九章4
「薫!」
「了解」
桜花の合図で薫は駆ける。
目標は前方の魔獣。牛の頭と人の身体を持つ、いわばミノタウロスである。太く頑丈な両手には対の斧を持っていた。それは人間二人分に相当する大きさだった。
突撃する薫目掛けて、ミノタウロスは斧を振り下ろす。
速い。
巨体に見合わず俊敏だった。薫は受け流すことも考えたが、腕が持つか分からないので避けることを選択。左足に力を込め、サイドステップ。斧が地面に激突し、そこら一帯を抉る。
「いくら魔力無効だからと言っても、近づけなくては無力だ。ミノタウロス!」
主の命令にミノタウロスは咆哮。地面が軽く振動する。
両手の斧を一度ぶつけ、交互に引いた。刃の摩擦で火花が散り、斧は火を纏った。
「うわぁ、当たったら火傷じゃすまなそうだな」
「なに呑気なこと言ってるの」
薫の背から檄を飛ばしてくる桜花。しかし、その会話には余裕が含まれていた。
「くらえ!」
ミノタウロスは足元に斧を振り下ろす。
途端に斧型の炎が薫に向かって射出された。
火花を魔術で拡大して炎と化す。成程、魔術でつくられたものではないので無効は不可能、ね。
それに続いて、敵のパートナーが詠唱を開始。魔獣の背に三つの魔法陣が浮かぶ。
それは回転をはじめ、磁気を帯びていく。
「フラッシュ」
掛け声とともに閃光がフィールドを埋め尽くした。
「閃光弾⁉」
薫はとっさに目を腕で庇う。
一瞬薫の動きが鈍ると、炎が彼を包み込んだ。後ろにいた桜花も同様に巻き込まれる。
視覚が元に戻ると、辺りは火の海と化していた。
「ふう、倒せたかな」
召喚士はため息を吐く。今年で三年になる彼だが、まさか一年が相手になるとは思わなかった。
でも、二人はかなり腕が立つというので魔術師としては一度戦ってみたいと思っていたので丁度いい。
「しかし、もう少し強いと思っていたのだけれど」
なあ、とパートナーに声をかける。
「あのさ、勝ち誇っているところ水を差すようで悪いんだけど」
「うん?」
彼はクイと顎で指す。
「まだ終わってないみたいだよ」
炎の壁の向こうから人影が二つと巨大な影が一つ、浮かんでいた。
「はあ、私たちもなめられたものですね。まさかあのようなフェイント一つで勝ち誇っているなんて」
土煙が晴れ、二人が姿を現す。彼等の真上には巨大な龍が浮かんでいた。
「本当に桜花は戦闘になるとキャラ変わるよね」
「薫はムカつかないの?」
「うん、答えてくれないんだね」
やれやれ、と肩を竦める。この状態になると薫の言葉でも聞いてくれないことがある。そういう時は収
まるまで待つか、便乗するのが一番と長年の経験から学んでいる。
「まあ、確かに後ろの先輩の言うように、終わってはいませんよ」
賛同するようにウォレストが一鳴き。
「魔獣?」
「ドラゴン……ってなんだよ、おい!」
「あれ? ドラゴンを見るのは初めてですか?」
よく学院でも召喚しているはずなのだが、基本的に薫たちの活動時間は授業中で、それ以外は放課後だがこちらは生徒会の仕事がほとんどで、生徒会室に籠ることが多い。よって知らない学生がいるのも納得できた。
「当たり前だろうが! そんなもん、上位の上位がやっと持てる魔獣だろうが‼」
「はあ、先輩方は私たちがどんな存在か知らないで挑戦してきたのですか?」
「いやだからね、そう焚き付けるような言い方をしなくても。というか組み合わせはランダムだから指名できないよ……」
もはや、ここまで変わると桜花の扱いを変えなくてはいけないな。
薫は内心で決意した。
「じゃあ、先輩。もう一つ、教えてあげます」
薫は舞姫を鞘に納めると、右手のこぶしを突き出した。
『我が契約し龍よ、闇よりその姿を現せ!』
こぶしの先に魔法陣が展開され、それを突き破るように一体の龍が降臨した。
「はあっ? お前、魔術使えないんじゃないのかよ!」
「チートじゃねえか‼」
いやはや、ごもっとも。桜花が居なければ龍なんて召喚できませんとも。
「ダウゼス」
「ウォレスト」
二人は同時に叫んだ。
『いくぞ(わ)‼』
それからの戦況はもはや一方的だった。




