足に魔力を注ぎ、合図して間もなく距離を詰める。
後二歩で接触する位置に来て左右に身体を振る。
フェイントを混ぜたボディーブローを女子生徒に浴びせた。
寸前、
『光は人を守る』
落ち着いた声音とともに、彼の拳は彼女に触れる前に阻まれた。
男子生徒の表情が歪む。
この隙に彼女は詠唱する。
『其処にあるは炎』
男子生徒に魔法陣を浮かべた手を向けた。
咄嗟に男子生徒は回避。
足の加速術を解いていなかったのが功をなした。
炎を紙一重で躱す。行き場を失った炎は軽く地面を焼いた。
男子生徒は加速を続け、彼女の周りを囲むように回り、攻撃のタイミングを計る。
女子生徒も冷静に次の攻撃を予測しているようだ。
薫は試合を見守りつつ、内心苦笑していた。
恐らく男子生徒は必死なのだろう。これまで何度か彼の戦いを見てきたが、どれも最初の一撃で決着を付けてきた。
それが利かない相手に対する戦術を考えていなかったと踏んだ。
その焦りが、無駄に体力と少ない魔力を消耗させていく。
もしかしたら彼の性格なのかもしれない。
反面、西の女子は至って冷静に対処している。
観客たちもこの結末は見えているだろう。
彼等の視線は隣の北へと向いていた。
二分半が過ぎた。
徐々に男子生徒の足が遅くなっていく。魔力枯渇だろう。攻めあぐねた結果だった。
それに気づいた男子生徒はがむしゃらに攻撃を開始。
女子生徒はそれに合わせ、軽く身体を捻って回避。無防備な背中に先程の火魔術を当てた。
その場にいる薫ともう二人の審判が旗を上げ、試合終了。
実にあっけないものだった。
女子生徒は表情を変えずに控室へと戻る。
男子生徒は一向に起きる気配がない。副審が近寄り、症状を確かめる。
枯渇による疲労が原因のようで、救護班数人によって担架で運ばれて行った。
この時点で会場に戦闘終了のブザーが鳴る。
隣に視線を移すと、予想通り北の判定勝ちとなった。
南の表示に多少ポイントがついていて、薫は驚いた。
わずかだが一撃入れることが出来たようだ。
退場していく同輩の背中に敬意の視線を向け、薫もフィールドから降りた。
先程と同様に軽く反省会(特にすることは無く、試合の感想を言い合うというもの)をして、次のグループが始まった。
ここでも南は西の魔術師に敗北し、五位入賞すら目指せない状況となってしまった。
反省会もどきを終えた薫は一人になるとデバイスを起動させ、先程のメールを読み、返信をする。
待つこと三十秒。
デバイスが震え、了解の二文字が浮かんだ。
薫はそれを確認すると、デバイスを胸ポケットに仕舞い、会場へと戻った。
その後も試合は順調に進み、日が沈むころには三学年全員の試合が終わった。
結果は以下の通り
一年:北5p 西7p 東3p 南0p
二年:北0p 西7p 東1p 南7p
三年:北0p 西2p 東0p 南13p
小計:北5p 西16p 東4p 南20p
結果的に南が優勢で、Ⅾランク個人戦は幕を閉じたのだった。
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