八章10
長瀬による広範囲魔術のおかげで幻影は跡形もなく消滅した。
薫と御川は伏せていた身体を起こすと、すぐに桜花たちの方を確認する。
すると、ちょうど桜花が魔獣を呼び寄せ終えたところのようだ。
龍たちは凛々しく、まるで桜花を守る騎士のごとく宙に浮かんでいる。
「さて、僕らも混じりに行こうか」
会長は服に張り付いた砂を払いながら微笑む。
「……そうね。ちょっと様子がおかしいみたいだし、早めに駆けつけるべきだわ」
長瀬はこちらに振り向くことなく、戦況を眺めながら言う。
つられるように二人は戦場に目を向ける。
目を凝らして見ると、サンドールの周囲には膨大な魔力がにじみ出ているではないか。
「そんな……まだあんなに魔力を有しているなんて」
彼が今まで消費していた魔力は、普通の人間の五倍は軽く超えていると長瀬は言った。ならば、これはサンドール以外の魔力を糧として魔術を使用していると考えるのが妥当だろう。
「一体どこから……まさか‼」
御川は戦場とは正反対の位置に視線を合わせる。そこにあるのはもちろん紅葉館だ。
「サンドールの奴、旅客の魔力を吸い上げていたのか」
「すぐに百合花さんに連絡して装置を破壊してもらいましょう」
長瀬は上着から携帯端末を取り出し、耳に宛がう。
しかし、薫は違和感を覚えた。いくら大規模な旅館とはいえ、これだけの魔力を集めると少なからず体調を崩す人が出てくるはずなのだ。それにもかかわらず自分と麗以外、倒れた人間はいない。とすれば、吸引装置の設置場所は――
「会長! 恐らく装置は紅葉館じゃありません。砂峰市全体のほうです」
「なんだって⁉」
「彼があれだけの魔力を吸い上げていたのであれば、旅館内で倒れる人が出てくるはずです。しかし、僕と麗以外誰も倒れていません。とすれば、考えられるのはこの市のどこかに置いてあると推測できま――」
突然、ぞくりと背筋が凍るような感覚を覚えた。
「桜花‼」
説明を中断し、再び沖に視線を戻すと、ウォレストが叩き落されている様子が目に入ってきた。
「つべこべ言っている場合じゃないな! 真里亜、応戦よろしく。私はもう少し回復しないと動けん」
御川は渋い顔をして言う。
「はいはい、あとでちゃんと来なさいよ?」
長瀬は軽く両膝を曲げると跳躍。まるで足場があるかのように空中を蹴り、桜花のもとへ向かっていく。
薫はサンドールの周囲に大量の魔力が補充されていくのが見て取れた。元をたどると砂峰の上空に塊となり、彼のもとへと届いている。そこで薫は一つ、案が浮かんだ。
「ダウゼス!」
『ここだ』
浜辺に隣接している林の中から、長身の黒龍は姿を現した。彼の尻尾には獏がとらえられていた。ガウゼスに変わって、獏の相手をしていたのだ。
「僕らも行くよ」
『了解』
薫が背に跨るのを確認すると、ダウゼスは一鳴きし、地上を飛び立った。




