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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第三幕
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十章2

 朝の会議は特に議題が上がらず、各自分担で作業を行っていた。

  特にフロンティア関連の書類が溜まっており、今日からはほとんどがその処理に追われることになるだろう。

 会場が自分の学院になるということは案外大変であることをしみじみ感じた。

 書類と睨めっこを繰り広げている最中、薫はふと先程のことを思い出し、会長に相談してみることにした。


「会長、少しお話が……」


 同じく書類の整理に勤しんでいる会長に声をかけ、今朝のことを報告すると怪訝な目を向けてきた。


「何者かに見られている?」


 彼の訝かし気な表情には納得できる。なぜならこの学院には強力な結界が張られており、外部の人間が出入りすることが出来ないシステムとなっている。補足だが、学院では魔術を行使できる場所を限定している。そのため結界には限定場所を除く学院内の魔力感知も備えている。更には警備のために魔術省から専属で警備員が配属されている。侵入者があればすぐにでも見つかるはずなのだ。


「ええ、見張りの帰り際に視線を感じまして……」


「勘違いでは……君がするはずないか。すまん」


「いえ」


 会長はふむ、と顎に手を当てて考え込む。


「なーに、薫君? 誰かからストーカーにでもあってるの?」


 桜花との会話を止め、長瀬がこちらに混ざってくる。桜花はようやく解放されたとホッとした表情をしている。最近は桜花が慣れてきたと悟り、長瀬は会話や軽いスキンシップをするようになった。そのため、朝の間、暇を見つけては桜花の側にいることが彼女の新たな日課となっているようだ。


「違うと思います。複数でしたし、何よりその類なら魔力を発する必要はないでしょう」


 薫が感じ取れた魔力はごく微小だが、結界が警報を鳴らさないのはおかしい。

 一度監視システムを見直した方がいいだろう。


「単にうちの生徒が隠れて練習していたのではないか?」


 金西も手を止めて指摘してくる。


「たしかに、それは否定できないけれど……」


 ほら見ろとばかりに肩を竦め、仕事に戻る金西。恐らく彼は結界のことを覚えていないのだろう。


「まあ、我々としては練習してもらった方がありがたいのだがな」


 会長の口から出る言葉ではないでしょうに。

 フロンティアは学院対抗だから、自分のところが勝つことが望ましいのでそういう気持ちは分かるのだけれど。


「ならば、だ。明日は生徒会全員で見張りをしようじゃないか。そうすれば、薫君の言う視線の正体も分かるのではないかね?」


 会長の提案に異論は出なかった。



 *



 放課後のこと。

 薫はM・Lの社長室を訪れていた。

 授業終了時刻と同時に、総一郎から呼び出しのメールが送られてきたからだ。

 生徒会室よりも広い部屋で、総一郎が来るのを待つ。

 しばらくして、大仰な扉がゆっくりと開いていき、


「いやあ、すまないね。呼び出しておいて待たせてしまった」


「いえ、大丈夫です」


 総一郎が秘書を引き連れてやってきた。

 彼は社長用デスクには座らず、薫の向かいのソファに腰を下ろす。

 秘書は扉の横で待機していた。何かいるかと視線で語り掛けてきたので、首を振って対応する。思えば、彼女が着任してから二年が経過しているが、薫は彼女のことを全く知らないのだ。

 名前は鶴岡麻衣……さんだったか。

 こう言っては何だが、総一郎に会う関係上一緒にいるから挨拶はするものの、鶴岡が会話に参加してくることはないため、接点が薄い。それに要件に関係なく鶴岡自身から薫に話を振ってくることもこの二年なかった。社長室に招かれたとき、お茶を出すか確認する時くらいしか言葉を交わさない。薫と鶴岡の関係はやや冷たかった。


「では、前置きはなしだ。薫、お前は今回の……いや、在学中フロンティアに参加することを禁じられた」


 やっぱりね。

 ここに入室してきた総一郎の顔色がよくないことからある程度の推測は出来ていたけれど、言葉として伝わるものは何者にも勝る効力を持つ。薫は出来るなら桜花と一緒にフロンティアに参加したかったのが本音だ。


「すまない。私も何とか上を説得できればよかったのだが」


「いいえ、それは仕方ないことですし、おじさんの責任ではないですよ。僕が無理言って議題にしてもら

えただけでも感謝しています」


 肩を落とす叔父に、申し訳なさを感じて仕方なかった。


「本当に、すまない。そう言ってくれると助かるよ」


 一度瞼を閉じ、総一郎は感情をリセットすると、彼は会議の内容を語りだした。


「薫の戦闘能力は前例があるということで十分に証明されているため、期末試験の免除が可能となった。しかし、薫には期末試験が受けられない代わりに上が求めてきた条件がある」


「それは?」


 薫は間髪入れずに問う。


「フロンティアの審判だ」


「はい?」


 どうして、そうなった。


「困惑する気持ちは分かる。学院の生徒に審判などさせるのは不安要素でしかない。しかも学院対抗ということから自校を贔屓しているのではと勘繰られる可能性も出てくる。私はそう言ったのだがね。それよりも、この大会は来賓が重役ばかりで、もしも会場内の魔獣が暴走でもして怪我させたりでもしたら、困るのは上だからな。そういう自分勝手な思考がいつの間にか纏ってしまい、反対することも出来なかった。多数決ではどうしてもこちらが不利なのでね」


 つまり、上の我が儘に僕は付き合わされるということなのだろう。


「ですが、その条件を守らなくては期末試験をパスできないのでしょう?」


「そういうことだろうなぁ。きっと」


 総一郎はがしがしと頭を掻く。

 上の圧力を間接的に受けたということだ。お前の存在は魔術界で異例だから、せめて働いて役に立てと言っているようなものだ。

 彼等にとって薫の存在は危険だ。

 魔術省、魔警ともに敵としているS・Kにこの世界に一番不満を抱いているであろう薫が寝返った場合、S・K内部の士気は大幅に上がることは想像に難くない。そうなった場合、彼らですら手に負えなくなるだろう。

 ならばいっそ手元に置いて、使い倒してしまおう。そう言った考えが見え透いているが、今回の件について薫に拒否権はない。いつまでも従う義理はないが。


「じゃあ、断ることは出来ませんね」


「ああ」


「では、その件了承しましたと伝えてください」


「……了解だ」


「話はこれで終わりですか?」


「うん? ああ、他にこれと言って大事なものはないかな。しいて言うなら、桜花とはどこまで行ったのかを……」


「失礼します!」


 薫は速攻で荷物をまとめ、社長室を出ていった。


「……つれねーなぁ」


「社長はもう少し言葉を選んだらどうなのですか?」


 これまで黙っていた鶴岡が毒舌を撒いてくる。


「ま、これは俺の愉しみだからな」


「そんなことだから、お嬢様に逃げられるのですよ」


「薫がいるから出来ることだろう?」


 人見知りのひどい娘だけあって、兄妹のような存在である薫がいなければ家出などしようとも思わない

だろう。そうでなければ、仕方なく家にいて自分とは一切顔を合わせないようにするのではないか。


「それは、流石に堪えるな」


 ないだろうけど、そんなことを考えてしまう時点で自分もそうとう疲れていることを感じた。


「今日はもう仕事は有りませんので、ゆっくりとしてみてはいかがですか?」


 ここ数週間、総一郎は会議の連続で心身ともに疲れ果てていたが今までは空元気が続いてどうにかなっている、というのが現状だった。


「そうさせてもらうかな」


「では、失礼いたします。何かありましたら、内線でお呼びください」


「ああ、その時はよろしく」


 鶴岡は会釈をして、社長室から出ていく。


「さて、お言葉に甘えますかね」


 総一郎はこの部屋の隣にあるプライベートスペースで、仮眠をとることにしたのだった。

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