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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十章4

 薫たち生徒会メンバーと規則委員会はフロンティア開催に向けて大仕事をこなしていた。

 なにしろ自分たちの学院が会場なのだ。当然、生徒会は設備やらなんやらの作業に駆り出されることになる。

 それ自体は覚悟していたのだが、


「……この仕事量は予想していなかった」


 学院長が送ってきたデータを見て、忍はため息を吐いた。

 ただでさえ会場の暑さにげんなりしているところ、見事追い打ちをかけられた。


「まったく、学院長にも困ったものだ。会場設営から始め、広報、設備の調整、生徒たちによる予行訓練を兼ねての場ならし、前々から予算関連は生徒会(主に二人)が担当し、他にも当日の誘導やらなんやら――」


「ほーら、ぼさくさ言ってないで忍も働く! ただでさえ時間ないんだから」


 横で機械をいじくっていた幼馴染に横やりを入れられる。


「分かっているとも。自分だけ楽をしようとなど、微塵も考えてないさ」


「それこそ分かっているわよ。だけど今は口じゃなくて手を動かしなさい」


 この一週間、ずっと働きっぱなしの幼馴染を側で見てきたのだ。こうは言いつつも、少しは休んでほし

いのが本音ではあった。


「しかし……暑いわね」


 真里亜は制服の胸元を引っ張り、自身を扇いだ。そのたびに健康的な素肌が見えてしまう。他の男子も隙を見ては彼女のもとに視線をそらしていて作業効率的によろしくない。


「もう少し、場所を考えろ」


「なーに照れてんのよ」


「そんなはずあるか」


 成るべく真里亜を見ないよう作業を進める。きっとあいつはニヤついているに違いない。

 上を向くと、そこには天井は存在せず、燦々と太陽がフロア全体を照らしていた。天井は開閉式で、本来は閉じられるそうなのだが、空調設備が完備していない関係もあり仕方なく開けている状態だった。現在急ピッチで取り掛かっているそうだが、今日中にできたとしても夜になってからとのこと。今日一日は我慢するほかない。

 会場となるアリーナは南星学院での開催が決まった前年から設営が始まっていたが、フロンティア開催までに完成するのかという問題が懸念されていた。


「ここ建設していた人たち、かなりやつれていたわよ。さっき責任者と話してきたけれど、ろくな会話にならなかったわ」


「それ程追い込んでしまったのか……」


 大方、学院長に急かされて、急造せざるを得なかったのだろう。

 忍は作業員に黙禱を捧げた。


「会長! これから機材搬入作業と地面ならしを行いますので、副会長にフィールドに出るよう伝えてください」


 耳に装着されたインカムから薫の声が聞こえた。


「了解だ」


 今回の準備の指揮者は薫だった。

 生徒会だけでなく規則委員会をも動かす関係で、委員長の薫が全体の指揮を執ることになってしまった。生徒会役員は規則委員も兼ねているため、形式上そういう立ち位置となるのは必然だった。


「正直、一年生に指揮を執らせるのは避けたかったのだがね」


「はい、終わり」


 配線作業を終えると真里亜は蓋を閉めて立ち上がった。

 当然だが、薫たち一年はフロンティアがなんであるかは知っていても体験したことのないものだ。概要は知っているが内容を知らないといった具合。それにも関わらず見事に薫は生徒たちをまとめ、動かしていた。


「この手のものは彼にとって適任よね」


「まあ、元より人を動かす能力に長けているのだろうな。それと、洞察力に関しては私も完敗だ」


 忍は惜しみなく薫を賞賛した。


「っと、真里亜。フィールで暴れていいそうだぞ」


「ほんとっ?」


 意気揚々な笑顔を浮かべる真里亜。


「ああ――会場を壊さない程度ならな。やりすぎて建設業者の怒りを買うのは御免だ」


「了解!」


 真里亜は元気よく観客席から飛び降りた。


「さて、私も仕事に戻るとしよう」


 今日以降のスケジュールを再度思い浮かべ、顔色が暗くなった。正直なことを言えば前日くらいはみんなに休息と調整の時間を多めに取ってほしいと思っている。しかし、今日の進行具合によってはそれもかなわないかもしれない。

 次の仕事に取り組むべく、観客席入口からの通路へ向かう。

 真里亜との音響配線点検後は一度スタッフに確認をとり、調子が良ければ管制室で異常がないかの確認。管制室には防御結界を張るために規則委員が数名いたはずだ。

 インカムの数が限られているため、スケジュールがあっても会場で作業している全員の行動を把握するのは難しいし、きちんと進行できているかも分からない。

 なので、唯一インカムを持つ生徒会が動き回り、監督や指示だしを行っているのだ。


「あら会長」


 数歩先から呼ばれて忍は歩みを止めた。


「ん? ああ、姫野か」


 そこには薫たちのクラスメート、姫野涼葉ひめのすずはの姿があった。


「お久しぶりです」


「言うほど長くもないが、先週以来か。私に何か用か?」


 今日はこの一帯は一般生徒立ち入り禁止のはずだが……

 姫野とはクラス委員長の集まりで何度か話した程度だが、会長である忍は面識のあった生徒は覚えるようにしていた。

 彼女は自分と出くわしたことがまずかったのか少しばかり考えるそぶりを見せたが、元の表情へと変えていた。

 そして申し訳なさそうに口を開く。


「会長に頼み事なんて、仰々しいとは思うのですが……八城君に伝えてほしいのです。怪しい人たちが出入りしているって」


「なんだと?」


 先日、薫に相談を受けていたことを思い出す。誰かの視線を感じたと。

 しかし、委員会ではなく一般生徒に相談しているとは思わなかった。

 薫が相談したということは彼との間にある程度の信頼関係が築かれているのだろう。それに彼女はクラス委員という立場の人間だ。いざという時には御川とのパイプもある。さらに彼女の能力は隠密行動を主としている。成程、これほど適任な人間そうはいない……か。


「それは何時の話だ?」


「つい先ほど。校舎外の森で魔力反応がして、気になったの。先に断っておきますが緊急時のため魔術を使用しました」


「構わん」


 続けろと視線で促す。


「……隠形の術で近寄ると、成人男性が二人ほど木上に立って校舎を見ていました」


 薫の懸念が証明された。


「その後、彼らは私に気付いたのか逃走しました。その時別の方角からも魔力を感じたので三人かと」


「結界はどうなっている? 常時この学院は結界によって部外者は立ち入ることが出来ないはずなのだが……」


「それは分かりません」


 会長であるはずの自分ですら分からないのに姫野に分かるはずもなかった。


「用はそれだけです」


「了解した。伝えておく」


 忍が承諾すると、姫野は礼をして立ち去った。

 なぜ姫野が周囲の監視をしているのかはこの際薫自身に訊けばいいだろう。


「一体どうなっている? 結界を誰も気づかずに破るなど可能なのか?」


 とにかく一度薫に会う必要が出てしまったため、管制室へ行くのを後回しにした。

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