九章5
「いやー一方的というかなんというか」
高等部専用対魔術防壁の張られた観客席で、御川は薫たちの試合を見ていた。
観客席では龍の召喚に驚く生徒の顔がちらちら見られ、薫君の存在をチート扱いする者もいた。何も事情を知らず、ただ嫉む存在がいることに御川は内心腹を立てていたが表に出すことは無い。
ここは南星学院が有する訓練場である。
普段は学生も使用することが禁止されているが、フロンティアが近いことから放課後にも特別に使用許可が出されていた。
今回は授業の一環として、全学年混同の強化訓練である。
前回のフロンティアの会場は西星の中央区にある国立魔術競技場だが、ここの設備はそれに引けを取らないほど充実していたし、何年か前には会場になっていた。これが毎年優秀な魔術師を排出している学校の実力である。
「ほんと、惚れちゃうわよ。彼らのいちゃつきぶりったら」
御川の後ろで長瀬は膝の上で頬杖をついていた。
「おいおい、真里亜。君にはそういうふうに見えるのかい?」
「あら、そう見えないの?」
意外そうな表情を浮かべ、長瀬は御川を見上げた。彼女の言いたいことは分かるのだが。だとしても、行き過ぎだろう。せめて楽しそうねくらいに抑えてほしいものだ。
「質問しているのはこちらなのだが……」
「だって、あんなに楽しそうに戦闘しているのよ。私たちだってあれくらい余裕でいちゃついてみたいと思わないの⁉」
うーん、どうだろうか。
「もうっ、甲斐性なし!」
「何も言っていないだろう」
「顔に出ているわよ?」
「なにっ⁉」
意外と自分は顔に出るタイプなのだろうか?
「それよりも、私たちの順番まだなの? 薫君たちの試合終わっちゃったからもう見るもの無いし……ぶっちゃけ飽きたし眠い」
「ほんと、マイペースだな」
「通常運転」
「たしかにな」
そう言って、御川は苦笑した。しかし彼女の言うことも最もで、長瀬はこの学院最強の魔術師だ。ほかの学生の試合を見たところで参考になる部分は少ないだろう。唯一実力を認めている新人二人以外に興味を抱くことはないだろう。
「しかしだね、そう長いこと寝てもられないと思うぞ」
「あら、そう」
「なんだね? そのやる気のなさそうな声は」
「うん、だって退屈じゃない。私たちは制約者同士だから、同じかそれ以上の実力を持ってるのは薫君と桜花ちゃんのコンビだけだもの」
「分かっている。しかし、これは授業であって、放課後の練習ではない。生徒会として、公私は分けたまえよ」
生徒の代表がだらけながら授業を受けるなど有ってはならない。固いと言われてもここは譲れない。御川は自分の仕事を全うすることを第一に考えている。逆に言えば、授業も生徒会だから受けているという義務感みたいな部分があり、本人自身が希望していないように聞こえるが、別にそういうことではない。
単に責任感が強いというだけだ。
「はいはい。相変わらずそういうことは譲らないのね」
忍がこの顔を見せたら、冗談に載ってくれないからまじめにやろうっと。
「で、順番はいつ?」
「これの後だそうだよ」
観客用に空中に浮かんでいるディスプレイに、次の対戦が映し出されていた。
「あら、本当に早かったわね」
「対戦相手は……三年の五位と二年の七位コンビか」
「ふうん、召喚士と魔女の二人ね。意外とバランス悪いと思っていたけれど、魔女が前衛張れるから問題ない、だっけ?」
「それで合っているよ。彼女もかなりの努力家だ。あそこまで前衛をこなす魔女はそういないだろうよ。素直に尊敬する」
「わたしも、そういうところは嫌いじゃないんだけどな。ううん、別に彼女が嫌いというわけでもないわ。ただ……」
魔女と呼ばれているのは彼らと同じクラスの立花岬だ。
主に後方支援と砲撃型の魔術を得意とするが、先程の会話にあるように前衛――剣術を同時に伸ばしているオールラウンダーだった。魔女と呼ばれているのは、彼女が中等部時代、引きこもり気味で雰囲気が暗く、その割に魔術に秀でていることから長瀬がつけたあだ名だった。
「あの娘、何かと私にがっついてくるのよね」
「それは自業自得というものだよ」
「そんなに魔女の名が嫌いなのかしら?」
「今の彼女には当てはまらない気もするがね」
「そう?」
ちょこんと首を傾げる長瀬。
立花は高等部に上がってから一度も欠席していない。
長瀬が自宅まで突撃し、引っ張り出してきたのが原因であるが、詳しいことは彼女たち以外知らなかった。
「それはむしろ、彼女にとってプラスのはずよ。私は感謝されるはずであって嫌われることはしていないわよ?」
「どうだか」
どうせろくなことをしていないと自己完結した。
「まあ、立花がどうであれ私たちは負けないと思うけれど」
「それには同感だ」
そこで二人の会話は切れ、長瀬は立ち上がった。
何も言わず、二人は近くの階段を降りていった。




