九章2
「今回のフロンティアなのだが……なんとと言うべきか、やっとと言うのが妥当だろうな。フロンティアの種目が増えるらしい」
生徒会室に全員が集まると、すぐさま定例会議が始まった。だが、開始早々会長からの言葉は歯切れの悪いものだった。
議題内容は近く行われるフロンティア。しかも種目増量ときた。
フロンティアの競技種目は基本的には二項目しかない。各学校の同ランク別に分けられ行われるリーグ戦、それと団体戦である。それぞれがランク別に分かれているが、内容は変わらないので今一つ栄えないのが現状だった。
「本来、フロンティアは各学校が生徒たちを勝手にランク付けし、近しい生徒を競わせるものだが……しかし、毎度個人戦やら団体やら見ていても観客が飽きるだろうと上がやっと理解したらしくてね。フロンティアの競技種目は少ないことで有名だったが、今回は競技数を増やすことにしたらしい」
フロンティアを行う目的の一つとしては、今後の進路のために世間へアピールをすることで有名だ。三年生は種目内容がどうであれ、熱意をもって取り組むであろうことが薫にも容易に想像できた。
「今まで要望とか出なかったのが不思議ですね」
「いや、要望は観客だけでなく、学生からも毎年多数寄せられているよ。さっきも言ったように、上がようやく許可したから出来たことだ」
「上って、教育委員ですか?」
「いいや、これに限っては魔術省だね」
基本的に教育委員会は学校の教育に関わる事柄を管理、運営していく機関なのだが、魔術が関わるとその権威は魔術省へと移行される。
彼らがこの国の魔術に対する規則などの全てを手掛けていると言っていい存在だ。
「しかしまた、突然ですね。いつでも変えられそうではありますが」
「確かにそうよねー」
影里の疑問ももっともだ。
フロンティア開催のひと月前に連絡をよこしてくるあたり、何かあるように思えて仕方ない。
「まあ、生徒のほうは目的があるわけだし、モチベーションが高まっていればそれくらいカバーできるがね」
「……多分、お父様が魔術省に顔が利くようになったからだと」
「ああ、成程」
薫の耳元で桜花が呟く。なるほど、確かにあの人ならやりかねない。娘が出るのだから大々的にやってやろうとか、大方そんなところだろうと簡単に想像できた。
「おじさんなら、無理でも通しそうだよね」
薫は総一郎が自分より年上の人達相手に議論している様子を想像して、思わず吹いてしまいそうになった。
「ふむ、MLも発足してから30年。魔術に対して多くの情報を世の中に提供していることは事実だ。それは次第に実績となって積み上げられていく。今ではどこの店でもMLのロゴを見るようになったな。それ程有名な企業の社長の発言は年寄どもも無下にできないのだろう」
腕を組みながら金西は飄々と言う。実際、総一郎は南星学院の理事の一人であり、彼の善意で自社の装備を安く提供している。そのため生徒の大半はML製の魔術装備を使用している。それでフロンティアや世界に飛び立てばMLは今以上のブランド力を付けるだろう。宣伝効果としては十分だった。
「おいおい」
言ってのけた金西に会長は呆れていた。今の発言が職員に漏れれば謹慎どころの話ではない。が、該当する職員は横ですやすやと寝息を立てているため心配ないだろう。
「まあ、なんにしても今年は荒れそうね」
「何から何まで変わるわけだし、どの学校も下手には動けないんじゃないか」
「それだと、ある意味私たちが危ないかもしれないわね」
「ん? どういうことだ?」
長瀬の懸念に御川は首を傾げた。
「どの学校も初めての競技。種目が発表されるのは七月入る前でしょうけれど、私たちの学院が会場となる以上、事前に内容を知る可能性は十分。つまり、仮に私たちが独占で一位を取り続けた場合、確実に標的になるということよ。しかも、この前の放火事件で薫君の存在が表に出てしまっている。いざとなればポイント稼ぎに戦線へ投入されかねないと思うのは必然よね」
「しかし、それは魔術省も理解しているはずだ。公表は同時にされるだろう。それに薫君には申し訳ないけれど、出場に制限を掛けるなど、手を打つはずだ」
「まあね。だけど、事前にアクションを起こさないとも限らないじゃない」
「否定はできんがね」
この件は薫がここ最近気にしていることだった。
「しかし、だ。学校行事に生徒が参加できないのはいただけないな」
「そうですね。それを抜きにしても今回は何が起こるか分からない大会……西の連勝を防げるいい機会かもしれませんよ?」
パソコンで会議の内容を打ち込んでいる影里が言った。
「ふむ。優勝すれば学校に援助金が出るというし、個人でもいくつかの企業から賞もある。稼ぎ時だな」
「金西、お前は……」
金西に全員の冷ややかな視線が向けられる。
「お金にしか目が行かないの?」
呆れたように副会長が肩を竦めた。
「……賞金の話は置いておくとしても、西を落とせるチャンスなのは確かだ。有望株も入ってくれたことだし、一つ優勝を狙ってみるのも悪くない」
「個人枠は上位入賞一番多いのにねー」
「ピンキリなのだから仕方ないよ」
「うちの評価はいい方ですが、戦力に偏りがありすぎます。毎年上級は一位をキープしているのに、中級以下のクラスが負けて総合優勝を落としている」
「つまり、西は一、二年が強いと?」
「そうなのだよ。西は面積が広いだけでなく、ランクが高いほど優遇される学校だからね。金持ちにとっては最高の環境なのだよ」
魔術を実践できるのは高等部からと法律で定められているけれど、それは魔術を使用するのが危険と隣り合わせだからだ。おぼろげな知識のみで行使すると、脳を損傷する場合がある。一説には幼いと制御が間に合わないとか、自我が確立されていないからとか理由は判明していない。
しかし、そのデメリットを金持ちは無理やり回避することができる。設備や、教育環境を整え、英才教育を施すのだ。一般教養のみの初等部後半から負荷がかからないように学ばせていけば高等部入学には優秀な人材が育成されるはずだ。
「つまり、西は優秀な人材を引き抜いていると」
本当であれば、桜花も西に通う予定だった。
「うむ。その点、うちは本当に学びたい者が入学してくることがほとんどだからね。高等部の授業をまじめに受け、自力で這い上がる人が多い。だから、三年や、二年の上級は強いのだよ」
「真の強さは偽りを砕く、ですか」
「おっ、それはカッコいいね」
「成程。東と北はどうなんです?」
さっきから名前が出てこない2校の情報が知りたかった。
「その2校は……非戦闘員候補生が多いから、そんなに戦闘力はないのよ」
あっさりと、副会長が言う。
「北と東は開発や研究がメインの学校だからね。中には興味深い能力の使い方をする者がいるけれど、戦闘能力は総合的に低いな。なにより士気が低い。行事より自らの研究に時間を掛けたいのだろう」
「そうですか」
「だとしても、研究の成果を表に出せるいい機会でもあるから参加しないということはないのだけれどね」
苦笑しながら会長は言ったところで、七時の鐘が鳴る。
「時間だ。ではまた放課後に」
解散という掛け声に全員が立ち上がった。




