二章1 幼馴染
僕らが駅から帰宅し、リビングに入ると月菜が夕食の支度を終え、テレビでニュースを見ていた。
「ただいま、月菜」
月菜の背に声をかける。すると、月菜はこちらに振り返ってにっこりと笑った。
「お帰り。お兄ちゃん……それとお姉ちゃんも。遅かったねー」
「……いろいろとあってね」
「まあ、うん。そんな気はしていたから、お疲れ様」
苦笑しながら僕が答えている横で、桜花は顔を真っ赤にしながら俯いていた。
「お姉ちゃん。お姉ちゃん……」
と、なにやら連呼していた。
『?』と、僕と月菜は首をかしげる。
久しく月菜とは会えていなかったため、お姉ちゃんという台詞を聞いたことに感無量のようだった。
「まあ、それはいいとして。桜花、部屋に荷物を置いてきてくれ。月菜、部屋まで連れてってあげて。その後夕食にしようか」
動かない女性陣に指示を出す。
「はーい。行こ、お姉ちゃん」
「う……うん」
月菜は桜花の手を引いて部屋から出て行った。
まだお姉ちゃんという呼び方に慣れないようだ。月菜は自然に使っているあたり、傍から見るととても面白かった。
薫はふぅとため息をつき、テレビ前のソファーに腰を下ろす。
すると、テレビから丁度気になるニュースが流れた。
『次のニュースです。今日午後四時ごろ、東星市沙浜町で火災が発生しました。近くに住んでいた人に聞いたところ、魔獣が暴走し、炎弾を吐いたことが原因だそうです。魔法警察の調べによりますと、全長四メートル前後の混合獣であることが分かりましたがその全貌は明らかになっておりません。・・・・・・速報です。先ほどの混合獣は国立南星学院高等部二年。村沢・鉄〔十七〕の契約魔獣であることが分りました。彼を見かけた方は魔法警察まで。次のニュースです』
ニュースキャスターが早口に速報を伝えていた。
そのニュースに薫は驚いた。
……おいおいうそでしょ! うちの高等部から犯罪者出ちゃってるよ! しかも混合獣。趣味悪!
そんなことを思いつつニュースを見ていると画面が切り替わる。
『さらに新しい情報が入って参りました。南星市北部で火災が発生しました。これも村沢の混合獣が原因だそうで、魔警は村沢の確保を急いでいます』
「……」
薫は数秒、硬直していた。
魔獣が家を破壊しているだって?
落ち着け。犯人が分かっている以上、すぐに捕まるだろう。
そう自分に聞かせ、薫は食事の支度を始めた。
一方、月菜は桜花を連れて二階へと上がっていた。二階には三部屋あり、そのうちで一番奥の部屋の前で月菜は止まった。
「はい。ここだよ、お姉ちゃん」
月菜は桜花に扉を開けて中に入るよう促した。
「……ありがと」
短めに答え、部屋の隅に桜花は荷物を置いた。
辺りを見回す。六畳半の和室である。入って右手側にガラス張りでスライド式の窓が二枚あり、その向かいには押入れがある。
「荷物は明日の午後くらいに届くって」
部屋を見回す桜花に月菜は微笑していた。
「わかった。……下に戻ろう」
「うん」
二人は一階へと駆け下りてから、回れ右をしてリビングへと入る。中では、薫がテーブルに食器を並べていた。
「お待たせ! お兄ちゃん」
「……お待たせ」
「うん。待たされた」
「「……」」
うっ、嫌な視線+沈黙。やっぱ失敗だったか? このネタ。
「……薫、そこはボケるところじゃないと思う」
桜花が遅れてつっこむ。横で、うんうんと頷いている妹。
「……ごめんなさい」
「わかればよろしい」
と胸を張る月菜。なんか、二人して冷たくないですか? 桜花が手で口を押さえて笑いをこらえていた。よかった。なじんでくれたみたいで。
「じゃあ、夕飯にしよっか」
月菜は一早く席に着く。僕らもそれに続いて席に着いた。
今日の夕食はかに玉と茶碗蒸し、餃子に酢豚と中華風だ。
「おいしそう」
ぽつりと桜花は感嘆を漏らす。
「そうだな。さて、いただくとしようか」
「なんかオジサンくさいよ、お兄ちゃん」
という妹のツッコミとともに全員手を合わせて『いただきます!』
二章スタートです。