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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十章6

 南星学院の波乱な一日が終わろうとしている頃。

 南星市全体が黒く染まり始め、僅かばかりの外灯が通路を照らし始めた。

 しかし光の届かない林は暗闇そのもので生徒に不気味がられることで有名だった。

 その暗がりを易々と移動する者がいた。

 ここ一週間、学院に侵入している一人だ。隠密行動には不向きな大柄な体型であるにもかかわらず、俊敏な動きで木々を飛び交う。枝は風に揺られる程度に撓ったが誰かが気にするほどでは無いし、魔術によって気配と音を消しているため気づかれることはまずない。

 林を進んでいくと前方から光が差してきた。突然の光に男は目を細める。すると横から知った声が飛んで来た。


「少し遅いぞ」 


 声の発生源を見やるとそこには自分と同じく隠密行動をとることになった女子の姿があった。

 二人の姿は隠密用の黒服などではなく、学生の象徴たる制服だった。さすがに口元には黒いスカーフを巻いて顔を判別できないようにしてはいるものの、どこの所属であるかは丸分かりだ。


「……すまない。こちら側には慣れてなくてな」


 学院内はただでさえ広い面積を誇っている。その面積を三人で割ったとして一人あたりの担当面積はかなりの量になる。よって基本的には決めた領域しか行き来しないため、他の担当場所は大まかにしか分からない。


「まあいい。それよりも、生徒会が機密会議を行うというのは本当なんだろうな?」


「ああ。校内に潜入している奴からの情報だ。仮に嘘であっても無視は出来ん」


 今日で監視任務が終了しこれから学院を離れようというときにこれだ。重大な検討を要する場合は通信機を使わずに事前に決めていた場所へ直接集まるようになっていた。彼女がこのメンバーの代表で、先程もう一人と対談し、とりあえず聞くだけ聞いてみるという結論に至っていた。


「しかし、校内の会話を聞き取ることは難しい。それこそ校内組の出番ではないか」


「学院内で生徒が魔術を使用するは出来ない。生徒会室と校内に繋がる扉は魔術結界によって盗聴不可。しかし外からであれば可能とのこと」


 そう言って男は林の隙間ぎりぎりに見える生徒会室を指す。

 生徒会室付近に生えている木の枝が辛うじて校舎に伸びていた。そこから盗聴を図ろうということだろう。


「成程ね。しかし、その会議の内容は我らにとって重要であるのか?」


「校内組の報告だと会議内容は明後日の打ち合わせ。その中には警備の順番や配置の検討も含まれているようだ」


「そう」


 彼女は深く頷くと視線を生徒会室へと向けた。


『空間よ、縮め』


 彼女の右眼前に魔法陣が展開。視界が拡大され、この距離でも壁に付いた細かな傷すら見えた。魔法陣を横にずらし、生徒会室へ。

 明かりが窓から漏れているが、そこに人の影は無い。

 まだ会議の時間でないので部屋に誰も居ないことは肯ける。しかし、今日は会計監査が残って仕事をしているはずだ。


「どこかに出てしまったのかしら?」


 まあ、生徒会室を離れる理由は複数上がるものの、そこはどうでもいい。


「このまま様子を見ましょうか」


「分かっ――⁉」


 男子生徒は返事を返す途中で何かに気付き、戦闘態勢をとった。


「どうした‼」


 彼の視線を追うと、そこには――


「やれやれ、まさか本当に侵入者がいたとはね……この学院の監視システムを今一度見直す必要が出てしまった。ひとまず、礼を言うべきなのかな?」


 おどけた口調で、何者かが近づいてくる。

 軽い口調とは裏腹に彼からは強大な力が発せられているのをひしひしと感じた。


「御川……忍」


 二人の足元にはこれから生徒会室に現れるはずの一人の姿だった。


「さすが、諜報部隊。僕の名を……割と有名なのかな?」


「去年のフロンティアを見ていたものは覚えているだろうよ」


 男子生徒が答える。


「ふうむ。本来であればここから君のが見えるはずなのだがね。夜であることが実に惜しい」


 はっと思わずスカートの裾を抑えた。


「こ、この変態!」


 忍に叫ぶと、勢い任せに魔術を発動する。しかし、魔法陣は展開する途中で砕け散った。


「え――⁉」


 驚いて枝から落ちそうになるも隣が支えてくれた。しかし二人は突如浮遊感に襲われ、落下した。男子生徒も突然のことでバランスを崩し、二人そろって尻餅をついた。

 一瞬の出来事に反応が遅れてしまった。二人は今、何が起こったのか理解できなかった。


「会長、うちの印象が悪くなるのでやめてください」


 頭を上げるといつの間にか双剣獣士の姿があった。彼の両手には愛刀が握られており、刃先は二人の首元に向けられていた。魔術の無力化と同時に枝を切られたのだ。

 薫の存在は他院で有名だった。魔力を持たない魔術師ということで東、北には特に研究材料として欲しいとさえ言われる程度には。


「おや薫君? 速い到着だね」


「思ったより潜入していたグループが弱かったので、こちらに来た次第です。それに……副会長が、私が拘束するんだって聞かなかったので任せました」


「やれやれ」


 身内の行動に呆れて肩を竦めた。


「それと、外にいたもう一人も桜花が確保したようです」


「というわけで、残っているのはそこのお二人さんだけのようだよ」


「っ!」


 ここでようやく自分たちは罠に嵌められたのだと気づく。


「それにしても……西が来ているとばかり思っていたのだが、どういう風の吹き回しかな? 北の調査隊さん?」


 今回の侵入者が北星学院の生徒であることに生徒会メンバーは心底驚いていた。

 言い方は褒められたものではないが、この手のものをやりそうなのは西星学院である。あそこは南星と張り合うことばかりで、そのためならどんなことでもしそうなイメージがある。


「まあ、動機はあとでいくらでも訊けるからね。素直に拘束されてくれれば変なことはしない」


 忍一人であれば逃げおおせる自信は二人ともあった。しかし、魔術を無効化する薫が登場してくると話は別。

 魔術を使えないということは逃げる手段がないということに等しい。

 二人はなすすべなく、薫たちに捕まったのだった。

これで十章は終了となります。

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