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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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閑話 フロンティアに向けて2

閑話の続きです。フロンティアで変更された競技の説明と新キャラの顔出しです。

  定例会と称されるフロンティアに向けた合同会議は、毎回西星学院で行われている。

 多くの人間が会議に参加するため、収容できる会議室を所持している学院がここだけだったという理由。もう一つは出席する重鎮たちが西に集中しているということ。本音はこっちだろうと薫は見ている。これは業務の片手間に生徒会に全員に尋ね、単純に遠出することが億劫なだけなのだろう、と満場一致の見解を出している。

  足を運んでみれば集まったのはたったの二十人弱。どこでも開催できる人数であった。

  だからと言って自分の学院を会議に使えと抗議する時間も惜しいので、文句を言う気にすらならない。

 薫たちは西星学院到着すると、入り口で待機していた門番の魔術師に通行証を見せる。

  彼は適当に手を振り、通行を促してきた。

  軽く頷き、三人は門をくぐると、まっすぐに会議室を目指す。

  三人は制服から通行証を取り出し、首に下げ、下駄箱で靴を履き替える。

  薫は舞姫のケースを広げ、自分の靴を袋に入れる。


「お二人とも、靴を」


  そう言って薫は二人の靴もまとめて袋に入れ、代わりにスリッパを御川等に手渡した。

  幸い、会議室は一階にあり、すぐに到着する。

  腕時計に視線を向けると、会議開始時刻まで五分を切っていた。


「急ぎましょう」


「うむ」「ええ」


 二人から返事か返ってきて、早足で会議室に向かう。

  御川が会議室の扉を叩き、返事がしたと同時に開け、中に。そのあとに副会長が続き、薫は扉を閉めつつ入室する。

  ふり向くと、案の定、室内の視線がこちらに集中していた。僕らが最後なのだから当然ではある。


「遅くの到着、失礼いたしました」


  と、会長はその場で謝罪する。


「よい。春日より報告は聞いている。気にせず、会議に臨んでほしい」


  向かいに座っていた男が返答する。

  彼は魔術省の総括補佐を務める霧林崇善(きりばやしそうぜん)。魔術省特有のローブ調の制服をこれまでかと着こなしていた。ゆったりとした作りではあるが、外から見ても分かるほど鍛え抜かれた身体は何とも勇ましい。これでいて五十代後半というのだから、一部の層に人気がありそうだ。

  厳つい面構えをしているが、話してみると見た目とは異なり穏和な性格の様で、人当たりも良い。見た目で損をするタイプである。

  横に座るのは魔警副部長、春日紀之(かすがのりゆき)。年齢は四十二と、上役職に着く人間としては若い。こちらは霧林と対照的で細身。魔警として現場に出るには不向きと言える体型をしていた。

  しかし、彼は日本有数の腕利き魔術師である。長瀬が密かに目標と定めている人物であり、薫、桜花ともに総一郎から紹介してもらい、すでに面識がある。

  聞けば、魔術の連続発動に初めて成功した人物のようで、薫の両親とも面識のあるというが知り合い程度と聞かされた。

  その横に座る人は毎回変わるので素性を明かすことは無いが、春日の部下であり、書記役なのだとか。

  許しを得て一礼をすると、事前に決めてあった席へ移動する。

 上級生二人が席に着き、薫は後ろで待機する。

 ロの字に長机が配置され、入り口の対面が魔術省のフロンティア担当と補佐。それと魔警の代表、その三人が座る。

  彼等から見て右側に東と南が、左手に西と北が座る。各々、生徒会の会長と副会長が座り、その他の職は後ろで立つことになっている。

 出口側には総一郎やその他関係者が座ることになっているが、今日は不在のようだ。よって、今日の会議は重鎮三人と会長職八名、その他の役職五名(東が二人)の十六名で執り行われるようだ。

 予定時刻となり、重鎮三人が頷くと、魔術省の代表担当霧林が口を開く。


「これより、第四回フロンティア振興委員会定例会議を行う。とはいえ、前回とさほど間は開いていないため、内容は浅いだろう。少しでも構わない。何か見つけて、聞かせてほしい。と言うわけで進捗を各校の代表より話してもらおう。 ……そうだな、まずは今年の会場校である南からお願いしよう」

  そう言って、霧林は薫たちの方に視線を向ける。


「分かりました」


 一呼吸開けて、御川は手元の資料に視線を落とすがすぐに顔を上げて話し出す。


「今回の件で新設している会場は約八割完成しているそうですが、何分急ピッチで進行しているため、完成はギリギリとなってしまうとのことです。耐久テストも多くは行えないでしょうからその点は不安が残りますが、生徒会と有志で人を集め、テストの方はカバーできます。ただし、これは会場の建設に生徒が関わることをこの場で了承していただく必要があります」


 生徒が建設に関わると、細工の可能性が出てくるため、一応承諾を得ておこうという話だ。しかし、これに関わると自身の練習時間を削ることとなるため、正直参加する側にメリットはない。構造も平面フィールドであって何か変化するわけでもないため情報アドバンテージも皆無。


「うむ。皆から異論がないのであれば、それで構わぬが、どうだろうか?」


 そう言いて参加者を一瞥する。特に異論は上がらなかった。

 それもそのはず。ここで否定する意味がないのだ。もし問題が発生したとしても業者か南の生徒が言及されるだけであり、他の学院に被害は出ない。むしろ問題が発生してくれた方が、各校にとって好都合である。


「問題無いようだ。その件は君に一任する。好きにしたまえ」


「承りました。こちらからはこれ以上報告することがありません」


「うむ」


「では、次に我々東が報告いたします」


 隣に座る東の生徒会長が挙手をする。東星三年の諸星充(もろぼしみつる)。技術開発をメインとする東だが彼は魔術師としても才があり、去年のフロンティアでも二年部個人三位の実力を持つ。

 彼は自分で開発した斧型魔法具を用いて戦う技術師の戦闘スタイルではあるが、魔法具に頼らない戦術を得意とし、認識を逆手にとって不意を突いたとコメントしていたが、誰もが認めるほど優秀な人間である。

 霧林は頷いて先を促す。


「誠に残念なことですが、本校から規定時間外練習者が二名、発覚いたしましたことを報告いたします」


 会場がざわつきだす。


「静かに」


 一言、霧林が発すると、場は次第に落ち着きを取り戻していく。

 彼の声音に変化はないが、確かに威厳が感じ取られ、場は静寂に包まれた。


「それは生徒会の監督不届きということでよろしいか?」


「ええ、力及ばず申し訳なく思っております」


 と、諸星は深々と頭を下げて謝罪した。

 薫は彼の後ろに立つ生徒に視線を向ける。

 彼は視線を落とし、手を固く握っていた。どうやら彼が薫と同じく監視の任務についていた生徒のようで自分を悔いているのだろう。

 実際に、どれほど注意をしたところで隠れて訓練をする生徒が出るのはこの場の誰もが予想している。ただ、見つかっていないだけで他の三校も同じような生徒はいることだろう。

 薫自身も完璧な人間ではない。もしかしたら気づかないだけで、密かに訓練している生徒を見逃しているかもしれない。が、発覚してしまえば報告せざるを得ない。

 今回はたまたま彼らが当たってしまったに過ぎない。重く受け止めてしまうかやや心配なところではあるが、自分で解決するほかない。


「それ以外に東から報告することはございません」


「西は特に報告することはありません」


 諸星の語尾にかぶせるように西の生徒会長、榊雅人(さかきまさと)が言う。彼は前回二年部個人で優勝している。火、雷属性の魔術を得意とし、魔術で疑似剣を形成して戦う。常日頃から強者との戦闘を望み、戦闘中に高笑いすることからついたあだ名が西の狂戦士(バーサーカー)


「なにもないのかね?」


 訝し気に尋ねる霧林に、ニヤリと嫌な笑みを浮かべつつ頷く。


「ええ、なにも」


 そういうと、視線を薫に向けてきた。榊は初日に薫と決闘しろと詰め寄ってきた。私闘をする気はない薫は断ったが、そのあとも定例会に顔を出すたびに声掛けはしないもののこういった熱い視線を向けてくる。正直鬱陶しいのでやめてほしい。


「そうか。では最後に北はどうかね?」


 これ以上言及することを諦めたのか、霧林は榊から視線を外すと横の北エリアに向けた。

 北の生徒は制服の上から白衣を纏っており、学者然とした格好をしている。なぜ同じ技術研究専門である東は白衣を着ていないかと言えば、「常時白衣を着ている必要はない。実験など、必要な時にのみ、制服を汚さないために着る」とのこと。実に納得できる返答を東星生徒会長から初回にいただいている。北が白衣を常時着ているのは目の前にいる生徒会長が定めたものであり、昔からの伝統と言うわけでもないとも教えてくれた。

 五秒、十秒、二十秒、三十秒。

 誰もが北の生徒会長に不機嫌な視線を向けるが、彼は一向に口を開こうとしない。

 そして、不穏な空気に耐え切れなくなったのだろう、横の副会長が話し出す。


「はあ…… 毎度のことで申し訳ありませんが、北から報告申し上げます」


 と、謝罪で一呼吸置き、副会長が報告を始める。


「フロンティアが近づいてきたことで生徒たちのモチベーション上がっており、授業に参加しないものが出始めていますが、生徒会のほかに臨時で取り締まるチームを編成し、強制出席をせざるを得ない状況になっています。こちらで対処が可能ですのでご心配なく」


 淡々と近況を述べる副会長だった。 

 これまでの会議でも北は会長が発言したことは無い。最初は咎められたものの終始口を開かなかった。いつも報告するのは副会長の巻中左京(まきなかさきょう)であった。

 初回会議後に御川から話を聞くかぎり北の生徒会長、巻中右京(まきなかうきょう)は開発関係以外全く興味がないという。会長職はあくまで自分が研究するうえで道具の使用許可を取るのが面倒だからと自分勝手な理由でなったそうだ。勿論、生徒会としての業務は一切行っていない。前々から学院側が会長になるよう左京に求めていたが何度断られていたことを知った右京は学院に左京を生徒会に引きずり込むことを条件に生徒会長の立場を獲得したと聞かされたときは彼の常識を疑った。しかし、左京は毎日のように兄と学院に文句と罵声を浴びせつつも、業務を引き受けているらしい。恐らく以前からそのような関係なのだろう。左京の苦労が目に浮かぶ。一応学院側も薫のように良待遇で迎えたようだが、やはりなりたくもなかった業務を押し付けられれば愚痴などいくらでも出てくるだろう。

 御川とは中等部のころから知り合いらしく、彼女の愚痴をよく聞いているそうだ。

 『おかげで彼女の兄についてはよく分かるようになった』と腹黒い笑みを浮かべて言ってきた。他人からすれば鬱陶しく感じられるものでも、彼にとっては有益な情報源なのだと薫は思った。

 授業への不参加防止活動が始まったこと以外は特に変わりないとのことで、報告は以上となった。


「では、次に移る。今回から変更……というより追加だな。新たに競技が追加されたわけだが、諸君らにも報告は行っているな?」


 霧林は各生徒会をぐるりと見回し、頷きがあることを確認すると、続ける。


「内容は報告書に書いてあった通り()()()だ。上は何を考えているのか正直分からんが、決まった以上変更は出来まい。よって今年は個人戦、団体戦、騎馬戦の三種目で進行する」


「一応、騎馬戦は団体種目扱いで、従来の団体戦と騎馬戦は別競技となる。そのため両方とも同じチームで参加することは出来ない。どちらに比重を置くかは諸君らの自由だが、順位ポイントはどちらも同じ配分のため、偏らせると総合優勝を落としかねないというデメリットがあることは言わずとも理解していることだろう。しかし、くどいようだが慎重に出場選手を選ぶよう努力してほしい」


 春日が念を押すように付け加える。新たな試みのため、万が一人選ミスで順位が変動するような事態にさせたくないのだろう。

 団体競技の選手選抜は学院側が公開する能力値を元に生徒会が全校生徒から指名することになっている。これは四校共通の規則だ。しかし、これには明確な欠点がある。

 二、三年生は去年からのデータを参考にある程度実力を把握できているため、順位に然程差は出ない。その反面、新入生はどうか。一年生は中等部の内申、入試試験結果、入学後の学院内での噂が判断基準となるケースがほとんどで生徒会や委員会で名の上がる者が上位に組み込まれがちとなってしまう。そのため、引っ込み思案で余り目立つことのない生徒の中に特筆した能力や技術を持つものがいる場合が想定される。そして、入学してから三か月の間に急成長した人物も怪しい。一応担任から生徒の成長具合は学院に報告が行くだろう。しかし、教師もまた人間であり、伝達ミスや見落としは生じる。だから新入生に限って言えば、学院から出されるデータは役に立たないのである。これは毎年のことで生徒会に携わるものは全員理解しておかなくてはならない案件である。

 だからこそ生徒会は学内の変化に敏感となりがちになるのも頷ける。薫たちの生徒会には変化に敏感な長瀬がいる。彼女が得てくる情報ほど、正確なものはない。いつの間にか捕まえてきて委員会に突っ込んだりしているので、気づけば薫の知らない部下? が増えていたりする。戦力増加、データ更新には心配ない反面、前もって言ってほしいところではある。

 しかし、騎馬戦とはまた古風なものを選ぶ。魔術が浸透してきてからというものの、体育祭や文化祭などの学業行事にも魔術を絡ませるのが定番となり、このような本来行ってきたプログラムはほとんど見かけなくなってきている。薫たちは幼い頃に両親から存在を聞かされており、彼等の記録映像を見ていたので、競技自体は理解できているが、恐らく学院の半数は騎馬戦そのものを知らないのではないかと危惧していた。そのため学院側は対応策として親に騎馬戦について生徒に語るよう伝達している。

 騎馬戦は魔術戦と通ずるものがあり、戦術を考えさせる面でいえば変わらない。あえて団体戦を分けることで一辺倒な軍師を作るのを避けるため、複数人使える人材を育成させるのが目的ではないかと総一郎は言っていた。

 そう言われると納得できるし、落としどころとして妥当なのだろう。


「ついでにフロンティアのポイントについて、再度確認しておく。個人戦に置いてはA~Dのランクに分類され、同ランクごと、学年別で全校シャッフルでトーナメントが組まれる。各ランクの上位五名にポイントを与える。優勝者に五点。以下一点ずつ減らして与えられる。次に団体戦だが、先程春日が言ったとおり、二種目とも与えられるポイントは変わらない。優勝チームが八点、二位は四点、以下二校は二点ずつとなる。仮にすべての競技で同一校が上位入賞した場合、得点は九十二点となる。流石にそれはないと信じたいものだ。それに別枠の整備科、応援科の点を加える形で合計を出して優勝を決める。以上で本日の会議は終了とする」


 霧林の号令とともに、今日の会議は締めくくられた。

 手元の資料を御川たちが片付けたのを確認し、薫は舞姫をしまっているケースを拾い肩に掛けると会議室から出る。

 薫はポケットからデバイスを取り出して、電話をかける。

 玄関先で靴を履き替えると同時に通話を終え、デバイスをしまう。


「お疲れさま。では、帰るとしようか。僕はともかく、二人は早く風呂に入りたいだろう?」


「ええ。こんな打ちあわせ蹴ってシャワー浴びたかったわよ」


 と、不貞腐れた顔で長瀬が言うなり、携帯を仕舞った薫にしな垂れかかってくる。


「はいはい、早くここを出ましょう、副会長。M・Lでお風呂貸してもらえるように頼みましたのでくっつくの止めて下さい」


「やったあ‼ 薫君大好き!」


「ちょっと副会長⁉ 汗臭いですから離れてください!」


「私そんなに臭わないわよ!」


「僕がです!」


 くっつきからハグにシフトし、密着度が増した。それによって柔らかい感触が制服越しに伝わってくる。桜花とはまた違った感触に戸惑い、なんとか無心になろうと試みる。仮にも彼氏が目の前にいるのに気にせずスキンシップをしてくるのはどうかと思う。

 御川の反応はどうかと横目に窺うと、変わらずの微笑を浮かべていた。この人はまた僕の反応で楽しんでいるのだろう。やっぱり変わっているがお似合いのカップルだと薫は感じるのだった。


「さて、真里亜。そろそろM・Lに向かうとしようじゃないか。せっかくの厚意に職員を待たせるわけにもいくまい」


「ええ、そうね」


 御川の言葉に頷き、薫を開放すると、そそくさと校門へと向かう。


「ほんと、自分中心な人ですよね」


「ああ……だが、見ていて飽きないだろう?」


 長瀬の背を追いつつ満面の笑みを浮かべていた会長を見て、薫は愚痴を飲み込む。


「ええ、本当に」


「ほら早く来なさいよ」


 先に校門を抜けた長瀬に手招きされ、二人は駆け足で横に並ぶと、長瀬は満足気に頷いて歩を進める。

 その後、風呂で一悶着あったことは言うまでもない。

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