十章1 監視するもの
フロンティア開始まで一週間を切った。
薫は今日も屋上で見張りをしていたが、今回は一人ではなかった。
「薫。寒くない?」
「大丈夫。そんなに心配しないで」
薫の横に桜花がぴったりと密着していた。
八月も近く平均気温は日々上昇するばかりなのだが、今日は珍しく曇り空で気温も夏としては涼しい。朝なら尚更冷え込むので油断できない。
急激な気温の変化に身体が慣れないのか、彼女は体温を求めたようだ。それでもこちらも暖かくなるので相互効果というものだろう。
まあ、相手が桜花であるなら文句を言いつつも受け入れるのだが。
少し動くだけでも、彼女の柔らかいものに触れてしまう。しかし、そんなことを構うそぶりも見せず、桜花は身体をくっつけてくる。
いくら女性耐性がついているとはいえ、限度というものがあり、これではそちらに気を取られて見張りなんてできやしない。
時刻は五時半過ぎ。
もう少ししたら生徒会室へ戻って、朝の集会の書類をまとめておく仕事も残っている。
早く帰りたいのが本音ではあるが、
桜花を一人置いて戻るのは気が引けるしなあ……
薫は猫のような桜花を横目に、内心でため息を吐く。
数分間、彼女の好きなようにさせ、日が出始めたことを確認する。
そして、目を閉じで精神を集中すると、全身の力を抜き、自然に身を任せた。
あれほど密着していた桜花も、薫の行動を察して離れてくれた。
精神を足元から根を生やすように伸ばしていく。
聞こえてくるのは風の音、揺さぶられる植物たちや鳥のさえずりなど。学院の外では車が行き交っている音さえも薫は感じることが出来た。
学院周辺に張ってある魔力障壁以外の魔力は感じられない。
「異常は……なしっと」
「よかった」
ついでに校内の様子も確認してみた。生徒会室の反応は……
目を開けると、桜花が微笑みを浮かべていた。
「生徒会室には影里さんと、金西。あと、会長がいるみたい」
「副会長がいないってことは、先生のところ?」
「だろうね」
お互いに苦笑。
つい最近分かったことなのだが、逆木先生はこの学院の理事長の娘で、校内の宿舎の一角を陣取って寝泊まりしているらしい。一体この学院の理事は何人いるのだろうか。
「もどろっか」
「そうだね」
二人は校舎へと繋がる扉へと向かった。
桜花が扉を引いて先に中へ。続いて薫が入ろうとすると、
「……」
背後に違和感を覚え、振りかえる。
「……誰かに見られてる?」
ここからかなり離れた林の方に顔を向けた。
先ほどまでは感じることが出来なかった視線を薫は捉えていた。
一人じゃない……な。三人?
「どうかしたの?」
先に階段を下りていた桜花が見上げてくる。
「ううん、なんでもない」
あとで会長に聞いてみよう。
そう思い、薫は扉を閉めて桜花のもとへと駆けだした。
*
「や、やばい。バレタっぽいな」
薫たちのいた校舎から数百メートル離れた林の中で彼は焦っていた。
本来であればこんな距離で自分の姿を視認することは不可能に近い。それが魔力を持たない人間であればなおさらだ。
『おい、あいつって魔術師じゃあないよな?』
仲間の一人がこちらに術を使って疑問を投げてきた。
「ああ、その筈だが……」
『もう気づくなんて、さすがサンドールを打ち取った相手ってことかしらね』
もう一人も会話に混ざってきた。
「ああ、用心しておいてよかったぜ」
男は額に浮かぶ汗を手で拭う。
本来、この手のものは一人で十分なのだが、この学院は魔術障壁が堅い上に監視が厳重で一人で忍び込むのは困難であることから三人で行動する形となった。
今回は南星学院の監視がメインである。
無駄な争いは避けたいのが本音だった。
能力が諜報に向いていることから、敵地に送り込まれるが彼らは別に戦闘が強いわけではなかった。
これからフロンティア開催までの一週間、彼らは薫と見えない戦いを強いられることとなった。
新章です。




