十一章3
フロンティア一日目、午前の部が終了し昼休みに突入した。
休憩時間は一時間だ。もたもたしているとすぐに午後の部が始まってしまう。
Ⅾランクの生徒たちは揃って露店に足を向けている。
彼等は今後満喫できるであろうに、揃って外へ向かう姿は年相応の生徒であった。
規則委員会の面々は一度規則委員会室(生徒会室と同じ階にある)に集まり、今後の確認を行っていた。
これには審判をしていた薫も参加し、進行を務めている。
審判をしている傍ら、送られてくる情報は常に確認しているため引き継ぎなどの必要はなく、スムーズに話を進められた。
「今後も異常あるまではシフト通り動いてください。もしグループで対処できないようであれば影里さん経由で生徒会に連絡をお願いします。こちらで対処しますので」
薫の指示に皆が頷く。
まあ、そのような状況は滅多には起きないだろう。仮にもランクB以上で構成されている部隊だ。学校行事であるがゆえ、それぞれの判断で対処できるものがほとんどである。
しかし、お祭りだからこそ漬け込んでくる輩が居るかもしれない。
そう言った事態に対処するためにこちらも準備している。
「初日から問題だらけでは運営側として居た堪れないからね。今後とも皆の活躍を期待している」
と、会長が横から檄を飛ばす。
「せっかくの休みですからこれ以上伸ばすのはやめましょう。以上で提示報告を終了します。解散」
昼休みが始まってから十分程度。いくらシフト外は自由とは言え、規則委員は他の生徒と比べ格段に自由時間は少ない。つまらないことで彼らの楽しみを奪うのは心苦しい。
薫の号令とともに委員会室から人が出て行く。
そして部屋には生徒会メンバーが残る形となった。
薫も頭の片隅では人生初の試験でありかつ祭りであるフロンティアの雰囲気を楽しみたい気持ちがある。しかし、自分の立場からすれば不可能だ。自分は運営する側であり、いかに楽しんでもらうかが最優先となる。勿論それをしつつ自らも楽しむことが理想であるが。
それをするだけの時間は薫には無かった。
一度溜息を吐き、ネガティブな感情を吐き出して脳内をリラックスさせる。
落ち着いて考えられる余裕を作り、生徒会会議をのため、口を開く。
「とりあえず、午前は終わりました。念のため確認ですが、異常は?」
「そうね、さっきの報告以上のものは無いわ。迷子二件、屋台同士の喧嘩、他校同士の些細なトラブル数件、想定していたトイレの混雑。こんなところね」
影里が薫の問いに答える。
「どれも事前に想定していたものばかりだな。つまらん」
鼻を鳴らして金西が言う。
「想定内のことであればマニュアル通りに対処すれば問題ない。それよりも我々は前回のような事態がいつ起こってもいいように準備することが大切だ」
会長が何も起こらないと呻く金西を諭す。
「そうそう、平和が一番よ」
「……いい加減、離してもらえませんか? 暑いです」
最近薫成分が足りていないというよく分からない理論を叩きつけられ、集会始まって早々薫の腕を抱える形でくっついてきた桜花。夏服ということもあり、二の腕に伝わる感触がセミダイレクトで大変素晴らしい。
気になっているのは彼女を後ろ抱きする長瀬の存在だ。
順序立てて説明すると、元々長瀬と桜花は日中一緒に行動しており、規則委員室に到着してからずっと抱えられていたそうな。
その後も人が集まるが放してもらえず、遅れて薫が到着するや桜花が薫にくっつき今に至るという何とも言い難い構図でやり取りをしていた。
生徒会メンバーは勿論、規則委員会のメンバーも日常として刷り込まれている光景であり、突っ込むと後が怖いことは皆重々承知しているため、誰も口どころか表情すら変化させなかったのは流石と言ったところ。
生徒会だけになってから長瀬は桜花を小動物よろしくもふもふを再開し、堪能している。
「嫌よ。ずっと触っていても飽きない桜花ちゃんが悪い!」
「わけわからないので放して下さい」
「そうよね! 薫君!」
「いや、こちらに振らないで下さい」
確かに抱き心地は最高なので否定しないが、それを言えば横の彼氏が追撃してくることは明らかであり、口に出すのは得策でない。
「むう、珍しく追撃出来ないじゃないか」
スタンバッていた会長が頬を膨れさせていたが、貴方がやっても変顔にしかならないのでやめてください。
「ほら皆さん、遊んでないで続きしますよ」
影里が一言で現実に戻す。
「ふむ、すまない。脱線した」
「いいえ、いつものことですから。八城君が地雷踏まなかった分、いつもより短くてなによりです」
「さり気にディスられました……」
ややへこむ薫を放置して会議の続きを始めるメンバー。
「とりあえず、午後も役割変わらず。薫君はメインコートで審判。影里君は生徒会室で情報処理と放送担当。この後、放送室に行って予定を合わせてくれ。金西君、真里亜、桜花君は遊撃兼見回り。僕はお偉いさんの接待と。その他各自判断で行動。ほかに確認は?」
全員を見回し、意見が無いことを確認し会長は頷く。
「では、こちらも解散にしましょう。僕も審判の方で軽く集まりがあるので」
薫が提案し、短い会議は終了。
各自持ち場に戻るため行動を開始した。
午後の部が始まり、メインフィールドに活気が戻る。
薫も審判のため、フィールド外側に立ち、選手たちを見守っていた。
今回の試合もクラスメートの出場ということもあり、内心勝ち進んで欲しいと願っているが、見る限り劣勢。
相手が魔術科ということもあり、近接戦闘を得意とするクラスメートが射程圏内に踏み込めない状況だ。
同じランクだと長距離戦法を得意とする方が有利な傾向にあった。
なぜなら距離差を埋められる技術を持ち合わせていないのである。
剣術を扱うとは言え生身の戦闘に魔術を加えるのが基本戦術。しかし一年、しかも三か月にして加速術をうまく扱うには至らない生徒が大半であるのが理由の一つ。
更にカリキュラム上、高等部から魔術を扱うためそれを意識した身体作りを行う生徒は半分といったところで、それを行った生徒は必然的にランクが上。すなわち現段階でランクがⅮということは肉体強化を碌にしていない生徒がほとんどという解釈になる。
そのため、長距離魔術を躱すのが精一杯でタイムアップによる判定負け、もしくは体力切れによる直撃が多発してしまうのだ。
クラスメートの彼は訓練を積んでいるため体力はあるものの、魔術に秀でてなかった。
薫は親近感が沸き、何度か彼と訓練することもあった。
だからこそ今の心境が痛いほど分かる。
不運にも相手がⅮの中でも上位者の魔術師であり、頭が切れる。
使うのは基本的な火の下位魔術ではあるが、着弾と同時に薄い壁になるというもの。
これを目の前に撃たれると左右どちらか出て前に行くしかない。防御魔術と加速魔術を交互に行うことで始めは対処していたが、二分を過ぎたあたりで、集中と防御が疎かになり、防御に専念する形となってしまった。
スピーカーが終了時刻を鳴らす
互いに意識があるため、判定待ちだが、勝敗は明らか。
『勝者、魔術科保科』
二人は礼をし、会場から去る。
帰り際、薫にすまないと一言。
「仕方ない。相手が悪かった」
慰めにはならないが一応、言っておく。本人も敗因を理解しているだろうし、乗り越えればⅮの壁を越えられることだろう。
二、三言話して、彼は会場を去った。
次もまた次もスケジュールは順調に消化されていった。
気づけば一日目の最終戦に突入していた。
観客席を見ると人が増えているのが分かる。
中盤から次の相手の様子を見ようとする生徒が増えた結果である。
期末試験であるから真面目に戦術を考える生徒がほとんどという結果だろう。
『本日最終グループ、始め!』
インカムを介して審判長の号令とともに最終戦が開始。
あっという間に五分が経過し、本日のプログラムが終了する。
生徒たちが退散したあと、薫は他の審判とともに控室に帰る。
無事に一日目を終え安堵の息を吐く。
これから審判同士で軽い反省会を行い、それから生徒会室で明日以降の打ちあわせと隙の無い。
影里からの報告を確認する限り、目立った以上は無いとのこと。
また別件からも異常なしと端末に連絡が入っていた。
今は反省会に集中しようと決め、彼等の話し合いに耳を傾けるのだった。
お読みくださりありがとうございます。
不定期ですが更新してまいりますのでご注意を。初回からお付き合いくださっている方、今後ともよろしくお願いします。
数話前から読み返して、閑話による説明と合っていないことが判明したため、閑話の方を修正しました(一行付け加えただけですが)。
ここから読まれた方へ:一部二部の内容は三部に比べ説明が薄いのでご注意を()




